十七、翰の考察
「月亮ー!」
翰が戸を開けた先には、寝台にうつぶせになっている雪華とその上から腰を揉んでいる月亮の姿があった。
翰は状況が理解できなかった。
「何をしているのですか?」
「翰兄様、月亮様が按摩が得意とおっしゃったので実際にやってもらっていました。本当に上手ですね。身体が軽くなりました」
月亮は顔を引きつらせながら、翰の顔を見ていた。
翰は無言で月亮に近づき、手を引っ張り、雪華から離した。
翰は月亮に、殿下、後で覚えておいてくださいねと笑顔で言っていたが目の奥に恐ろしいものを感じた。
(私、明日死ぬかもな)
月亮はこの後のことを考えると生きた心地がしなかった。
三人は椅子に座り、一旦落ち着いた。
翰は少し照れ臭そうに、
「雪華、申し訳ありませんでした。つい、調子に乗ってしまいました。しかし、本当に兄上に早く来てほしかったのです。信じてください」
翰は真っすぐ雪華の目を見ていた。
雪華もやりすぎたなと反省し、
「翰兄様、私こそ、ごめんなさい。翰兄様を驚かせようと思って、わざと勘違いさせるように芝居をしました。冰夏と月亮様は私の話に乗っただけですので叱らないでくださいね」
翰は先程の笑顔で月亮を見て、努力するよと言った。
その笑顔を見た月亮は、明日の死を覚悟した。
「ところで翰、二人を追ってきた者たちは誰かわかるのか?」
翰は腕組みながら、首を横に振った。
「今回の者たちが何者かはわかりません。しかしこれで、雪華を狙っている組織が最低でも三つあることがわかりました」
「三つもあるのかよ。私は一つしか知らないぞ」
月亮は不満げな顔をしていた。
「一つ目は華ですね。李美華が率いる組織です。特徴は左手首に黒薔薇の入れ墨があります。第一皇子・・・いや、もう皇子ではありませんね。俊智も今ここにいるはずです。二つ目は雪華をさらおうとして未遂に終わった者たちです。捕らえた者の左手首には黒薔薇の入れ墨がありませんでした。この組織の主は予想はできてますが証拠が何もありません。あくまでも私の予想の段階です。三つ目の組織が私と雪華を追ってきた者たちです。こちらの者たちは二つの組織に比べて脅威を感じません。私が雪華を抱えて撒けるくらいですから」
翰は大きなため息をついた。
「いずれにしてももうすぐ新年を迎えます。雪華を狙ってくるでしょう。それこそ、皇上の暗殺も企んでいる者たちもいるかもしれません。自分が皇上となり、雪華を皇后とするために。兄上に書いた文が現実になることも起こり得るのです。殿下、私はあなたの護衛ですが一番は雪華です。あなたを見捨ててまで雪華を守ります」
雪華は第四皇子を前にして何を言っているのだと冷や冷やしていた。
月亮は声を出して笑いながら言った。
「何を今さら。そんなことはわかってる。そうなっても私は恨まないぞ。私にとっても雪華は一番大切な人だ。私は翰より弱い。その時は大いに見捨ててくれ」
雪華は第四皇子という立場でありながら、自分の弱さを認め、命を惜しまない月亮の姿に見惚れてしまった。
月亮は雪華の視線を感じ、優しい笑顔で、私に惚れてしまいましたかと聞いてきた。
雪華は思わず目を背けた。顔が真っ赤になっていた。
翰は二人の雰囲気に苛立ち、
「殿下に雪華は渡さない」
と謎の宣言をした。
(いやいや、あなたは実の兄でしょうが)
二人は目を合わせ、同じことを考えているような気がした。




