九、消えた俊智
後宮では宦官たちが慌ただしく動いていた。
月亮と賢建はその状況を横目で見ながら、皇帝の元へ向かっていた。
(嫌な予感がする。まさか、兄上が?)
月亮の予感は当たっていた。
「兄上が消えた?」
月亮と賢建は思わず大声が出てしまった。
俊智は後宮の外にある離宮に隔離されていた。
部屋の外には皇帝直属の護衛が二人見張っており、常に目を光らせていた。
部屋には鍵がかけられており、出入りするたびに必ず鍵をかけていて、護衛たちもその度に確認していた。
昨夜、食事を届けた者が俊智の姿を確認した。しかし、今朝、いつものように食事を届けに行ったところ、俊智の姿はなかったという。
「おそらく手を貸したのは李美華だろう。俊智一人では逃げ出すことはできない。足取りを追っているが全くつかめていない。二人とも十分注意しろ。何かあったらすぐ報告するように」
月亮は自分のことよりも雪華のことが心配だった。
「父上、その、雪華は・・・」
皇帝は笑みを浮かべながら、
「月亮、安心しろ。真っ先に伝えてある。翰に伝えたら、お前の護衛を放棄して行ったぞ」
と翰の行動に少し呆れているようだった。
(翰が行っているなら安心だな。しかし、主を放置するのもどうなのか)
月亮は物悲しい気持ちになっていた。
「お嬢様、翰様からもらった櫛、すごく梳きやすいですよ」
雪華は冰夏に髪を梳いてもらいながら、楊濤からもらった羅国の歴史書をひたすら読んでいた。
読んでいくうちに、ふと疑問に思うことがあった。
「何でこの皇后様は名前しか書かれてないのだろう?」
冰夏も雪華の読んでいる書物に目を通した。
「確かに所々名前しか書かれていない皇后様がいますね。他の皇后さまは"高貴な生まれの何々家"とか"何々を広めた"とか細かく書かれてあるのに、この方とか名前すら書かれてないですよ」
(どういうことなのかな。書けない?書いてはいけない・・・知られてはいけない?)
雪華が考え込んでいると、冰夏が月亮からもらった簪をつけようとした。
「冰夏、それはつけないで」
「どうしてですか?お嬢様のために贈られた物なのに」
「それは、その・・・大事な日とかにつけたいから・・・」
少し照れながら言う雪華を愛おしく感じ、冰夏は思い切り後ろから抱きしめた。
「冰夏、ぐるじい」
冰夏は雪華の頬に自分の頬を擦りつけ愛情表現を表していた。
なにやら雪華の部屋に向ってけたたましい足音が近づいていた。
「雪華ー」
(この声は!)
咄嗟に防御態勢をとったが遅かった。
翰が戸を開け、雪華に抱きついてきた。
「翰兄様、どうしたのですか」
雪華は翰に尋ねながら、引き離そうと必死になっていた。
「雪華、大丈夫ですか。何も変わったことはないですか」
雪華は何のことだかさっぱりわからずにいた。
「もしかしてまだ聞いていないのですか。第一皇子の俊智が姿を消したのです」
雪華は俊智の名前を聞いてなぜか身の危険を感じた。
「なんだ、翰も来ていたのか」
雪華の部屋の戸の前には家豪も駆けつけたいた。
「翰、雪華のことは任せて、後宮に帰れ。どうせお前のことだ。第四皇子に断りもせずに来たのだろう」
どうやら図星だったようで、名残惜しそうに雪華を見ながら、戻って行った。
さすがの翰も父親には逆らえなかった。
家豪は去って行く翰見ながらため息をつき、困った息子だと言わんばかりの顔をしていた。
「雪華、翰から聞いたと思うが第一皇子が姿を消した。お前に接触してくる可能性が高い。護衛の数は増やしている。なるべく部屋を出るな」
(そう言われても最近部屋にしかいないような・・・。以前みたいに襲われても嫌だし、大人しく歴史書を読むか)
冰夏、頼むぞと言って家豪は部屋を出て、護衛の者たちに活を入れてた。
雪華はため息をつきながら、再び歴史書の目を通していた。
「お嬢様、厠に行ってきますね」
「ごゆっくり」
雪華は寝っ転がりながら歴史書を読んでいた。
「ガタッ」
天井から物音がし、雪華は見ていた歴史書を顔からずらし天井を見た。
雪華が見た天井にはありえない光景が広がっていた。
なんと天井に男がへばりついていた。
雪華が叫ぼうとすると、男は天井からおりて、雪華の口を手で塞いだ。
男は雪華に覆いかぶさっており、身動き一つできなかった。
「声を出すな」
口を塞いでいる男は雪華の見覚えのある顔だった。




