八、敵か味方か
雪華は朝から楊濤のもらったこの国の歴史書を読んでいた。
(今のところは特に気になる話はなさそうね。しかし、この国は昔から平和だったのね。争いがあっても全勝してるし)
外から白狼が声をかけてきた。
「お嬢様、三大家族の者たちが来ました。気を付けてください」
冰夏は少しだけ戸を開けて、合図を送った。
(どうせ暇だし、読み続けるか)
劉家には馬家、夏家、万家の当主とそれぞれの後継ぎと思われる息子たちも同席していた。
「わざわざ娘のために、ご足労いただき感謝します」
それぞれ自慢の一級品を誕辰祝いとして持ってきていた。
「まさか、家豪将軍にご息女がいらっしゃたとは。しかも、第四皇子との婚約も決まっておられる。皇上が認めるほど、さぞ美しい娘なのでしょうね」
「いえ、私としては皇上の目に留まりうれしい限りです」
家豪は何も悟られないよう言葉を慎重に選びながら話していた。
(第四皇子との婚姻が決まっているのだぞ。今さら、私に取り入ったところで何の益がある)
「ところで、我々が出向いていますのに、ご息女はこちらに顔を出されないのですか?」
「申し訳ございません。訳あって、娘は限られた者以外会うことはできません。これは、皇上の命でもあります。もちろん、家の者に聞いても口止めしておりますので、話すことはないでしょう」
三大家族はお互いに顔を見合わせながら苦い顔をしていた。
そんな中一人だけ皆の話に興味のない顔をしている者がいた。
(早く終わらないかな。早く読みたい書物があるのに。どうでもいい話ばかりだし、厠でも行くか・・・)
「家豪将軍、申し訳ないのですが、厠に行きたいのですが」
家豪は従者を呼び、案内するように伝えた。
万昌の父は何か合図をしていたが、無視して従者についていった。
(さすが将軍の屋敷なだけあるな。広いし、手入れもよくされている。ちょっと見て回るか)
「もしかしてあそこにおられるのがお嬢様ですか?」
従者は、そんなはずはないと思いながら万昌が指をさした方向を見た。
しかし、そこにいたのは侍女だった。
従者は安心して、違いますと言いかけて振り向くとそこには万昌の姿はなかった。
(早く見つけないと。旦那様に殺される)
従者は急いで万昌を捜しに走った。
(さて、少し探索するか)
万昌は見つからないように劉家を見回っていた。
(我が家なのにいちいち隠さないといけないのも面倒だな)
雪華は厠に向って歩いていた。後ろには冰夏、白狼、方康がついていた。
「冰夏、あの方たちはまだ帰らないの?というか何しに来ているの?」
「さぁ、私にもわかりませんが、お嬢様を見るためでしょうね。三大家族としてはお嬢様の情報を知っておきたいのではないでしょうか?」
雪華は考えながら歩いていると、上から人が落ちてきた。
驚いて尻もちをついてしまったが、冰夏が頭が見えないように守ってくれていた。
落ちてきた人は目を輝かせ、口を開けたまま、固まっていた。
白狼と方康が男の前に立ち、剣を構えていた。
「私は万昌と申します。ちょっとこの屋敷を探検していただけです。別に何かを盗むつもりもありません」
冰夏は雪華の姿が見えないよう後ろに隠しながら後ずさりしていた。
白狼と方康は万昌に剣を突き付けながら、家豪の元へ誘導していった。
(ちらっとしか顔は見えなかったが美しかった。あれが劉家の隠されている娘か。しかし、なぜ頭を隠している。おそらく、それが隠されている理由だろう。琥珀色の凛とした瞳。一瞬で心を射抜かれてしまった。あの娘に近づきたい)
万昌は白狼と方康に剣を突き付けられた状態で、先程の部屋に連れて行かれた。
「白狼、方康、どうした?何があった?」
白狼は家豪に近づき、耳元で事の詳細を話した。
「で、雪華は見られたのか」
「いえ、安心してください。冰夏が必死に守ってくれたおかげで、顔の一部ぐらいしか見えてないと思われます」
(よくやった、冰夏)
家豪は怖ろしい顔つきになり、万昌を睨みつけていた。
「万昌、どういうことだ。説明しろ」
万昌は跪き、深々と頭を下げた。
「正直に申し上げます。父上に言われ、仕方なくついてきました。家豪将軍の娘にも興味は一切ございません。話が退屈でしたので、厠に行くと言って、従者を撒いてふらふらしていたところ、この屋敷の庭があまりにも美しかったので屋根にのぼって見渡しておりました。足がすべって下に落ちてしまい、そこを見つかって護衛の方たちに捕まりました」
家豪は万昌の言っていることが本当なのか嘘なのかわからなかった。
万昌の父も跪いて、息子の許しを請い、ひれ伏していた。
家豪はどう対処すべきか悩んだが、雪華に秘密が漏れてないことから今回は許すことにした。
帰りの馬車の中で万昌の父はしつこく雪華について何か聞き出そうとしていた。
「父上、何度も言わせないでください。お嬢様の顔は見ていません。護衛たちに隠れて見えませんでした」
万昌の父は残念そうに息を漏らしていた。
(父上に話すものか。どうしたらもう一度あの娘に会えるだろうか)
万昌は馬車の外を見ながら、雪華の姿を思い浮かべるのであった。




