七、香袋と玉佩
「勇敢、お嬢様の誕辰には何をあげるんだ」
方康と勇敢は一緒に剣の素振りをしながら、話していた。
「今までは俺が家でとれた野菜でご馳走作ったり、きれいな景色を見せたりみたいな感じだったからな」
方康は力の抜けた顔をして、
「今までそんなものだったの?劉家のお嬢様に?」
「いや、その時はまさかお嬢様だとは思わなかったんだよ。さすがにきちんと考えないとな・・・」
勇敢は手を止めて考えはじめた。
方康は悪い顔をしながら言った。
「勇敢、香袋とかいいかも。おそろいで持っておくんだよ。二人だけ同じ香の香り。秘密の関係っぽくていいと思わないか。しかも、相手に香を贈ることは永遠の愛と絆を誓う意味もあるらしいぞ」
「秘密の関係・・・。永遠の愛と絆か・・・」
勇敢は方康の言葉に少し乗り気になってきた。
「よし、善は急げ。今から作るぞ」
勇敢は驚いた顔で、
「作るのかよ。作ったこともないし、作り方も知らないぞ」
と言って両手を振っていたが、方康がまかせろと言って、作ることになった。
(さすが、商家の息子だな。話が上手いし、乗せられてしまう)
そう思いつつも、方康と一緒に香袋を作るのであった。
勇敢は雪華の贈り物を渡す機会をうかがっていた。
月亮と雪華のやり取りを見ていた時には、心がえぐれるような痛みを感じた。
「勇敢、今だ!翰様もいなくなったし、今だよ。丁度、雄と交代する時間だろ?」
方康は強引に勇敢を突き飛ばし、雪華の元に行かせた。
(勇敢、頑張れ。私は応援している)
勇敢は方康の後押しもあり、覚悟を決めて雪華の元へ向かった。
雪華は部屋に戻ろう歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「あれ?勇敢、どうしたの?交代の時間?」
雪華の頭には、先程月亮から贈られた簪がつけられていた。
勇敢は手を力強く握りながら悔しさを抑えていた。
気を取り直し、雪華に手を出してと言った。
雪華は言われた通りに手を出すと勇敢は小さな袋を置いた。
「これは・・・。香袋?」
勇敢の手にはおそろいの香袋が握られていた。
「私とお嬢様、同じものを作りました。香も同じです。肌身離さず持っていてほしい」
「いい香りね。ありがとう、勇敢。わかった。肌身離さず持っておくわ」
勇敢はわかっていた。香袋を渡した意味を雪華が理解していないことを。
雪華はいつもの勇敢と違うことに違和感を感じながらも、ありがとうと言って部屋に戻っていった。
(俺はどうすればいい。小蘭を守りたいと思ってここまで来たのに。他のやつらに取られたくないと思っている。頭ではわかっている。小蘭とは結ばれないことが。わかってはいるのに・・・。こんなにも近くにいるはずなのに、小蘭が遠くに行ってしまったように感じる)
勇敢は雪華の後ろ姿を見ながら、心の中で葛藤していた。
部屋の前には家豪が来ていた。
「父上、どうしたのですか?」
「お前に渡したいものがあってな」
雪華と家豪は部屋の中に入っていった。
家豪は雪華に白玉の玉佩を渡した。
「これは琳琅の父、お前からいうと祖父からいただいた玉佩だ。これを身につけていると必ずお前を守ってくれる」
「祖父の玉佩・・・」
祖父の玉佩を手にして、初めて祖父という存在がいたことを実感できた。
以前、祖父母の存在を確認しようとした時、とんでもなく重い空気になったことを覚えている。
おそらく、祖父母はすでに亡くなっており、その原因が自分にも関係していることだと悟っていた。
(叔父上からいただいた、あの『羅国の歴史』には何か手がかりがあるはず。明日にでも早速読んでみよう)
雪華は家豪からもらった玉佩をその場で身につけた。
気のせいかわからないが思ったより重みを感じた。
「あと、雪華。明日は部屋から出るなよ。三大家族の当主たちが訪ねてくる。お前の誕辰祝いを持ってくると言っていたが、目的は琳琅と雪華だろう。厠に行くときは頭を隠せよ。冰夏、雪華のことを任せたぞ。そばから離れるな」
家豪は席を立ち、部屋から出て行った。
その瞬間、冰夏が後ろから抱きついてきた。
「冰夏、何?どうしたの?」
「だって、旦那様がそばから離れるなと」
「そう意味じゃないことわかっててやっているでしょ?」
「私はお嬢様から離れませーん」
雪華はどうにか冰夏を放そうとするが、冰夏がしがみついて離れなかった。




