二十四、長身男の正体
長身男は、まずその刀を鞘に収めていただけますかと言って、首元に向けられた刀をゆっくり手で下ろした。白狼はまだ長身男のことを威圧的な目で見ていたが、白竜にもお願いしますと言われ、仕方なく刀を鞘に収めた。
「私は胡風と申します。私の身分については明かすことはできません。安心してください。雪華お嬢様は無事です」
お嬢様のところまで案内いたしますと言って歩き出した。
それに続くように白狼たちもついていった。
辺りはすっかり明るくなっていた。
白狼は何か聞き出そうといろいろ問いただしていたが、胡風は申し上げられませんと答えるばかりだった。
しばらく歩き続けていると、一本の立派な大木が見えてきた。
胡風はここです、といって陰に隠れていた木箱の中を覗くようにいった。
白狼と白竜は言われるがまま覗いてみたがそこには何もなかった。
「おい、何もないぞ」
白狼が胡風に言うと、そんなはずはないと慌てて中を覗いた。
木箱の中に隠したとされる雪華の姿は影も形もなかった。
今まで冷静だった胡風は慌てだし、
「そんなはずはない、まさか、あの女の元に、いや、ありえない。とりあえずこのことをあの方に報告せねば」
聞こえるか聞こえないかの声で独り言を言ってたかと思うと何も言わずに風のように走り去っていった。
白狼たちは訳もわからず、ただ呆然と立ちつくしていた。
「竜、あいつは何者だ。本当に味方だったのか」
白狼は白竜の両肩をつかみ、激しく揺らしていた。
「兄上、落ち着いてください。兄上は知らないでしょうけど、胡風さんは、昔、家景先生のもとで共に剣術を習っていた門下生です。私の一つ年上で優秀な方でした。ある時から姿を消して、消息がわからなかったので。ただ、すぐに胡風さんだとわかりました。昔と変わらない目をしていましたので。直感的に味方だと判断しました」
「でも、雪華お嬢様はいないし、逃げたし、どういうことだ」
再び、白狼は白竜の両肩を激しく揺らしていた。
「兄上、まずは旦那様に報告しに行きましょう」
白狼はやっと白竜を解放し、行くぞと言って劉家に向かって走り出した。
(兄上はいつもながら激しいな。胡風さんはなぜ雪華お嬢様の誘拐に関わっていたのだろう・・・)
白竜は胡風のことをあれこれ考えながら、白狼の後を追うのであった。
劉家に運ぶよう指示された死体は屋敷内に運び込まれていた。
家豪は呉昭を呼び、静宜を連れてくるよう言った。
「旦那様、お呼びでしょうか」
そこには少しやつれているが、心のわだかまりが少し溶けどこかほっとしている表情の静宜がいた。
「静宜、すまないが、この男に見覚えはないか」
白い布をめくった中には男の死体があった。
静宜はきゃーと叫びながらも恐る恐る男の顔を見た。
静宜はその男の顔を見た途端、腰を抜かし震えだした。
「やはり、そうか。静宜、この男は陸振だな」
静宜は黙って頷いた。憎んでいた男とは言え、いざ、その男の屍を見れば、混乱するでろう。
家豪は静宜にもうよい、ゆっくり休めと言った。
静宜は陸振からの解放を喜んだのか、よかったと少し安心した表情で部屋に帰っていった。
(これはまずいぞ。あの女の手がかりがなくなってしまった。あとは白狼たちが雪華を見つけてくれてたらよいが・・・)
白狼たちがようやく戻ってきた。
「白狼、雪華は見つかったか」
白狼は白竜と顔を見合わせながら起きた事柄すべて報告した。
「白竜、その男は胡風というのだな」
白竜は、はい、そうですと答えると、家豪は難しい顔をして考え込んでいた。
家豪は呉昭を呼びつけ、耳元でこそこそ話し、あとは頼んだと言って屋敷を出ていった。
白竜は白狼に話がありますと言って誰もいない場所へ連れて行き、雪華誘拐事件に母である静宜が関わっていたこと、なぜ事件にかかわったのか、父親が誰であるか、旦那様が許してくれたこと、包み隠さず全てを話した。
白狼は声を殺して泣き、膝から崩れ落ちた。白竜は白狼を抱きしめ、共に泣くのであった。
二人はこの後、実の父親の遺体と対面することとなった。
家豪はある部屋の前に立っていた。中からは男の泣く声が聞こえていた。
(あの声はやはり・・・)
家豪はゆっくりと部屋の中に入っていった。




