二十二、黒薔薇の入れ墨
全てを話終えた静宜は、申し訳ございませんと繰り返し頭を下げ続けるのであった。
琳琅は涙を流し、静宜の手を握ったまま離さなかった。
それを見ていた息子の白竜は静宜の隣に跪き、
「旦那様、奥様、母上をお許しください。罰は私が代わりに受けます。笞刑でも杖刑でも私が受けます。お願いです。どうか、母上をお許しください。どうか・・・」
と頭を床に打ち付けながら懇願するのであった。
家豪は、もうよい、と言って白竜の手を取り、立ち上がらせた。
家豪はいつもの冷静さを取り戻していた。
(陸振・・・ということはあの男が一枚嚙んでるな。待てよ、ということは沈益の冤罪事件にも・・・まさか静宜が沈益の娘だったとは・・・)
家豪は琳琅に目配せをして静宜を椅子に座らせるようにした。
「静宜、先程はすまなかったな。怖かっただろう」
「旦那様、私が悪いのです。旦那様のお怒りは当然のことです」
「いや、私たちが少しでも静宜の話を聞いてあげれていればよかった。そうすれば、こんなことも起きなかったのかもしれない。きっと亡くなった義母上だったら静宜の気持ちを聞き出すことができただろう」
家豪は静宜と白竜に向かって頭を下げた。それを見ていた琳琅も同じように頭を下げた。
その様子を見た、静宜と白竜は慌てて、頭をお上げくださいと言うのであった。
家豪は静宜に聞きたいことがあるがよいかと尋ねた。
静宜は知っていることは全て話しますと答えた。
「静宜、陸振以外誰とも接触はなかったのか」
「はい、一人だけありました。旦那様が家を出られたら時、それを伝えた男がいました」
「顔はわかるか」
「いいえ、わかりません。黒い布で目以外が隠れていましたので」
家豪は少し考え込んで、
「なぜ、その男が陸振の仲間だとわかったのだ」
「はい、陸振が仲間には黒薔薇の入れ墨がしてあると言っていました。会った男の左手首に黒薔薇の入れ墨がありましたのでわかりました」
家豪は驚いた顔をし、動揺を隠しきれなかった。
隣で呉昭が旦那様どうかしましたかと問いかけていたが聞こえていないようだった。
(雪華の誘拐の裏にはとんでもないやつが関わっているな。皇上にも報告しないといけないが、まずはあの男を攻めるか)
家豪は再び冷静な顔に戻り、大きく深呼吸をした。
「呉昭、休憩している護衛を起こし、屋敷の警備を固めろ、誰一人傷つけるな、特に静宜は誘拐事件にかかわった男と接触している。一番危険な立場だ。必ず守れ。次はないぞ。白竜はいつもの合図を送って白狼と合流しろ。あいつのことだ、もう男たちを捕まえているだろう。雪華の誘拐については知らないだろうからそれも伝えろ。雪華は逃げてる途中でどこかに隠された可能性が高い。男たちが雪華を連れていなかったら近辺を探せ。何恩は軍部に行って宴に参加していない者と共に先程の宴の席に行け。周りを取り囲むように伝えろ。あと一つ、ここで見聞きしたことは口外するな。口外したものは相当の罰を与える」
「御意!」
皆、一斉に走りはじめた。家豪は白竜の腕をつかみ、耳元で静宜の件は解決してから白狼に伝えろと言った。
白竜は涙をふき、無言で頷き去って行った。
(静宜親子があの事件の本当の真実を知れば、耐えられないかもしれない。黙っておこう・・・雪華、待ってろ、必ず助ける)
家豪は自分の両頬を思いっきり叩き、琳琅に行ってくると言って再び陸宰相の宴の場に戻るのであった。
家豪は気付いていなかった。一部始終を見ている黒い影に。左手首には黒薔薇の入れ墨が見えていた。