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誕生石へのエチュード  作者: なつ
第三章 エメラルドに調和を求めて
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 8

 甲斐雪人は一人、芹沢雅に案内された一階の奥にある部屋のベッドに座っていた。今はスーツを脱ぎ、(もしかしたら非常に高価なのかもしれない、雅から借りた)ジャージを着ている。靴も入り口のところで脱ぎ、完全にリラックスモードである。

 けれど、リラックスなどできるはずがない。

 結局スージー・F・パールがどこにいるのか、どこへ行ってしまったのか、分からないままなのだ。あの後、皆で開いている部屋を一つずつ見て回る労力を使ったが、見つからなかった。芹沢蘇芳は、犯人はスージーだったと断言し、早々に部屋に戻ってしまった。もしも望めば、甲斐は帰ることができたかもしれない。けれど、体の疲労と、どうしてもやりきれない思いが残った。

 果たして、犯人はスージー捜査官ということで、この事件は終わるのだろうか。パーティー会場を抜け出して、芹沢丁子の首を絞めるチャンスはあったかもしれない。状況を考えると、少なくとも顔見知りの犯行であろうことは分かる。

 それでは、芹沢萌は?

 甲斐と篠塚桃花と日達瑠璃がパーティー会場にいる間に、皆で萌をあの部屋に連れて行ったと言っていた。それから、スージーはそれぞれと面談をしている。一人が終われば、その人に次の人を呼んでくるように頼んでいた。

 最後に篠塚の取調べが終わったあと、甲斐と篠塚はしばらくその扉が見える玄関にいた。そして、会場に戻ってそれほど時間なく、あの窓ガラスが割れる音が響いた。5分も、ないと思う。1分か2分か。そのわずかな間に犯行を行い、さらにエメラルドをあそこへ投げつけることなどできるだろうか。

 可能性は、ゼロではないだろう。

 だが、なぜエメラルドをあそこへ投げる必要があるのか。

 それはトパーズについても同じである。会場のテーブルに置かれていた12個の宝石を盗み、それを戻していく。

 いわゆる、見立て、というものと考えられなくもない。しかし、あれが見立てになるには、あの芹沢菫が見せてくれた本の一節を知らなければ意味をなさない。

 芹沢雅に確認すると、あの一節は、先代の、創始者が考えたものらしく、芹沢の関係者であれば知っていてもおかしくない、という。スージーがそれを知りうる立場にあったのか、けれど雅には分からないとのことだ。知っていたかもしれないし、知らないかもしれない。

 それに問題は、まだ10個の宝石が戻って来ていないことにある。

 そしてあの一節には、ちょうどこのメンバーを指し示しているかのような、文字や表現がある。それが偶然なのか、寓意的な意味があるのか、それも分からない。

 そして、もう一つまだ甲斐には全く分からないことがある。

 丁子が残したメッセージだ。確か、羽と卒という字によく似ていた。縦に並んでいて、右の指が最後、卒の縦線にかかっていた。

 このメッセージにどういう意味があるのか。

 そして、どうしてメッセージを残したのか。

 それが分からなければ、事件は終わりではない。瑠璃が、同じように考えたのか分からないが、彼女も結局帰ることを選ばず、泊っていくことにした。いや、どちらかというと、帰る気力が残っていなかったのだろう。

 この部屋に来る前に、甲斐は篠塚に事件について話を聞こうとしたが、彼女は答えてくれなかった。甲斐の目を見ようとせず、何度も首を振っていた。甲斐はまだ桃花と雅の関係を理解していないが、それでも桃の名を負っているのだ。丁子と萌が殺された状況にあっては、彼女もまともな精神でいられないのかもしれない。篠塚は雅に連れられて行った。

 そして気持ちの悪い、違和感。

 それが何か分からない。

 その違和感の正体さえ分かれば、すべての謎は同時に解けるのかもしれない。



 その違和感の正体が、今まさに甲斐の背後、その窓の外にあるとは、甲斐は知る由もなかった。


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