番人の鎖
ちょっと説明が多いかも………
分かりにくかったらごめんなさい。
魔国それは魔族が住み、魔王陛下の治める国家のことである
。
人間の住む国とは200年前の大戦の後、盟約によって明確に領土を区切り、大国としての確固たる地位を築いてきた。国風としては弱肉強食、強き者が絶対。人間にもそのような風潮がみられる事があるが魔族の場合、絶対的に異なるのは欲や理性による掟ではなく、本能による動物的な掟であるという点であろう。
力を見せつけられれば膝を折らずにはいられない。
強い者に従うことこそ道理。
基本的に魔族に人間の道徳は通じないのだ。
そして、そのカーストの中で頂点に君臨するのが、
『魔王』である。
そして、王たる魔王に絶対の忠誠を誓い、手足として仕えるのが公爵。彼彼女らは国の要職で働き、王の有事とあらば
護衛としてその力を振るう。
公爵が一人、ヴィオレ・ドッチオーネに任せられているのは魔王領の守護であり、それには領内への出入管理も含まれる。
高い壁にぐるりと囲まれている魔王領は貴族達が市民のほとんどを占めており、優美な建物や歴史的に価値のある建造物がたくさん残されている為か、魔国では人気の観光スポットだったりする。観光客を受け入れている魔王領では比較的簡単な書類を記入だけで入領することが出来、領外に住む魔族達も頻繁に利用している。
ヴィオレの導入したこの出入領制度は
彼女の警備長、通称『番人』としての一番初めの仕事だった。
下剋上のまかり通るこの魔国で、当時孤児としてなんの爵位も持たない少女が、前代の『番人』を打ち倒してこの制度を作り義務づけた。さすがに反対意見もあがるかと思われたが、前代『番人』の残虐な性格や、ずさんな管理を思えばむしろ、歓迎されることの方が多かった。
まぁ、理由はそれだけではない。
いくら『番人』が代替わりしようと、変わることのない絶対の掟。
[ある一定の実力をも持たぬ者に魔王領での市民権は認められない]
初代魔王の定めた法律で、(ちなみに言うなら、ヴィオレが公爵になる際に使用した、下剋上制度も初代が定めたといわれている。)魔王領での商業目的や、観光など以外での滞在、定住者には己の実力を見せるテストのような物が義務ずけられている。
それは、試験官によって多少の違いはあるが、
単純に体力や筋力を見せるもよし。
魔法の技術や魔力量を見せるもよし。
自分の得意なものを見せるだけであることが多い。
もともと、魔王領に住んでいる、親が市民権を持つ子ども達は、5才になるとそのテストを受ける。
貴族達は魔力量の多い、魔族同士で婚姻を結ぶため、遺伝的に魔力量の多い子どもが出来、魔力量のみで壁の外出身の者達より格段楽にテストに合格出来る。
では、貴族ではない、そしてテストに合格することもできない弱き者はどうなるのか。
大体のものが集落や村を作り、魔王領の外、魔国の何処かに住むのだが、勿論それに不満を持つもの達もいる。
魔国民全体の総意としては、「弱いのが悪い」であるが、
不満を持った馬鹿な魔族が、壁を越えることがある。
腐っても魔族。いくら弱くともそれは、魔族の基準。
人間で言えば充分強いといえる脚力や魔法を使って、無理矢理に登ってくるのだ。
それに対処するのも『番人』の仕事。
前代は、見つけ次第皆殺しにしていった。そこに、市民が巻き込まれようと、公爵である前代には、地位的な意味でも、物理的な意味でも文句は言えなかった。
そんな傍若無人な振る舞いも『番人』がヴィオレに代替わりしたことで大きく変わった。
まず、今まで形式的な意味合いしかなかった、身元確認や通行書などの面倒な書類を止め、『意味のある』簡単なものに替えて仕事の効率を上げた。
ヴィオレ・ドッチオーネは、その類い稀なる魔力量と魔力操作をもって、正式な手続きをふんだ者と、そうでない者の分類把握に成功したのだ。
正式に書類を記入した者は、通常通りに部下に管理を任せ
壁を超えた、もしくは紛れこんだ者に契約魔法を使い自動で魔法を掛けている。
それは、小指に蔦の絡まるような痣が浮かび上がる、という一見無害にも見える魔法だが、その後の行動が筒抜けになったり、彼女の命令に逆らえなくなったりと、ばっちり有害だ。
契約魔法というのは、あらかじめ契約内容を決め、一人の場合は自らの魔力によって、他者との場合は両者の同意した対価によって引き起こす魔法だ。
条件や対価によって魔法の規模は異なり、人間の世界で、物語りによく描かれる悪魔像に近いのだろう。
彼女に言わせれば
「契約魔法得意な宰相兄弟より上手くは出来ないよ。」
らしいが、魔王領全域となれば充分高レベルだ。
彼女は、魔の門の出入の仕事は自身で行っているが、他の管轄については、自分の選んだ部下達をそれぞれ振り分け、警備を行うことにしている。
その為、部下達は彼女の直属の部下であり兵士ではない。
主は、魔王ではなくヴィオレ・ドッチオーネであり、彼女
に忠誠を誓い真面目に働いてはいるが、気まぐれに
時たまふらっと現れては部下達の仕事を手伝っていくため、部下達としては気が抜けない。
新人の中には、それに気がつかずタメ口をきいた者もいて
先輩たちを戦々恐々とさせた。
…………彼女自身は全く気にしていないが。
そんな大体ふらふらしているヴィオレだが、今日は違った。
魔の門の隣に併設された警備員用の詰所の前で、視察から久々に帰還する友人を待っていた。
友人の名前はコンラット・ワイズ。
この魔国の宰相の一人だ。
弟と二人で宰相を勤めており、書類仕事が得意でワーカーホリックな弟とは違い、外回りを好むコンラットは外交を担当している。
ヴィオレは、懐から金の花の細工が施された懐中時計を出すと時刻を確かめた。
もうすぐか…………
ぼんっ!
時間ピッタリ。
目の前に明らかに自然の物でない、黒々とした煙のようなものが上がった。
それらは直ぐ様霧散していき、中から一人の青年が現れた。
「よ!久しぶり!」
そう言って手をあげたのはヴィオレが待っていた友人
コンラット・ワイズだ。
短い黒髪を後ろに撫で付けて、燕尾服のような服を着ている。ヴィオレに笑い掛ける様子は少年のように屈託がないが、
少年と言うには顔の造形に青年独特の色気を感じさせる。
「お疲れ様。時間ピッタリね」
ヴィオレがそう言うとコンラットは大袈裟に肩を竦めてみせる。
「おいおい。俺が時間に遅れた事があったかよ?」
はいはい。コンラットは以外に細かいからねー…………
私の記憶にある日本人が、確かこんな感じだったような気がする。
苦笑を返しながら、「ないわ」と言い、部屋の中へ案内する。
彼は、私の用意した紅茶とクッキーの甘い香りを嗅ぎ付けると、上機嫌で頬を緩ませた。
「あぁ、これこれ。ヴィオレのクッキーはうまいからなぁ」
「ふふっ、今度はケーキを作りましょうか?」
こんなに嬉しそうにされると、ちょっとにやけそうになる。
もともと魔族に料理して、物を食べるという概念はない。
しかし、私がお菓子がどうしても恋しくなってしまい、仕事の合間に食べたり、たまにお裾分けしているのを見たコンラットが食べたがり、試食させたのを切っ掛けにはまり、見事、お菓子の虜になってしまった。
それからは、一人でお菓子を食べてるのを見つかると全部食べられてしまうため、初めから彼の分も用意するようにしている。
ケーキの言葉に、どんなものなのか妄想を広げているらしく
「ケーキ…………」
とうっとりしている。
え?そんなに??
………………まぁ、いいや。
机の横にある書類用の棚から、
入領用の書類を出して机に置く。コンラットも正気に戻ったのか席について大事そうに一枚目を食べ始める。
「しっかし、この書類いちいちめんどくさいよな!」
目を眇て、書類を掴みぴらぴら揺らすコンラットから、書類を奪い、万年筆もつけてもう一度突き返す。
「契約魔法に特化した貴方なら、書類より、この書類を書くって動作が大事だって分かっているでしょう?」
「まぁなー」
ため息を1つつくと、大人しく書き始めるコンラット。
書いてる間、暇で彼を見詰めていると、なんか邪魔したくなってきた。
静かにコンラットの横に移動すると手を、彼の頬に添える。
彼がビクッとして此方を向いたのを確認してから、距離を詰め唇を耳につけ、動きがなるべく感じられるようにゆっくりと囁いた。
「私としては、貴方の小指に印を刻んで傀儡にするのも、なかなかゾクゾクしちゃうけど………?」
「~~ーーや、やめろ!!!!」
私は、椅子を転げ落ちたコンラットにニヤニヤしながら、
「そう?残念」
というと、コンラットは脱力して動かなくなってしまった。
…………………………………あぁ、魔力籠ってた?
転生したからかは知らないが、
私は、魔力が有り余ってるチート体質らしく、意識しないと色んなとこから魔力がただ漏れらしい。甘いもの好きかはともかくとして、魔族であるコンラットがここまでクッキーにはまったのも、作ってるうちに無意識に魔力を練り込んでるものと思われる。
魔力は溜めすぎても毒なので体がかってに出してしまうのだ。
そして、料理をしない魔族は他で栄養を取るわけだが、魔力を直接食べる者も珍しくない。
そんな魔族達からすれば、私はご馳走に見えるらしく、強く出しすぎれば相手の判断力をも、奪うらしい。
コンラットも油断すると、酔ってしまう。
そして、それに抗おうとする姿がまた!………………っと!いけない、いけない。変なスイッチ入りかけた。
と、とにかく
初めの内は漏れてるのに気がつかず、お腹をすかせた魔族に襲われて大変だった。
回復したのか、
突然コンラットがむくりと起き上がると此方を恨めしそうに見つめてくる。
うぅっ!
基本、魔族に明確な種族分けはない。結構大雑把なのだ。
人間は特徴や性質によって勝手に種族名をつけているようだが、正直魔族の中にはそれを知らない者の方が多いだろう。
コンラットは、人間風なイメージで言えば契約によって
魂とか持ってくタイプの悪魔で、
私は、残念な事に人々を惑わせて好き勝手してく魔女の性質があるらしい。
嫌みな宰相弟に、偉そうに言われた。
これは、性質であるため、どうしょうもないが、
思い返せば確かに、前(前世)よりSっけが増した気がする。しょうがないよー!!なんかウズウズするんだもん!!
「あー!ごめん!これで許して?」
額にキスを落とすと、隠していたマカロンをお土産に渡す。
「こ、これは!?新作か!?」
さっきの怒りは何処へやら。新作の登場にイタズラも
キスも吹っ飛んだらしい。目を輝かせてマカロンを掲げている。
「マカロンって言うの、意地悪しちゃったからお土産にあげるわ。」
「しょうがないな!!許してやるか!」
………単純過ぎない?
城に戻るらしいコンラットに手を振って見送る。
マカロンの入った袋を大事そうに抱えて、彼も前を向いたまま片手をあげた。