第8話「好き?」N
「ケガとかない?」と、マキナは私たちの手を取った。
「僕たちは大丈夫。それよりM3の魔法力がとんでもないみたいで、いくらでも瞬間移動を使ってくる」
マキナは淡々と言う。「アイツ、今の一撃で相当頭やられたと思う。でも油断はできないね。私の魔法のルールとして、結構魔法力勝負で抵抗されるみたいだから」
空気魔法。日常的には化学的に気体を扱うことに利用されるが、人に向けて使うとただの暴力になる。激しい空気の揺れを人間の耳や頭に当てると、頭がぐらぐら揺れた感じがして、すっごく気分が悪くなるのだ。それこそ瞬間移動の魔法なんて使いにくくなるはずだ。
さっき、サラティナはそのマキナの空気魔法に直撃したはずだ。
「ああ、助かったよ、マキナ。ありがとう。ほんとは僕たちがマキナをお祝いしようと……」
サラティナが現れた。
小型のナイフを両手に持っている。怖い顔をしている。
「オーケー、落ち着こうよ」手をしっかりM3の方に向けて、いつでも魔法が使えるよと言った気迫を隠さないマキナ。「別にあなたのことを殺すつもりはないんだよ、こっちも。そっちが何もしなければ、ちょっと話して帰ってもらって構わないんだから」
「そうはいかないんだよね」
「それは、誰かの命令?」
「M2からの命令よ。ああ、やりたくねー……」
「そっか。じゃあ、殺さないであげるから」
マキナが空を飛んだ。
上級の空気魔法使いは空を飛ぶ。足元の空気と、空気抵抗を操る練習が要るらしい。
すっごい勢いだった。瞬きの間にマキナの体は噴水の上に立つサラティナの目の前に。
サラティナが瞬間移動をする。しかしその先はエクスが噴水の水を利用して作った水場になっていた。彼女がそれに気付いたころには津波のような水流が襲ってきていた。
それが直撃することはなく、M3の姿が消える。あと何回消える?
水が激しく広場の外へ流れ出ていく。水と水がぶつかり、四方へ。私たちはエクスの合図で安全な場所へ逃げ、サラティナの出現に備え、ゆっくりと呼吸を取る。
「伏せて!」マキナの声。
髪が引っ張られ、黒い毛先が飛び散る。
いま私が存在していたところに、鋭利な刃物が突き出される。驚きの声を漏らすその前に、私はM3の腹部に強烈な殴打を打ちだした。だが、サラティナはもういない。
「くそ……!」
5センチくらい髪が切れた。うーん……。まあ、命があってよかった。
「大丈夫か!」エクスが私に駆け寄ってくる。「頭……」
「頭大丈夫。とにかく気を付けよう、エクス!」
「頭大丈夫って……」
また現れるサラティナ。こんなに強い魔法使い、見たことない。
ぎゅおん。空気がねじれ、敵の動きが鈍る。マキナが勢いに乗ってサラティナに猛攻を仕掛ける。あの人はけっこう武闘派だ。
既にマキナの背後にいるM3。マキナはそれを察知したのかとっさに振り向き、同時に空気砲を放ちだす。
サラティナの顔は歪むが、ものともしない恐ろしい殺気。エクスもマキナに加勢する。
一瞬消えたかと思うと、尖った刃物が私の目の前に現れる。
「……!」
とっさの瞬間移動。エクスの目の前に飛び、体を支えてもらう。
もう魔法力がやばい。激しいめまいに襲われ、立っていることができない。と思うと、既にサラティナはマキナを襲っている。
「ナミダ!?」
「だ……大丈夫、マキナ、そろそろ逃げよう?」
「……!」
マキナにはまだ戦闘の意志があるようだ。私のことを心配してくれる優しい眼だが、その焦点は、私のちょっと右のほうに合っていたように見えた。そして魔法を駆使して勢いよく私の方に飛んでくる。
「ははっ!」M3のキレイな笑い声。気分悪い。
「マキナ、逃げて……!」
サラティナの剣が私の喉元に触れる。
が、大きな声を上げてサラティナはその場に倒れた。
危機は去った。あっさりと。
「あぶな……ナミダ、大丈夫?」
「マキナ……? 何が起きた!?」
広場の柱の陰から、デウスがのそっと現れた。「私がサラティナを背後から殴ったんだ」
「えっ! こわ! いつからいたの!? いや、こわ!」
「マキナが来る前からいた。ナミダ、おまえは、私が戦闘に加わると文句を言うだろう」
デウスの魔法は戦闘向きじゃない。いつもそう言っているけど……。
「いや、わざわざ隠してなくていいジャン! こわいって!」
「敵を騙すためだ。実際、功を奏しただろう」
「いや、こわ……ううん、ありがとう。助かったよ」
「M3サラティナは死んではいない。アデルに報告しておく。3人は、宿でも取って休んでいろ」」デウスは極めて落ち着いていた。すっごく、静かな感じ。
マキナが言う。「いや、私も行くよ。うーん、デウス、容赦ないね。この女、とりあえずアデルに預けよう」
「ああ。こいつは、聴取ののち処刑されるだろうな……」
「エクス、ナミダがすっごく頑張ったみたいだから、デウスの言う通り宿にでも連れて行ってあげて」
「マキナ。……分かったよ。また合流しよう」
……M2とM1。あと2人ぶん、こんなことを続けるの?
疲れた足を引きずって、エクスと宿に向かった。
「夕食、美味かったな」
「ごはん食べたら元気出た。エクス、ありがとう、3人は強いね、スゴイ!」
「いや、ナミダがいてこそだよ。奴の部屋に連れ込まれた時、君がいなければそのまま死んでいたんだ」
「そうだネ。いや、ちょっと無謀だったなー、みんながいてよかった」
風情のある高い宿だったが、資金は潤沢。ご飯がすっごくおいしかった。外には月が見えた。
「昼も夜も、いいご飯が食べられたね」
私はふとんの中で暖まりながら、隣にいるエクスをぼーっと眺めていた。何度見てもカッコイイ。好みです。
「セラフィタスになってよかったこと、たくさんある」
「……うん。それは良かった。僕も同じ気持ちだよ」
「ずいぶん疲れちゃった……」
「もう寝ると良い。明日デウスとマキナからその後を聞こう」
「あ、明日! マキナの誕生日、どうなるの?」
「もうどうにもなるまい、だよ。結局買い物どころじゃなかったからな」
「そうだよね……」
静かな宿だ。こんな都会の中心でも、夜は静か。
窓から空を見た。雲がなく、キレイ。真っ黒な空に、いくつも星が光って見える。
「うーん……エクス、死んだりしないでね」
「え? 急になんだい?」
「うーん……、ちょっと不安で。3人みんな、メンタル強いからさ。無謀なことをしないか、心配で」
「そうか、そう見えちゃったか? 心配かけてごめん。ナミダが哀しむなら、そんなことはしないよ。ゼッタイな」
ナミダが哀しむなら?
「いや、さ。……自分が大事じゃないの?」
「……うーん……」と、不自然なくらい間が空いて、「自分は好きじゃない」
「えー……私は好きだよ」
「え?」
「うん」
「そうか。ありがとう。大丈夫だ。……ほら、ナミダ、すごく疲れた顔してるよ。使った魔法力のぶんだけ体は蝕まれるんだ。ゆっくりおやすみ。……僕もナミダのことが好きだ。明日はきっと平和だ、おやすみ」
「まじか。超嬉しい。……ああ、落ち着いた。安心安全。エクス信じよう! よし、寝るね! おやすみ」
出来事や気持ちの整理は、明日の私たちが頑張るから。
今日は、この眠さに体を預けよう。
TOPIC……魔法力
どれくらいの強さの魔法を生み出せるかという、魔法使いの能力。
魔法使い個人が持つ魔法力のうち半分以上が生まれつき、才能と言われる。修行で魔法力を高められる者もいるが、修行によりどれくらいの魔法力を得られるかも才能による。
人間の魔法力に上限はないと予想されている。
体の大きさと魔法力の大きさには、若干の相関関係があり、体が大きいものは魔法力が大きい場合がある。




