第96話 『魔界ゲート』のその後……
ドッゴーーン!!! ゴゴゴ、ゴゴゴ……
「いったいどうした! 何が起こった!」
北の砦をあずかるローゼン隊長は兵舎の執務室で椅子から飛び上がり窓の外を確認した。王都からの二人の冒険者たちによって、物資が大量にもたらされたことで、砦建設が再開できると喜び、部下と図面を見ながら砦の建設計画の練り直しを急いで行っていたところである。
窓の外では、兵舎の中からワラワラと兵隊たち飛び出して、砦の中を走り回っている。そしてその先には、砂煙の先に黒くそびえる『魔界ゲート』が見えた。
「『ゲート』は?」
「隊長、『ゲート』が開いた様子は有りません!」
部下のその言葉にほっとする。今魔族が現れたらなす術もなく蹂躙されるのは目に見えている。
「今のは何だったんだ?」
「『ゲート』の近くで爆発があったようです」
「爆発?」
誰かがあんなところに城門爆破用の魔導具でも置いたのか? そう言えば、先ほど物資を届けてくれた二人の冒険者が『魔界ゲート』を見に行くと言っていたが、爆発に巻き込まれてはいないだろうな。なんにせよ『魔界ゲート』まで行って確認は必要だ。計画の練り直しは取り敢えず部下に任せて、ちょっと行ってくるか。
「俺が『魔界ゲート』に行って確認してくる。おまえと、おまえ、俺について来てくれ。後の者は作業計画の練り直しを続けておいてくれ」
兵舎を飛び出して『魔界ゲート』の方を見ると、まだ収まらぬ砂煙の先に人影のようなものが見えた気がしたが、はっきりしない。
「おーい、そこに誰かいるかー?」
返事はなかった。未完成というよりほとんどできていない北側の外壁によじ登り、前を見て、目を疑う。
あれ? ゲートが消えた?
目をこすっても『魔界ゲート』がどこかに行ってしまったのか目の前にあるはずの『魔界ゲート』が見えない。しかも『魔界ゲート』のあった場所から砂が大きくえぐられた跡が二本、砦の方に続いている。
「おい、俺には『魔界ゲート』が消えたように見えるんだが、お前たちはどうだ?」
「私にも見えません」
「私もです。先ほどまでは確かに見えてました」
『魔界ゲート』が消えた?
そうこうしていると、砦の中の連中も騒ぎ始めた。
とにかく急ごう。外壁から飛び降り、『魔界ゲート』の有ったはずの真北に歩いていく。足元を見ながら歩いていたわけだが、ふと見上げると、『魔界ゲート』が黒々と聳え立っている。無い方がいいものなのだが、無ければ無いで不安になる。出現した『魔界ゲート』に安心してしまう。
あれ? 何か傾いてないか? 俺の立っている足場のせいかわからんが、『魔界ゲート』が少し傾いて見える。
「???。こりゃ、どうなってるんだ?」
連れてきた二人も固まっている。
あの若い冒険者の二人はどうなった? わざわざ王都から尽きかけていた食料と資材を運んでくれた恩人だ。先ほど見えたと思った人影はあの二人だったはずだが心配だ。
何はともあれ急ごう。足に力を込めるだけで崩れる砂の上を走り『魔界ゲート』を目指す。
たどり着いた『魔界ゲート』はいつもの通り聳え立ったままだった。いや、やはり少し傾いているのか? 爆発の影響は周囲の砂が吹き飛ばされたくらいで、『魔界ゲート』そのものには影響なかったようだ。
爆発程度で何とかなるならそもそもわれわれは砦なんか作ってないか。
『魔界ゲート』の手前にちょうどゲートの門柱部分がはまるくらいの大穴が二個あいている。この穴は何なんだ? さっきの爆発と関係あるなら穴は一個のはずだが?
二人分の足跡が東の方へ向かいそれから南に回り込むように続いていた。どうやら二人は無事だったらしいが、どうして砦を避けるように去って行ったのかはわからない。あの二人がやったのか? 何のために? 爆破に失敗したから逃げて行ったのか? 訳が分からん。
「隊長、この『魔界ゲート』おかしくありませんか?」
「どうした?」
「どうも、『魔界ゲート』が少し傾いているように見えます。それに扉の向きが逆のような気がするんですが。隊長はどうですか?」
「私は、『魔界ゲート』の位置が少し、砦から離れたように思うんですが」
もう一人連れて来た兵隊がそう言う。確かに位置もおかしい。
『魔界ゲート』の扉部分をよく見ると模様が以前何度か見たものと違うような気がする。
裏に回ってみると、見慣れた模様が浮き出ている。明らかに方向が逆だ。門の前後がひっくり返って扉が北向きになっている。
門が変な具合に位置を変えて方向転換したのも、その結果、魔族が北に向かって流れ出てくるなど想定外だ。これでは今の砦の位置が意味をなさない。後ろから魔導砲をぶっ放しても『魔界ゲート』が邪魔で魔族を攻撃できない。
「どうすんだー。これ!?」
ローゼン隊長の叫びが砦の中まで聞こえた。
王都の第3騎士団本部に連絡する必要がある。建設計画の練り直しも意味をなさなくなってしまった。使者が王都へ到着するには早くて三十日。往復二カ月はかかってしまう。が、出さねばなるまい。
足跡だけを残していなくなった二人組の冒険者たちを呼び戻すこともできない。ローゼン隊長は頭を抱えた。
そのころ、ショウタとアスカは砦を大きく迂回して、王都を目指し砂漠をひた走っていたのだった。




