第90話 収納士、北上する
俺たちは、シルバーとウーマと別れ、北方諸王国に向かう北街道を走っている。
タッタッタッタ、タッタッタッタ。
タッタッタッタ、タッタッタッタ。
王都からかなり離れ、そろそろ街道を行く人や馬車の数もまばらになって来た、気合を入れてトップギアーだ。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
陽も傾き始めたなと思っているうちに、気付けば左手の山陰に沈んでしまっていた。星が瞬き始め、夕闇が迫る街道。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
シルバー、ウーマと別れてから途中水を飲んだくらいで十時間ほど走りづめである。途中いくつもの街を縦断した。街中では、日中だったこともあり人通りや馬車の行き来が街道とは段違いなので安全走行だ。
俺たちから見れば、ぶつかる可能性なんてないのだが、男女の二人組が視野に入ったと思ったら、見る間に自分の方に突っ込んでくるのは、恐怖だよね。引きつった街の人の顔を何人も見ているうちに、そのことに思い至り街中でのスピードはセーブしている。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
タッタッタッタ、タッタッタッタ。
「アスカ、そろそろ休憩しよう」
「はい。マスター」
街道沿いのやや開けたところで、地べたに腰を下ろし休憩する。四角い風呂敷のような布を地べたに広げ、まだ温かい料理の入った皿と飲み物の入ったコップを並べていく。
「アスカ」。フォークとスプーンをアスカに渡す。
「だいぶ走ったが、どのくらいまで来た?」
「四百二十キロほど走りました。旅程の三分の一以上進んでいます」
星の瞬く夜空がきれいだ。簡単な食事のあと、食器などを片付けしばらく休憩。星明りのおかげで、周りはそんなに暗くはない。
「『魔界ゲート』だけど、アスカなら何とか壊せないかな?」
「試してみないと判りません。いつもの斬撃が効かなくても、『ブラックブレード』を使えば何とかなるかもしれません」
アスカは、今は腰から外して横に置いてた剣帯に斜めに吊るした2本の刀を示す。
「そうだな、やってみる価値はあるな。聖剣を使う勇者がどれほどの威力を出すのか知らんが、アスカの全力がそれに劣るとは思えんからな。しかも、長い方の『ブラックブレード+3』は威力三倍ついてるもんな」
「『ブラックブレード+3』で私の全力に近い斬撃を放ちますと、強い衝撃波が必ず発生します。マスターといえどもPA全損の可能性もあり非常に危険ですので、そのときは私のすぐ後ろで衝撃波に備えてください」
俺に危険があるとアスカに忠告されたのはこれが初めてのはずだ。双刀カッコいいと思ってアスカに『ブラックブレード』を何気なく渡したが、そこまでなのか。
「その時はそうするとして、そこまで衝撃波が危険なら、新しい攻撃法にならないか?」
「衝撃波といえども、所詮は空気の密度差の急激な変化にすぎませんから、私の髪の毛一本の斬撃にも劣ります」
さいですか。相変わらずのアスカの俺TUEEEでした。
予定では仮眠も含め六時間の休憩を考えていたが、星明りで周りも結構明るいし、夜中は人通りがない分スピードが出せるので全部で二時間ほど休憩しただけで出発することにした。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
夜の街道はほとんど人通りがないのが良い。気兼ねなく走れる。夜空の星明りで足元も十分明るい。 Yes,I Can Fly! 飛べはしないか。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
だんだんと、東の空が白み始めて来た。
「アスカ、今どのあたりだ?」
「王都から八百キロほど進みました。しばらく行くと、右手に分かれ道が有ります。北方砂漠へは分かれ道の方が近道です。分岐点から砦の建設地点までは約四百キロです。直進しますと、北方諸王国へ進むことになります。普通の商隊ですと、そちらに回って荷物を馬車からラクダに積み替え、砦を目指すようです」
「そいつは大変だな。それはそうと、俺たちはその分岐点で休憩しよう」
ダッダッダッダ、ダッダッダッダ。
右手にアスカの言っていた分かれ道が見えて来た。ここまで来ると周りの土地は灌木と草地がところどころに見えているだけの荒れ地である。
「アスカ、ここで休もう。今何時だ?」
「午前六時です」
ここで食事をして、仮眠をとって六時間。それで正午か。
北の砂漠地帯に入ったら、砂地だろうし、砂虫とやらがが出るかもしれないから、四百キロを十時間では走れんな。走破だけで十二時間から十四時間かかるとすると、砦への到着は良くて深夜、遅くなると明け方になるか。
前回休憩した時と同じように、四角い布を地べたに敷き、その上に食べ物、飲み物を並べ、腹を満たした。手早く片づけを終え、一息つく。
「陽も昇って明るくなってきて寝づらいが俺は昼まで仮眠をとる。アスカは周りを警戒しておいてくれ」
毛布を三枚取り出し一枚を地面に敷き、一枚を枕にして横になり、最後の一枚を体に掛けて目をつむる。目をつむっても瞼の裏側が明るいので、タオルも一枚取り出し、畳んで目の上にかぶせておいた。
横になって仮眠をとっていたのだが、明るさで目が覚めた。目の上に載せていたタオルは当然外れて顔から落ちている。陽はすでに傾き始めているようだ。
「アスカ、今何時だ?」
「午後二時になります」
「二時間ほど寝過ごしたか。そろそろ出よう。俺の寝てる間に何かあったか?」
散らばってしまった毛布とタオルを収納しながらアスカに尋ねる。
「特に何もありませんでしたが、道行く人が何人か、真昼間に道端で寝ているマスターを見て、病気か何かで倒れたかと心配してくれていました」
そいつは悪いことしたな。こっちの世界の人はいい人が多いよな。元の世界だったらたいてい見て見ぬふりだもんな。
後ろを向いて用を足し、すっきり。
「それじゃ、行くぞ」
「はい、マスター」
分岐を右に折れ、しばらく東に向かった後、道は北に方向を変えた。
ところどころ薄く草の茂みがある程度の見渡す限りの荒れ地ではあるが、まだ砂に埋もれた砂漠というわけではない。その中に北への道が1本、ところどころ途切れながら続いている。
三時間ほどそういった景色を横目で見つつ駆け続け、とうとう荒れ地が砂地に変わり始めた。道は既に途切れてしまっている。これからはクエストマーカーが頼りだ。ミニマップもすでに広域モードにしている。
「マスター、砂地に入りました。砂虫に注意が必要です」
「ありがとう。注意しておく。今は何時だ」
「午後五時です」
少し速度を落とそう。本当は速度を上げて砂虫が現れたら振り切ってしまった方が楽かもしれないが、砂虫に興味がある。どんなモンスターなんだ? あの『砂の星』に出てきたような奴だろうか?
ザッザッザッザ、ザッザッザッザ。
ザッザッザッザ、ザッザッザッザ。
俺たちは砂の上を駆けていく。




