第89話 収納士、出発
ラノベなどで収納庫を利用して『運送業をすれば、流通革命だよね』という話が良くあるが、実際に運送業をしている作品はあるのだろうが、俺はまだ読んだことがない。運送業を行うにあたって、転移魔法とか転移ゲートといったガジェットと組み合わせなければ、あまり効率的ではないし物語的にもニーズがないからだろう。
えっちらおっちら、主人公が馬車で移動していたら、物語が進展せず、読者に飽きられ廃れてしまうと思う。
俺たちにはそのような都合の良いガジェットはないが、この足がある。アスカと二人、走り回ってお金が稼げれば健康にもいいし、アスカの機嫌も良くなる。まさに一石三鳥じゃないか。このことに気付いた俺は真剣に運送屋を始めるか悩み始めた。本気で頑張れば二十四時間時速四十キロで走り続けられる。実に一日九百六十キロである。
運送屋はいいとして、そろそろ、アスカと俺の靴もくたびれて来た。俺のは『大盗賊のブーツ』、アスカのは『武術家のブーツ』適当に選んだ靴だったがなかなかいいものだった。どうにかして再生できないものか?
ということで、アスカに聞いてみたところ、
「エリクシールでもかけてみますか? あれは人限定じゃないですよね?」
そういえば、エリクシールの効能は【あらゆるものを癒す】だった。『もの』は『者』ではないが、ほんとにいいのか? 靴にかけちゃったりして。
「マスター、少しずつエリクシールをかけて様子を見ましょう」
「そうだな。まずは傷みの激しいアスカの『武術家のブーツ』からやってみよう」
アスカから受け取った『武術家のブーツ』に、収納から取り出したエリクシールを一滴たらしてみた。
おおおーー! 『武術家のブーツ』が一瞬光ったと思ったら、曲がったところや擦り減っていたところが直っていくよ。汚れまで落ちて新品同様になってしまった。
「マスター、もう少し早く試しておけばよかったですね」
『大盗賊のブーツ』もエリクシールの一滴で新品同様になった。
これでいいのかエリクシール。
翌朝。
俺とアスカは、朝食後、『ナイツオブダイヤモンド』の向かいの商業ギルド本部に出向き、受付で用件を話して北方砂漠にあるという砦に運搬する物資の入った倉庫に案内してもらった。
案内された倉庫は、商業ギルド本部の裏手にある倉庫街の一棟で、大きさは学校の体育館くらいだった。言うほど大きな倉庫には見えなかったが、こちらの世界では大きいのだろう。
倉庫の前には、明らかに騎士の人とその従者みたいな人が三人ほど、あと一人ギルド職員ぽい人がいてわれわれを迎えてくれた。
「おはようございます」
お互い挨拶をし、資材運搬について話し合う。
「冒険者ギルドから来たショウタ、Bランク冒険者です」「同じくアスカです」
「われわれは北方で砦建設を担当している第3騎士団の者です。今日はよろしくお願いします」
騎士の人と従者さんがいわゆる若輩者の俺たちに頭を下げる。こちらの世界でこれまで威張り散らしたような人に会ったことはないが、これが普通なのかどうかは俺にはわからない。
「こちらこそよろしくお願いします」「お願いします」
「私は、商業ギルドで資材管理をしている者です。今日ショウタさま方が搬出される資材の確認を行います」
「よろしくお願いします。それでは、さっそく倉庫の中の物を収納しちゃいますから、倉庫の扉をお願いします」
話は通っているようで何より。
開けてもらった扉から倉庫の中へ入ると、運搬しやすいように資材は大きな袋に詰められて積み上げられていた。コンテナ状に箱詰めされていると勝手に思い込んでいたが、そんなものは人力では運べないので、小分けに袋詰めしているのだと思う。
「この倉庫と隣の倉庫にある資材は、全て北方用の物です」
とギルドの人。この人は書類の束を持っている。
「この倉庫の中の物全部運搬対象でいいんですよね?」
俺は一応の確認。
「はい。手前からできるだけ多くお願いします」
と騎士の人。
「了解です」
ここは久しぶりに、対象物指定からの指定物同時収納かな。
『対象:袋詰め資材』
ここはちゃんと指定しないといけない。指定をちゃんとせず袋だけを収納してしまうと大惨事になってしまうので慎重に。
俺の視界の中で目の前の袋がうっすらと赤く点滅し始めた。
『収納』
一気に千個余りの袋が収納された。中身の取りこぼしは見当たらない。
俺が袋を一つずつ収納していくものと思っていたのか、騎士団の人たちもギルドの人もかなり驚いたようだ。数回収納を繰り返すだけで、だだっ広い空の倉庫ができ上がった。
「これで全部ですが、隣の倉庫もいっちゃいます?」
「え? いえ、これだけで結構です。先方の受け入れが間に合わなくなりますので」
「それじゃあ、行ってきます」
「お待ちください。こちらの書類をお願いします。先方の受け取り確認になります。表のこの部分に受け取り確認者のサインをもらってきてください。それを冒険者ギルドへお持ちいただければ依頼完了になります。倉庫内のすべての資材を収納されるとは思っていませんでしたが、確認が簡単で助かりました」
商業ギルドの人に呼び止められ、書類を渡された。
「ショウタ殿、アスカ殿よろしくお願いします。それと簡単ですが、砦への地図です」
最後に、騎士団の人に道順の描かれた簡単な地図を貰った。
「了解しました。なるべく早く届けます。それじゃあ失礼します」「失礼します」
「それじゃ、アスカ、北の砦へ行くぞ」
「はい。マスター」
商業ギルドを出て王都の西門へ向かって駆けだそうとしたところで、
おお、出ました。久しぶりのクエストマーカー。このマーカーの方向に北の砦があるのか。もらった地図は、もはや不要になってしまった。
王都の西門まで大通りを駆け、道行く人や馬車に呆れられ、指をさされながらの高速走行だ。さすがに王都の連中には俺たちのことは伝わってなかったので、『ショタアスが来た!!』などという失礼な呼びかけはされない。気持ちよく駆けて行くといつの間にか王都の正門ににあたる西門だった。
「マスター、少し寄り道をして、シルバーとウーマに会いに行きませんか?」
アスカはいいよな。あいつらに好かれてるから。
「それもいいな、そうしよう」
チッ! シルバーとウーマの区別が付かないのは変わりない。あいつらそっくりすぎて見分けが付くわけないじゃないか。
「マスター、シルバーとウーマの見分け方をお教えしましょうか?」
なんだか上から目線な言い方だな。分かったよ、頼めばいいんだろ。
「アスカ、頼む、教えてくれ」
「マスターに二頭を見分けることは無理です」
「???」。こいつ何言ってんだ?
「ですから、単純に名前を呼んでやってください。シルバーと言って振り向いた方がシルバー、ウーマと言って振り向いた方がウーマです」
なるほど。一理あるな。負うた子に浅瀬を教えられるとはな。俺もうかうかしとれんな。何がうかうかかは知らんが。
預けたシルバーとウーマは牧草地で元気に跳ね回っていると思ったが、じっとして二頭で日向ぼっこしてた。そんな歳ではないはずなんだが。
アスカが呼ぶとすぐに二頭とも駆け寄って来たので、『シルバー!』と呼ぶと片方の馬が反応した。『ウーマ!』と呼ぶとシルバーが反応することなくもう片方の馬が反応した。良かった、アスカに一杯食わされていなくて。
シルバーとウーマに収納から取り出した野菜やら果物をやって、二頭の機嫌を取ってやったら、俺にもだいぶなついてくれたようだ。首のあたりを撫でてやったら目を細めていた。
名残惜しいが二頭と別れ、係りの人にもう三カ月分の料金を払い馬車馬預かり所を後に。
「三カ月後には二頭を迎えに来られるから楽しみだな」
「はい。マスター」
アスカも機嫌よさそうで何より。




