第85話 サヤカとモエ
騎士団総長兼第1騎士団長ポーラ・ギリガンに徹底的にボコられた勇者ヒカル。彼の大事をとりダンジョン訓練の出発が一日延期された。
ショウタが賢者のサヤカと聖女のモエと再会?した日の翌々日のこと。
真の勇者一行は三人だけで同じ馬車に乗り、第2騎士団の面々に連れられ、比較的王都の近くにあるヤシマダンジョンに向かっている。
今回のダンジョン訓練にはトリスタン第2騎士団長は同行していない。表向きは勇者ヒカルに訓練で怪我をさせてしまったことで自主的に謹慎していることになっているが、勇者に同行しなくて済む口実ができてほっとしてたりする。
実力さえあればその辺のところは大目に見られる騎士団であるが図に乗っていい加減なことをしていると、ポーラ・ギリガン総長の鉄拳制裁が待っているため団員たちはそれなりに仕事をこなしている。
連なった馬車は西門から王都を後にし、いったん南へ下ったのち東へルートを取り、途中の宿場町で一泊後、翌日の昼過ぎにヤシマダンジョン前に到着予定である。
「ねえ、サヤカ。あれどうにかならないの?」
同じ馬車に乗る同乗者、勇者ヒカルを顎で指し、賢者サヤカに言い募る聖女モエ。
「あたしに言われても、どうしようもないよ。無視しときゃいいじゃん」
「うっとおしいじゃない。あれ見てよ。ブツブツブツブツ、ずーとだよ、あれ」
ヒカルはポーラ・ギリガンの言った通り骨折はなく、打ち身ねんざの類はポーションと聖女モエの『治癒の光』で治ったが、心が折れてしまっていた。馬車に乗る前から『青き稲妻の大剣』を抱きしめ独り言をつぶやいている。
「仕方ないじゃん。騎士団で一番えらい人に訓練でボコられたって聞いたよ」
「今まで、自分は勇者で一番強いと思ってたんだろうね」
「ボコられて、おっちょこちょいが治ればいいけどねー」
「ムリでしょ。それよりサヤカ聞いた?」
「なにを?」
「マリア王女の妹の話よ」
「聞いた、聞いた。すごいよねー。死にかけてた人が元気になったんでしょ。エリクサー? エリクシール? ゲームに出てくる薬だよね。そんなのあるんだ。買ったら高いんじゃん?」
「そもそも、どこにもないから売ってないらしいよ」
「じゃあ、どうやって手に入れたの?」
「それがね、そのエリクシールを作った人がいたのよ。その作った人っていうのが、実はかなり若い男女の錬金術師なんだって。その人たちが死にかけてたお姫さまのために献上したんだってさ」
「へー、そーなんだ。すっごい人っているもんよねー。でも、あたしたちだってすっごい人なんじゃん? なにせけん者さまとせい女さまなのよ」
「目の前のアレを見てると、実は違うんじゃないかなーて思わない?」
「少なくともアレは違うかなー」
「でしょ」
「モエー、あしたのダンジョンどんなところか聞いてる?」
「普通のダンジョンなんじゃない。私も詳しくは聞いてないわ」
「あたしねー、最初のころ、くもが大きらいっだったの」
「私は今でも駄目よ」
「それがねー、今はそうでもなくなっちゃった」
「どうしたの?」
「それがね、くもって、燃やしちゃうとチリチリてちいちゃくなってひっくり返って死んじゃうじゃん。あれってなんだかおもしろいよね。モエもそう思うっしょ?」
「サヤカ、怖いよー。あなただんだんあっちの方の人になって来てるんじゃない?」
「そうかなー?」
「そういえばサヤカ、あなた一昨日かな、一緒に買い物してるときピアス買ったっていってたじゃない。私まだ見せてもらってないんだけどどんなの買ったの?」
「見たい? これがそう。着けてみたらちょっと重いのよ。買ったときはそうでもなかったのに」
そういって、サヤカがミニスカートにまで切り詰めてしまった国宝級のローブのポケットからなにやら取り出した。
「サヤカ、あなたこれどう見てもブローチじゃない」
「ええー、うそー。針の先が尖がってるし、着けにくいと思ったらピアスじゃないのか。アハハハ」
「アハハハ」
自分の世界に沈み込んだ勇者を忘れ、たわいのない話で盛り上がる賢者と聖女だった。
勇者一行はヤシマダンジョンでの三日間の訓練を無事終え、王都への帰途に就く。ダンジョンでの初日全くモンスターに近寄ろうともしない勇者ヒカルはすぐに戦力外とされ、ダンジョン前の宿舎に戻された。それに引きかえ、嬉々としてモンスターを焼き殺していく賢者サヤカは周囲が若干引き気味になるほどの目覚ましい活躍だった。
ダンジョンからの二日の旅程を終え、王宮に帰り着いた勇者一行は、それぞれの部屋に引き上げ、今回のダンジョン訓練は終了した。
勇者一行の帰還後の王宮。
体の汚れを落とし汗を流してすっきりしようと賢者と聖女の二人がそろって王宮内の浴室の一つで入浴中。
今は二人並んで体を洗っている。
「やだー、もう。ほんとにここのシャンプー泡立たないよ。コンディショナーもないから髪の毛がゴワゴワだよ」
「モエ、仕方ないじゃん、ここ日本じゃないんだし」
「サヤカは妙に諦めいいよね」
「あたしは、あきらめのいい女なの」
「そういうのって将来都合のいい女になるんじゃない?」
「それでもいいじゃん。幸せならば。ハハハ。自分で言っててチョーウケルー!」
「サヤカ背中洗ってくれる? 後で私も洗ってあげるから」
「いいよー。……」
「前はどうする?」
「前はいいわよ、自分で洗えるし」
「あれー、モエのおっぱいしばらく見ないうちに大きくなってない?」
「なってないわよ。サヤカの方がよっぽど大きいじゃない。エイッ!」
「キャー。どこさわってんのよ。こっちもエイッ! ハハハ」「ヤダー! モウ。エイッ!」
「エイッ! ハハハ」「エイッ! ハハハ」……「ハア、ハア」「ハア、ハア」
「疲れたね。そろそろ、湯船につかろ」
「ねえサヤカ、聞いた?」
「なにを?」
「この前話してたエリクシールを献上したっていう錬金術師の二人組のこと」
「どうしたの?」
「私たちがダンジョン行っている間にエリクシールのお礼にこの王宮で貴族になったんだって」
「へー、そうなんだ。すごいじゃん」
「それでね、その名前が、男の方がコダマ子爵、女の方がエンダー子爵っていうんだって。コダマってあの児玉翔太と同じなんだけどまさかね」
「モエ、あんた考えすぎ。この前行ったダンジョンだってたしかヤシマダンジョンじゃん。日本風の名前なんてたくさんあんのよ。たまたま日本風に聞こえるだけじゃん」
「そうかなー。そうなんだろうなー。そのコダマ子爵の方は着てるものは立派だったらしいけど坊主頭だったんだって」
「何それ、ダサー」
「それで、エンダー子爵って女の方は、すんごくきれいな人だったんだって」
「そうなの? あたしも見て見たかったなー。ザンネーン」
「わたしも。ザンネーン。アハハハ」「アハハハ」
元女子高生、賢者サヤカ、聖女モエ。二人の笑い声が王宮の浴室に響いた。
「疲れちゃったね、そろそろ出ようか」「うん」




