第73話 馬子(まご)にも衣装
賢者と聖女に見つからないように店を出た俺たちだったが、俺のテンションがダダ下がってしまったので、いったん宿屋『ナイツオブダイヤモンド』に帰ることにした。
シャンデリアのぶら下がるエントランスに入ると、カウンターの奥から支配人さんが走ってやって来た。
「ショウタさま。商業ギルドのリストギルド長がショウタさま方にギルドの方にお越し願いたいということなのですが、よろしくお願いします」
「分かりました。伝言ありがとうございます」
そういうことなので、踵を返し、正面の商業ギルド本部へ。
ギルドの玄関ホールに入ると、三人並んだ受付の女の人の真ん中の人(今日は青服ではない)に先に挨拶された。どうもこの人が、三人の中のリーダーのようだ。
「こんにちは、ショウタさま、アスカさま、シャーリーさま。お待ちしておりました。さっそくですが、二階の応接室までお願いします」
両脇の二人が頭を下げる中、真ん中のお姉さんに二階の応接室まで案内される。ギルド長のリストさんは先に座っていた。
一通りの挨拶をお互いに交わした後、
「昨日いただいたエリクシールですが、さっそく王女殿下にと王宮にお届けしました。すぐに服用されたそうです。先ほど王宮から連絡があり、王女殿下が奇跡のように回復されたとのことです。誠にありがとうございました」
そういって、リストさんに深々と頭を下げられてしまった。
「もう礼は受けとっていますから気にしないでください。いやー、王女殿下が回復されほんとによかったですね」
「それで、エリクシールの献上に対して追って王宮から褒賞があるそうなのです。おそらくですが一週間内外で褒賞式が王宮で開かれると思います。
その際に、国王陛下より褒賞が授与されますので、お二人にはそれ相応の衣装が必要となります。ですので、ショウタさま、アスカさまお二人に早急に礼服をあつらえていただきます」
ナンデストー?? ホワイ? なんで俺たちが?
「王宮に献上したのは、ギルド長さんですよね。私たち関係ないじゃないですか?」
「もちろん関係大ありです。何せお二人は伝説のエリクシールを作れる若き大錬金術師さまなのですよ。王宮であれなんであれ、そんな方々を放っておくわけがありません」
「私たちがあれを作ったって教えたんですか?」
「もちろんです。当ギルドの手柄にはできませんので」
いいんですよ。おじさんたちの手柄で。高級スイート使い放題にしてもらったし、食事代もタダだし。とは言え、こうまで言われては仕方ない。断ってはギルド長さんにも迷惑がかかる可能性もあるからな。
「分かりました」
「そう言っていただき、ありがとうございます。それと褒賞の授与に当たって、お二人の姓が必要ですので、お教えいただけますか? 無ければ、適当にお作り下さい。こちらから王宮の方へ伝えておきますので」
「私の姓はコダマです。アスカはどうする? たとえばアサッテとかどうかな?」
横目で睨まれた。
「私は、エンダーでお願いします」
エンダー? 何だろう。せっかくいい名字を思いついたのに。本人がそう言うんだからいいけど。
「承りました。それではさっそくですが、隣の部屋に仕立て屋を呼んでいますので、生地などを選んでいただき寸法を測らせてください」
「お任せします」
そういうことになってしまった。
服は与えられたものを着とけばいいけど、王さまの前での立ち居振る舞い? どうすんの? そんなの日本の義務教育に無かったよ。中学をそれなりの成績で卒業した俺、しかも帰宅部。そんな俺にはそのような余技は無い!(キリッ!)
隣の部屋にアスカとシャーリーを連れて入ると、これぞ仕立て屋さんといった感じで、ねずみ色のチョッキに待ち針を何本も刺し、片手にメジャーを持った女性を含む数人の人たちが待っていた。
「よろしくお願いします」「します」
それ以降何を言われ何を言ったか記憶はない。
でき上がりは三日後。『ナイツオブダイヤモンド』に届けてくれるということだけ後でアスカが教えてくれた。
服が届くまで三人で王都の色々なところを見て回り、三日後に部屋に届けられた仕立て上がりの服を着て見た。服を届けてくれた人の伝言で、明後日の朝、王宮から迎えの馬車が九時ごろ『ナイツオブダイヤモンド』の前に来るそうだ。
俺の衣装は、上着は肌触りの良い濃いグレーの生地で、形は、膝までのハーフコート? 襟元が詰襟風で、黒いラインが縁に入り、それがコートの裾まで続いている。黒のボタンで留めた後、サッシュ風の幅広ベルトで締めるようになっている。後ろの真ん中に切れ目が一本。左右の袖口にはこれも黒い飾りボタンが四つ付いている。
ズボンは、黒のオーソドックスなスラックス。上着の下に着るシャツは、純白でしっかりしているものの非常に柔らかい。靴はてかてかに磨き上げられた黒のエナメル靴。そんな感じだ。
アスカの衣装は、俺と同じような膝までのハーフコート。ただ、色が青色で、俺の黒いラインの代わりに紺色のラインが入っており、付いているボタンの色も紺色、同じ色の幅広ベルトが付いている。ズボンは、ややベージュっぽい白のスラックス。シャツは俺と同じ純白。靴は、白。結局俺の衣装の色違いなのだが、二人で姿見の前に並ぶと、結構様になっている。
二人の試着を手伝っていたシャーリーが何故かうっとりしている。どうしたシャーリー。帰ってこい。
「お二人とも、素敵です。アスカさんは分かっていましたが、ご主人さまはちゃんとした格好をされると、凛々しくてすごくカッコいいんですね」
シャーリーさん。正直に馬子にも衣裳と言っていいんだよ。
一通り確認を終え、普段着に着替える。汚してはいけないので二人の衣装は念のため収納しておいた。
昼過ぎ。居間でまったりしていると、アンジェラさんが訪ねて来た。
シャーリーの淹れてくれたお茶を飲みながら、駄弁っている。
「ショウタにアスカ、あなたたち王宮から褒美を貰うんだって?」
「アンジェラさん、耳が早いですね」
「まあね。私の知人てのが王宮に勤めているのよ。おそらく、お金もだけど、爵位ぐらい貰えるんじゃない?」
「何であの程度のことで?」
「あの程度ってことはないわ。それに誰だって、エリクシールを作れる錬金術師は取り込みたいでしょ」
「そうなんでしょうね。理解はできます」
「昔なら、爵位には領地もついてきて面倒な面もあったけど、今は領地の代わりに年金だけだから負担にはならないんじゃない」
「ふーん。それでアンジェラさん、今日いらっしゃったのは夕食ですか?」
「そうなんだけど。それともう一つ、私の知人が一度あんたたちに会いたいって言ってるわけ」
「別にいいですよ。シャーリーと一緒でいいなら、明日にでもうかがいいますが」
「そう、そうしてくれる。ありがとう」
「明後日、アスカと私は王宮に行くんで、アンジェラさんにシャーリーのことを見ていただきたいんですがよろしいですか?」
「それくらい構わないわよ」
「それで、アンジェラさんの知人の人ってどんな人なんです?」
「昔、私の錬金術の師匠だった人」
何故に過去形?
「今は違うんですか?」
「昔、師匠と喧嘩して、飛び出してきちゃったの。今は和解してるけどね。破門が許されてる訳じゃないから師匠だった人なの」
「話したくなければいいですが、何でお師匠さんと喧嘩を?」
「別に話していいわよ。昔のことだから」
王都商業ギルドのギルド長、ハインリッヒ・リストがまだ若かったころ、ポーション関係の仕事をギルドで担当していた彼は、注文の手違いから、王宮から注文されたポーションを期限内に揃えることが絶望的で、途方に暮れていた。
当時、商業ギルドに師匠の作るポーションを卸していた関係で、ハインリッヒと親しくなっていた彼女は見るに見かね、師匠が不在だったこともあり、無断で師匠の素材を使用し、ポーションを揃えてやった。
ハインリッヒは感謝してくれたが、彼女の師匠は、ポーションをまだまともに作れない未熟な彼女が無断で素材を使用してポーションを作り、それを外部に流してしまったことに立腹し、彼女を破門した。
「そういうことなの」
「それで、リストさんが今でもアンジェラさんに頭が上がらないんですね」
「まあね」
そういうわけでアンジェラさんはそのままここに泊まり、翌日、一緒にアンジェラさんのお師匠さんのところに行くことになった。




