第61話 王都セントラルの駅舎にて
王都セントラルの正門にあたる西門に到達したのは、陽もだいぶ傾いた時刻だった。王都をぐるりと囲む運河にかかる橋を渡ると西門である。その運河の手前にはこれまで見た駅舎の数倍はある駅舎がある。ターミナルとしての機能をはたしているのだろう。
王都内にも駅は何個かあるが、どれも停車専用で、馬車や馬を預かる機能はないそうだ。時間も時間だったため、この駅舎で一泊して明朝王都に入ろうということになった。
シルバーとウーマはここに預けていくことになる。馬の預かり所の係りの人に料金を払い、二頭を一カ月間預かってもらうことにした。期限が過ぎた場合は当然超過料金が発生する。払えなければそのうち馬は没収される。
二頭とも名残惜しそうにしていたものの、アスカが首のあたりを撫でてやると、おとなしく引かれていった。
「シルバーとウーマもよくアスカに慣れてるよな。アスカもあいつらに羨ましいくらい好かれてるよ。いいなー」
「そうですね。マスターのように、シルバーとウーマの区別がつかないわけではありませんから」
「どういう事? シルバーがいつも右に繋がれてた方で、ウーマが左だろ?」
二頭ともよく似た栗毛で見分けづらいが、俺にはちゃんとした識別方法があるのだ。
「マスター。シルバーとウーマはいつも休憩するたびに、蹄の減り方の関係で左右を入れ替えてたんです」
驚愕の事実。てっきり固定のフォーメーションと思ってた。
「マスター、名前も憶えてくれないような人に、シルバーとウーマが懐くと思いますか?」
まさに正論です。
「ご主人さま、私はご主人さまを信じてますから平気です」
これはフォローなのか? そりゃさすがに、シャーリーの名前を憶えてるし区別はつくぞ。
「ありがとう。シャーリー。さて、みんな、駅舎の中に入って今日の宿を取りましょう。ここの駅舎はまた大きいですね」
ここまで街中の宿屋や道中の駅舎の宿泊所に泊まってきたが、駅舎の宿泊所の利用料は、どうしても観光地価格でそれなりに高額だった。しかし、ここの駅舎の宿泊所はリーズナブルプライスだった。
取った部屋は、二部屋で俺とアスカが一部屋、残りの三人で一部屋の部屋割りである。王都への移動中いつもこの部屋割りなのだが、最初、ヒギンスさんとフレデリカ姉さんはそれはないと言って反対していたが、俺とアスカと残り三人、俺とシャーリーと残り三人、俺一人で一部屋、残り四人で二部屋の選択となり、経済的理由からこういう風になった。
そもそも、反対した二人も俺とアスカはいつも一緒に行動しており、それでどうにかなると思っていたわけではなく、単純に周りの目を気にしただけだったようなので、そのうち慣れてしまったのか何も言わなくなった。
部屋に入って、少し寛いでシャワーを浴びたりしていたら、いい時間になったようで、隣の部屋の三人を誘い、みんなで駅の食堂に夕食を食べに行くことにした。
席順は、俺が壁側の席の右、俺の左にアスカ。向かって左からヒギンスさん、アンジェラさん、そして幹事席のシャーリーの順。これがアスカ的にはベストな配置らしい。アスカにはだれも逆らえないので、いつもこの順だ。
「ヒギンスさん、明日は王都入りで、久しぶりに息子さんと会えますね?」
「連絡もせずに来たから、驚くと思うわ」
ニコニコして嬉しそうだ。
「息子さんの住んでる場所は分かるんですよね?」
「住所は分かるけど、その住所がどこかわからないから、誰かに聞きながら訪ねるしかないわね」
「アスカ、王都内の地名なんか分かるかい?」
「さすがに、情報を未入手なので、代表的なもの程度しか分かりません」
代表的なものなら分かるのかよ。
「ヒギンスさんの息子さんは何やってる人なの?」
「食べ物関係の問屋を始めたそうで、何でも、中央市場の近くで商ってるとか手紙に書いてあったわ」
「あら、中央市場なら知ってるわよ。今も昔と変わってないなら、王都の東側、セントラル港の近くのはずよ」
昔王都に住んでいたというフレデリカ姉さんが昔の知識を披露する。
「セントラル港なら分かります。この駅から乗合馬車が出ています」
キター! サスアス。知ってると思ったよ。
「それだったら、みんなで港を見に行きましょうか。ヒギンスさんの荷物もありますし」
「ショウタさん。助かるわ。ありがとう」
「いえいえ、お安い御用です」
「ショウタ。私は昔の知り合いのところに顔を出さなくちゃいけないから、一緒には行けないわ。ショウタたちはどこに泊まる? 分かれば、連絡するけど」
「どっかいいところありますか?」
「そうねえ、昔なら『銀馬車』って名前の宿屋がお勧めだったけど、今はどうかしらね。場所は王都の商業ギルド本部にいけば分かると思う」
「マスター、『銀馬車』ならわかります」
やっぱりね。
「それじゃあ、われわれはそこに泊まります。アンジェラさんが都合がついたら連絡してください」
「わかったわ。もしお互い連絡がつかないようなら、商業ギルドに言伝てておくから。何かあったらフレデリカ・ハザウェーおばさんの名前を出せばいいから」
「了解しました。」
確認事項はこんなところかな。
食事をしながらの雑談の合間に、近くのテーブルに座った商人風の人たちの話が聞こえて来た。
「王都のどこかで、ポーションを買い占めてるらしくて、うちに入ってくるポーションの量がめっきり減りまして、これではご贔屓になってるお店に申し訳なくてねー」
「そちらもそうでしたか、私の地盤の南の地方でも一緒ですよ。それでも、迷宮都市のキルンには、大層な錬金術師さんがいて、質のいいポーションを作っているそうですよ。そのおかげで、あそこでは、個人が買うポーションの値段は上がってないそうです」
「その噂は、私も聞きました。なんでもその錬金術師さんはかなりお若い方みたいですよ。よほど優秀な方のようですが、少し変わった方だそうで」
ちょっと、ここ暑くないか?
「坊主頭で、いつも街の中を走り回ってるとか」
やっぱり、暑いよ。
「そりゃ傑作だ。ハハハ!」。汗;
「その方も走り回ってるんですか? 私の聞いた噂は、キルンの街中を二人組の冒険者がすごい速さで駆けまわっているってのがありますよ。キルンの人は走るのがよっぽど好きなんですかね。ハハハ!」
「ハハハ!」「ハハハ!」「ハハハ!」。盛り上がって何より。
シャーリー以外の食事の手が止まってしまった。ハハハ!
商人風ではなく商人さんのグループのようでした。悪事じゃなくても噂は千里を走るんだと実感したよ。




