第46話 調査依頼
迷惑そうなジェーンさんとしばらく雑談していると、
「ちょっと騒がしいと思って降りて来てみれば、またおまえたちか」
『キルンのゴリラ男』こと、冒険者ギルド、キルン支部のギルドマスター、ギリガン氏ではありませんか。
失礼だが、特徴を捉えた良いあだ名だ。まさに名は体を表す。
「おまえらのところに人をやってこっちに来てもらおうと思ってたとこだったんだが、ちょうど良かった」
「何ですか?」
気分は夏休み。今はまったり月間中なんで、あんまり仕事っぽいのは嫌なんですけどー。
「ちょっと、俺の部屋に来てくれ。そこで話をする」
なんだか話が重そうだ。嫌だなー。
とはいえ断るわけにもいかないので、おっさんの後に続いて階段を上っていき、ギルマス執務室でソファーに座ってギリガンさんが話し始めるのを待っている。アスカはいつものごとく俺の後ろに立って控えている。
「失礼しまーす」
そう言って、ギリガンさんの秘書のローザさんがお茶を乗せたお盆を持って入ってきて、カップを三つ置いて出て行った。
「まず、茶でも飲めよ。そっちのアスカは座んなくていいのか?」
「大丈夫です。問題ありません」
「ま、本人の勝手だからいいが」
「それで、私たちに話というのは?」
「実は数日前に、南方から商隊がここキルンに到着したんだがな。その商隊の連中が言うには、大森林の中ほどを通っているとき、東の方で何かのモンスターの咆哮が聞こえたそうだ。その方角を見ると、はるか彼方の森の上に突き出た、黒いドラゴンの首のようなものが見えたそうだ。咆哮はそれ一度だけで、ドラゴンの首もすぐに見えなくなったらしい。
森を走る街道で、よくそんな遠くが見えたなと聞いたら、少しばかり地面が盛り上がった場所だったのと、そのあたりの森が途切れていたんで、遠くが見えたそうだ。その時、それを見たのが一人二人なら見間違いもあるんだろうが、二十人余りの隊商の連中がみんな見たって言ってるんだ。他の商人も咆哮だけは聞いたってのが、何人もいてな。
このままじゃ怖くて街道を通れないから何とかしてくれと商業ギルドからも言われて困ってたんだ。今ゴランは別の仕事で出払ってるしな。
そこで、お前らショタアスに、調査を依頼したいってわけだ。報酬は大金貨五枚。期間は、そーだなあ、今日から十日、それでドラゴンがいるかいないか見てきてくれ」
実に考えさせられる話だ。正直にドラゴンは俺たちが斃したと言うべきか? はたまた、知らぬふりをして依頼を受けて、ドラゴンなんかいませんでしたと報告するか?
「ドラゴンがいればいいですが、いなければどうやっていないって分かるんですか?」
やはりノーリスクのリターンは狙わねば。
「ドラゴンがいないに越したことはないんだがな。とにかく、大森林を通る街道を、半分ほど行ったところで、左に折れて、ユリア河に突きあたるところまで調べて来てくれ」
まさに、この前行った場所だよ。さすがギルドマスター。ポイント押さえてる。
「分かりました。準備をしてすぐに調査に向かいます。準備を含めても、そこまでなら五日で往復できます」
「いつも走り回ってるお前らでも、片道二日はないだろ。モンスターもそれなりにいるんだぜ」
「いたとしても、どうせオーガ程度でしょ?」
「お前らならそうだったな。それじゃあ頼んだぜ」
「ところで、」
立ち上がりながら、一発かましておく。
「ん? まだ何かあるか?」
「ギリガンさん、ゴリラって知ってますか?」
「知らねえ名前だな」
「ゴリラというのは、私の生まれた故郷に伝わる霊獣で、力と技の象徴なのです。ギリガンさんをみていますと、まさに、『キルンのゴリラ』、いえ、『キルンのゴリラ男』と思いまして」
「ほう、何の話か見えねえが、俺がその霊獣ゴリラに似てるってかい。いいじゃねーか。ガッハッハ」
ご満足していただいたようで何より。ニヤリ。
わが術中にはめてやった。『ショタアス』の恨みを晴らしてやるぞ。
まったり過ごしていたはずだったが、冒険者ギルドのギルマス、ギリガンさんの依頼を受けて、再度、エルフの廃村近くまでドラゴン調査に行くことになった。
ドラゴンなんてもういない、というより俺の収納庫にいる? いないけどいるとはこれいかに?
そういった訳だから、だれにも迷惑が掛からないので依頼を適当に断っても良かったのだが、内容の割に報酬が高かったのでつい依頼を受けてしまった。空気を読んだわけだ。
よく考えたら、アスカを使ってポーションを作ればいくらでも金儲けはできるということを忘れていた。
アスカと俺は最早一心同体、ならばいくらアスカだけ働こうが問題ないのだ。なぜかアスカが俺を見る目が、……。確かに一心同体のようだ。
一応、エルフの廃村近くまで行くということで、フレデリカ姉さんに御用聞きに行ったが、特に何もないと言われた。三日から四日留守になるので、シャーリーの面倒を見てくれるように頼んだところ、快く承諾してくれ、そのまま着替えを持って俺の家まで一緒に来ることになった。
「ただいまー。シャーリー。ただいま、ヒギンスさん」「ただいま」
「お邪魔します」
「お帰りなさいませ、ご主人さま。お帰りなさい、アスカさん。いらっしゃいませ、アンジェラさま」
「お帰りなさい。二人とも。いらっしゃい、アンジェラさん」
「……、というわけでシャーリー、俺とアスカの二人は、明日の早朝から冒険者の仕事で留守にするからな。それで、今日からアンジェラさんがその間四、五日泊まってくれる。よろしくな。そういうわけなんでヒギンスさん、今日の夕食一名追加でお願いします」
「大丈夫ですよ」
「ご主人さま、また冒険に行くんですね。帰られたらまた冒険のお話をお願いします」
お話担当はアスカだからね。
「アンジェラさんは、アスカの部屋を使ってください。アスカいいよな」
「もちろんです」
「それじゃあ、アスカちゃんはどうするの?」
「アスカはそういうものなので、そうなのです。な、アスカ」
ここにトートロジー極まれり。
「はい。マスター」
「????」
本人が肯定すれば問題あるまいて。




