第380話 海水浴3、上陸
舷側と筏までは、1メートルちょっとの高低差があり、『シャーリン』との間にも少し間隔があるので、上から筏に跳び移るのは怖いかもしれない。
ということで、収納に入れていた浮き輪を『シャーリン』の上甲板にいる女子たちに渡し、その中に体を入れてしっかり両手で抱えてもらったところで、アスカの髪の毛で筏の上に運ぶことにした。
数個の浮き輪を、舷側で見守る女子に投げ渡し、
「それじゃあ、ラッティーから行くか。ラッティー、その輪っかに体を入れて両手でしっかり抱えていてくれ。抱えたら自分の手荷物を忘れないようにな」
ラッティーの体には大分大きな浮き輪だったが、問題なく『シャーリン』から筏に乗り移ることができた。その後はスムーズに乗り移ることができた。
非常に露出部分の多い水着を着て、筏の狭い板敷も上にみんな立っているので、また、キャッキャウフフが始まってしまった。
アスカはそういった状況にはお構いなしに海に飛び込んで、
「出発します。
みんな、いまから筏が動き出すから気を付けるように」
筏の上に全員乗ったところで、アスカが海に飛び込み、ものすごいバタ足で、筏は風を切って岸を目指して爆走を始めた。俺の方は『シャーリン』を収納しておいた。
筏が動き出すとアスカから注意はあったものの、始めの一揺れでみんなよろけて尻餅をついてしまった。
一番後ろに立っていた俺はその程度では尻餅をつかないので、ちゃんと立ったままだったが、俺を当てにしてスク水のラッティーとシャーリーに抱きつかれてしまった。
ゼロでなければそれはそれで意味があった。ブルー・シャークの皮は確かにウスウスだと実感してしまった。
水深が腰当たりのところまで筏が岸に近づいたところでアスカもバタ足を止めて立ち上がり、そこでみんなが筏から飛び降りた。今回の筏は底に樽をくっつけているので岸に乗り上げることができないから仕方ない。一番小さいラッティーには少し深いかもと思ったが特に問題はないようだった。
筏は流れてしまわないよう収納しておく。
「アスカ、ご苦労さん」
水中を高速移動したにもかかわらず、アスカのセパレートタイプの水着はズレることもなく、しっかりしていた。
それがどうしたと言われれば何でもないことだが、サメ型水棲モンスターの皮というのはかなり伸び縮みもするようだしウスウスだしツルツルだし水着に最適な素材なのかもしれない。もう一度言おう、ウスウスでツルツルだ。
あれ? 水に濡れたアスカの白い水着、気のせいかもしれないが、少し透けてる? じろじろ見ることはできないので、そこはスルーするしかないな。素材の水中での特性を今回初めて確認したわけだが、思わぬ機能が付加されていることが判明してしまった?
いや待て、人のふり見てわが振り直せ。
俺は恐る恐る、海面下の自分の水着を確認してみる。
俺の海パンは前が紺色で後ろが白なのだが、大丈夫なような、大丈夫でないような。ここは気付かないふりをして流しておこう。そしたら、みんな大人だから、気付いていても気づいていないふりをしてくれるだろ。
筏から降りたみんなは、アスカに礼を言った後、
「ワー!」といいながら、バシャバシャと波打ち際を走り回り始めた。
みんな生まれて初めての経験だろうから、はしゃぐ気持ちも十分わかる。
女子たちが走り回っている姿を眺めながら岸に向かうのだが、巨乳系はいないといっても、そういったものは、付いていれば走り回るだけで物理的に上下動する。その微妙な上下動に俺の目線が吸い付いてしまって離れない。
「マスター、少し早いですが、そろそろバーベキューの準備を始めましょう」
ハッ! 一瞬俺は今何をしていたのか記憶をなくしてしまっていたようだ。
「そうだな」
岸から上がって少し進み、砂地の上に水の入った樽を何個かと生ゴミ用の空樽を一つ置いて、昨日買って来た調理用の台とテーブルに調理器具を並べ、昼にはかなり早いがバーベキューの準備を始める。
俺は包丁関係は全くダメなので、そっちはアスカの担当だ。調理台の上にドラゴンの肉の塊と魚を何匹か出しておく。肉は焼き肉用、魚は刺身用のつもりだ。アスカは先にドラゴン肉をバーベキュー用に厚めに切って、いったん包丁を洗い、その後魚をきれいにさばいていく。
ハムネアでの砂虫の肉の提供では大きすぎる砂虫の輪切りが相手だったので髪の毛を使っていたが、今回は普通の料理なので包丁を使っている。
バーベキューコンロは数日前に使ったので、いったんきれいに後片付けしてもらって、網なども焦げや炭は落とされてきれいに磨かれ食用油が塗ってある。先に炭を入れて、火を点け、金網を敷いて準備OK。
串焼きも焼く前のものが少し残っていたので、先に並べ、貝類も並べていった。塩焼き用に下ごしらえされたエビと野菜類は大皿にゴーメイさんが用意してくれていたので、そこから網の上に並べていく。
俺がバーベキューの店開きを始めたのを見つけたミラとソフィアのハート姉妹がこっちに駆けてきた。
ナニが振動するから、駆けてこなくていいから。
「ショウタさま、アスカさま、すみません、お仕事をさせてしまって」
「いいんだよ。きょうはみんなの慰労会のつもりだから十分楽しんでくれ、俺とアスカで何とでもなるから、二人は遊んでいてくれ。そうだ、冷たい飲み物も用意しているから、飲んでいけばいい」
昨日厨房の魔導製氷機の氷をジュースの入ったピッチャーに入れておいたのだ。そのピッチャーからジュースをコップに入れて二人に渡してやった。もちろん予備の氷もたくさん収納している。
「ありがとうございます。……、冷たくておいしー」
「おいしー」
「そろそろ、バーベキューが焼き上がってきてるからみんなに食べにこいって言ってくれるか?」
「はい」「はーい」
二人はジュースを飲み干すとコップをおいてみんなが遊んでいる岸辺に駆けて行った。こんどは駆けていく二人の後ろ姿のお尻の線に目線が吸い付いてしまって離れない。
「マスター、串焼きが焦げてしまいます」
ハッ! また俺は今何をしていたのか記憶をなくしてしまっていたようだ。
「悪い、悪い」
串焼きや、他の食材を網の上でひっくり返しながら、塩コショウや、醤油?を垂らしたりしていった。
夏の日には冷たい炭酸水があればもっと良かったんだが、炭酸水は見かけたことがない。お酒なんかの発酵で出てくる炭酸を閉じ込めておけばできそうだがそれだとお酒なので、ジュースのようには飲めない。
ジュースの炭酸は二酸化炭素を高圧でジュースに溶かし込むんだろうけど、ここじゃあ、高圧の二酸化炭素ボンベもないし、炭酸そのものも簡単には作れないな。
待てよ、収納の中では木から水分を抜くこともできた。極限まで木から水分を抜くと炭にまですることができた。ということは、空気中の気体から二酸化炭素や酸素も分離できる?
できちゃったらすごいけれど、今はバーベキューに専念だ。手を動かさなければいけないので、そのうち覚えていたら試してみよう。
日差しが強くなってきて、坊主頭に直射日光が当たる。強烈に頭が焼かれているといった感じではないが、不快ではあるので、いつか買ったテンガロンハットもどきのつば広帽を被ることにした。こういった夏の日差しには麦わら帽子の方が風通しもあっていいのだろうが、あいにく買うのを忘れていた。
テンガロンもどきを被っていたら頭部への直射日光避けにはなっているが、通気が悪くて、なんだか頭部が蒸して熱くなってきた。
これでは、つらいので、テンガロンは仕舞って、頭に白いタオルを巻くことにした。これは見た目は良くないかもしれないが、やってみるとなかなか具合がいい。
そんなことをしていたら、波打ち際で遊んでいた連中が揃ってこっちにかけてきた。
だから、駆けてこなくていいから。
笑いながら駆けてくる。ユラユラが駆けてくる。ユラユラが、……。
「マスター、貝類がほとんどできてます」
ハッ! まただ。
ちょっと前に、記憶力が落ちてきたと思っていたら、今日は煩瑣に意識が飛んでいる。ダイジョーブなのか? これは『エリクシール』案件なのか?
「マスター、今はマスターの地が出ているだけですから、『エリクシール』では効果がありません」
そうでしたね。




