第329話 お迎え2
雨が上がるのを『スカイ・レイ』の中で待機しているのだが、いっこうに止みそうにない。雨音は強まるばかりで、雷鳴は徐々に近づいて来る。
雷に慣れているということはないのだろうが、ラッティーも怖がるふうでもないのがありがたい。一応絶縁体な上、曲面を多用している『スカイ・レイ』に雷が落ちる可能性は低いと思うが、それでも落ちてしまっらたどうなるのだろう?
「アスカ、『スカイ・レイ』に雷が落ちたらどうなると思う?」
「ほとんどの電気は、濡れた外板の外側を通って地面に流れて行ってしまうでしょうから、マスターやラッティーの髪の毛が静電気を帯びて立ち上がる程度だと思います」
それなら一安心。
『スカイ・レイ』の外板も構造材もそこそこ頑丈なため、着陸時に灌木程度の立ち木をへし折ってもなんともないし、ワイバーンの火球を受けてもやや変色する程度で済んでしまうのだが、防音効果はほとんでないので、外板を打つ雨音がかなりうるさい。内部に内張をして防音構造にすればある程度は静かになるのかもしれないが、それなりに重くなってしまうので今のところは無理だろう。
家の中から雨の降る外の景色を眺めるのは好きだが、こううるさいとちょっと嫌だな。
まだ時間は早いが、朝食も今日は早めにとって来たので、昼にすることにした。
「二人とも、今日はサンドイッチでいいか? お望みならカレーもあるけど」
「サンドイッチでいいです」「わたしも」
二人にサンドイッチと飲み物を渡して、俺も座席について手にした厚めのハムと野菜が挟まったサンドイッチを頬張る。
電気製品を使っているわけではないので雷が落ちて『スカイ・レイ』内部の照明が落ちることも、何が起こるわけでもないのだが、徐々に雷鳴が近づいて来るのがはっきり分かるので、なかなか嫌なものだ。
ピカッと光ってドドドドドーン!
『ピカッ!』から『ドドドドドーン!』の間隔が短くなりながら光も音も大きくなっていく。
不安そうな顔をし始めたラッティーを少し安心させておこう。
「アスカ、だんだん雷がひどくなってきたが、特に問題はないよな?」
「先ほども言ったように基本的には問題ありません。しかし大型の雷の直撃を受けた場合、われわれは何ともありませんが、主要機器である魔導加速器の魔法陣関連に問題が発生するかもしれません」
おいおい、それじゃあラッティーが安心できないじゃないか。しかもいきなりの大型フラグ。
それでも、フラグ理論を知らないラッティーはアスカの『われわれは何ともない』の一言に反応したのかほっとした顔をしている。
小さい子は安心したようだが、ここにいる大きな子が不安になってしまったよ。
重低音ではなく、破裂音に近いような落雷の音がさらに近づいて来る。
そして『スカイ・レイ』の全キャノピーが真っ白な閃光に包まれ何も見えなくなった瞬間、
バリバリ、ドッガーーン!
爆発音そのものの落雷音が轟き、耳もほとんど聞こえなくなってしまった。今の落雷に驚いて、目をむいたラッティーの髪の毛が静電気で突っ立ている。本来なら笑うような絵面なのだが、今はそれどころではない。
「ラッティー! 大丈夫か?」
おそらくラッティーも俺の言葉は聞こえていないと思うが、首を振っている。首を振っているのでは『大丈夫』なのかそうでないのかが分からない。
そうだ、こんな時こそ『万能薬』
俺とラッティーの分で『万能薬』を二本を取り出して、一本をラッティーに渡す。
「マスター、ラッティーもマスターも、聴覚障害はすぐに治りますから、ポーションは不要です」
確かにアスカの声は聞こえた。
「ショウタさん、わたしも大丈夫」
ラッティーも大丈夫らしい。ほー、びっくりしたー。自分自身がひどい目に遭ったのならこれほど驚かなかったが、ラッティーにもしものことがあったらと思って本当にびっくりしてしまった。
まさに、ラッキーだった。あれ?
これは、セーフだよな。
「マスター、今の雷は、思った以上に大きかったため、『スカイ・レイ』の点検をこれから行います」
これまで、雷の直撃など受けたことがなかったので雷の大きさの大小などは自分では判断できないが、さっきの落雷はかなり大きかったようだ。
アスカは、床の点検用のハッチを開け、床下に頭を突っ込んで点検を始めた。普通なら、外部から外板を外して点検する方が確実なのだが、アスカの場合は、髪の毛を器用に使っているらしく、頭を床から下に出しているだけで点検できるようだ。
「アスカ、どんな具合だ?」
「魔導加速器自体には問題はないようですが、魔石ケースから魔法陣につながる配線コードが数カ所焼き切れています。このままですと、『スカイ・レイ』は離床出力不足で離陸できません」
「それは困った。まてよ、配線コードっていうと、工作機械を作った時に魔導モーターに繋いだあの針金のことだよな?」
「はい、あのコードですとやや細いため魔導加速器を全力発揮させることは短時間しかできませんが、離陸は何とかできると思います。マスター、余っていませんか?」
「ちょっと待ってくれ」
収納の中を探したところ、まだだいぶ残っていた。どうせ使うものだからと少々お高いものだったが、何束か買っていたんだった。
「新しいのがまだあった。これだけあれば、並列に繋げられないか?」
新しい配線コードの束をアスカに渡す。
「これだけあれば何とかなりそうです」
良かったー。予備部品はボルツさんのところで作っているものなら一揃いもらっているので問題はなかったが、魔道具関係は予備を持っていなかったのでほんとにラッキーだ。
しばらくして、
「一応応急修理は完了しました。ルマーニまでの往復はこれで可能だと思います。応急修理ですから負荷のかかる急な加速は控えます。とはいえ通常飛行には差し支えありません」
魔素の配線コードはフーの来る前のことだし、これもセーフ!
「アスカ、ご苦労さん」
「アスカさんは、ほんとに何でもできるんだ!」
ラッティーがまたアスカを尊敬の目で見ている。
なんだか、さっきの落雷が雷のピークだったようで、雷鳴はだんだん遠ざかって行っている。雨脚も弱まって来た。
食事も中途半端だったので、
「ラッティー、食事の方はどうだ?」
「さっきビックリしすぎたので、もういいみたい」
「アスカは?」
「私は、串焼きがあればそれを」
「二本ほど渡しとく」
「ありがとうございます。出発前には、外に出て外部も一応点検します」
「よろしくな」
俺も、串焼きを一本食べるとするか。
「ラッティーもやっぱり食べるだろ?」
うなずいたラッティーにタレの利いた串焼きを一本渡してやった。




