第328話 お迎え
フライス盤を作ったアスカには悪いが、あまりに複雑すぎて、汎用型は今一だと思う。
用途のはっきりしている旋盤なら、ほとんどの使用者が簡単に使いこなせるようになると思うが、汎用フライス盤は場所も取るうえ、扱いがあまりに複雑だ。今後は、こういったものが欲しいと言われた時に個別で工作機械を作った方が有用なものができるような気がする。作ることができるのはアスカしかいないので、アスカ頼みだがな。
実際、一度、ボルツさんのところに持っていって見てもらったのだが、旋盤と比べこちらの方はあまり受けはよくなかったようだ。
将来的に、アスカ機械工房とか作って何人も人を雇って専門的に訓練すれば使いこなせるのだろうが、時期尚早だったようだ。
そういった感じで過ごしていたら金曜日。
今日は朝からルマーニに『スカイ・レイ』で飛び、アスカ、ラッティーと三人でルマーニの王都観光をする予定だ。その後は王都ブレトの宿屋で一泊し、明日の午後からエメルダさんを迎えに王城に向かうつもりでいる。
厨房には、ブラッキーとホワイティー用に多めにスライス肉を置いて、サージェントさんにそれをヒナたちに与えてくれと言っている。魔道具の製氷機から取り出した氷を下に敷いた大きなボウルに肉を入れて冷暗所に保管しているので氷を取り換えていれば三日程度なら何とかなるだろう。
製氷機は機械自体高価だし、魔素貯留器自体の減りも激しいので、一般家庭向きではないが、うちでは、魔素垂れ流しの俺がいる以上全く使用に支障はないので、もう一台買って、氷を上段に置いて庫内を冷やす氷冷蔵庫を作ってもいいかもしれない。
朝食前にはヒナたちにもエサをやり終え、旅行準備は整った。
まだ、シャーリーも学校に出発していない時刻だったので、他のみんなと一緒に見送りにきている。
整備の終わって収納していた『スカイレイ』を草原に出して、
「行ってきます」
「お気をつけて。エメルダさんによろしく。といっても、日曜日にはエメルダさんもここに帰ってくるんでしょうから、よろしくはおかしいかな?」
「『おばあさんがよくなって良かったって』シャーリーが言ってたと伝えておくよ。それじゃあ」
見上げた王都の空は青空が広がりところどころ綿雲が浮いている。今日もいい天気だ。
そして、三人で乗り込んだ『スカイ・レイ』
「『スカイ・レイ』発進!」と、ラッティー。
もはや、副操縦士席はラッティーのものになってしまった。
「『スカイ・レイ』発進します」アスカも律義に答える。
『スカイ・レイ』はそのまま上昇し、北上を開始する。出発時刻は午前7時30分くらい。玄関を出るときに見た置時計で時刻は7時25分だったからそんなものだろう。今だけは、アスカに時刻をきかなくてもいい。ブレトまでの旅程は6時間ほどなので、何事もなければルマーニへの到着は13時半ごろの予定となる。
いかん! こんどは俺がフラグを立ててしまったのか?
乗ってしまえばアスカ以外当面何もすることもないので、俺は、ラッティーの後ろの一般座席に座って、足を伸ばして寛いでいることにした。もうしばらくしたら、二人に飲み物でも渡そう。
出発して2時間、二人にジュースを配り終えて、座席に戻って自分のジュースを飲みながら寛いでいたら、
「マスター、前方の空が怪しくなってきました」
なるほど、『スカイレイ』の進行方向に雨雲が広がっている。雲の下限が地表にかかっているように見えるので、本格的に雨が降っているようだ。しかも、雨雲の中で稲妻がときおり光っているのが見える。これまで一度も雨の中を突っ切ったことはないし、ましてや雷雨などこの世界に来て初めてかもしれない。フラグを自分で立ててしまったことだしラッティーもいるので、まだだいぶ距離はあるが、ここは安全路線でいったん着陸してしまおう。
「アスカ、雷雨の中を飛ぶと何が起こるか分からないから、安全策をとって雨雲に入る前にいったん地表に着陸してしまおう」
「了解。安全そうな着陸地点を探して着陸します」
残ったジュースをごくりと飲み終え、コップを収納し、二人が飲み終えたジュースのコップも受け取って収納しておいた。
アスカが見つけた着陸地点は、街道から1キロほど西にずれた草原で、近くに集落などはないようだ。細い灌木が何本か着陸地点にあったようで、『スカイレイ』の着陸に際してバリバリと音を立てていたが、そのくらいのことでは、砂虫の皮からできた外板はびくともしないので、何事もなく着陸できた。
外に出る必要もないので、『スカイレイ』の中で雷雨が通り過ぎるのを待つことにする。
「アスカ、今何時だ?」一般座席から、操縦席に座るアスカにたずねる。
「9時35分になりました」
「昼までに止んでくれればいいが、それ以上かかるようだと、今日の王都観光は難しくなるからな。危険を冒す必要はないからそこは我慢しよう。明日の午後までに到着すればいいわけだしな」
そうこう話しているうちに、雨が降って来た。最初はポツリポツリと振っていた雨もすぐに土砂降りに変わってしまった。空に稲光が走り、ゴロゴロと重低音が続く。あまり気持ちの良いものではない。
『スカイ・レイ』の天井についているキャノピーに大粒の雨が当たってそこから、稲妻が良く見える。
「ずいぶんな雷雨だな」
「雷雲の中に突入しなくてよかったですね」
「それって、ラッキーだったってことでしょ?」
ラッティーが、鼻の孔を広げるようにして、俺の方を向く。
「まあ、ラッティーの言いたいことは分かるが、そんなに大きなラッキーってわけじゃないと思うぞ」
「だけど、あのまま飛んでたら危なかったんだったら、命が助かったってことじゃないかな?」
ラッティーの言うことにも一理あるが、こじつけではあるよな。とはいえ、ここで俺が意固地になっても仕方がないので、
「ラッティーの言うように、少しはフーも役立ったってことかな」
「でしょ」
ラッティーのドヤ顔か。かわいい女の子のドヤ顔だからいいが、将来このお嬢さまは、女王陛下になるわけだけど、あんまり人前ではしない方がいいよな。ちょっと心配になったぞ。俺たちが身内だからのドヤ顔と思えば、それはそれでいいのか。
雨脚はさっきよりもさらに強まって来たし、雷も近づいているような気がする。
「なんだか、すぐには止みそうもないな」
「後方にも雨雲が続いていましたから、止むまでには時間がかかりそうです」
「雨や雷で『スカイ・レイ』がどうこうなるわけでもないから、ゆっくりしておこう」
「わたしは雨に濡れるのは大嫌いだから、早く止まないかな」
どういった形であれ雨の好き嫌いは境遇にもよるのだろう。ラッティーも将来的には雨が好きとまではいかなくとも、嫌いではないくらいにはなってもらいたいものだ。
「濡れるのは大嫌いでも、今度海に行って砂浜で遊べば、ラッティーも海で濡れるのは気にならなくなるさ」
「海の砂浜。それは楽しみ」
「そういえば、来月には、ラッティーの入試だったな。行くんだったら入試の後だな」
「絶対合格して、海に行きます!」
力強い。まあ、アスカがこれまでラッティーの勉強を見ていて太鼓判を押していたんだし、ラッティーなら、俺たちのコネを使わなくとも合格するだろう。




