第319話 冒険者学校3
ヘマタイトゴーレムの買取価格が思った以上に高額になりそうだ。生徒たちにとっては嬉しいことだと思うが、今後、卒業生たちも『鉄のダンジョン』でゴーレム狩りを続けたいと言いそうだ。
冒険者がダンジョン内で活動することで、より多くのダンジョンポイントをダンジョンは得ることができるようになってダンジョンの拡充が進むはずなのだが、まだあまり大きくないダンジョンで多数の冒険者パーティーが活動すると、いろいろな問題が起きそうだ。まだ先の話ではあるが、対応は考えておく必要がある。
明日『鉄のダンジョン』に入ったら、コアに『石炭ゴーレム』は作れないのか忘れずに尋ねてみよう。鉄鉱石に比べ石炭の方が需要が高そうだし、鉄鉱石と比べれば軽そうなので、一度にたくさん狩ることもできそうだ。
屋敷に帰り着いて居間でくつろいでいたら、ハウゼンさんがやって来て、
「陞爵式の衣装をしつらえなければなりませんが、いかがいたしましょう?」
「最初の受爵時の物でいいかなと思うけれど、今の季節的にも合わないから衣装は作らざるをえないか。
寸法は、俺もアスカも変わっていないので、この前の衣装屋さんで適当に作ってくれればいいんだけれど。
アスカもそれでいいよな?」
「構いません」
「なかなか難しい注文ですが、何とか致しましょう」
年金を国から貰っている以上は、お金を落とさなくてはならないらしいから服を作るのは構わないが、形や生地を選んだりするのが億劫なんだよな。頭だって坊主頭だし、あんまり外見にこだわりはないんだよ。
式用の衣装の方はハウゼンさんに任せておけば何とかなるようなので、一安心だ。
それで、また、二人でダンジョンの話を再開した。
「アスカ、『石炭ゴーレム』ができればいいな」
「そうですね。高品質の石炭の比重は1.5程度でしょうから、ヘマタイトゴーレム程度の大きさですと、一体辺り300キロ近くなります。それよりも、石炭からできたゴーレムですとかなり脆そうなゴーレムになりそうです」
「初心者向けでいいんじゃないか。メイスで石炭の体を叩き壊してしまって粉々になったら拾うのが面倒だから先が平べったくなってすくい上げることが簡単にできそうなスコップみたいなものもあればいいかもな」
「スコップ程度だと、材料さえあればペラでも簡単に作れますから問題ないでしょう」
「『石炭ゴーレム』については明日、『鉄のダンジョン』に入った時、コアに確認すればいいだけだけどな。それじゃあ、そろそろシャーリーも帰ってくるころだしヒナたちを見に行って、エサでもやってしまおうか」
「その前に、フーの様子を確認しませんか?」
「あんまりヤツを見ていたくはないんだが、どこか別のところに行ってればいいが、憑りつく相手はうちの連中以外いないから、そうなったらそうなったで嫌だな」
「マスター、そういった後ろ向きな考え方を早めにやめて、家族として受け入れましょう。先ほどから、マスターのミニマップの中が気になったのですが、マスター、気付いてましたか?」
「気付いていた。知らぬ間に、フーの黄色い点がアスカと同じ緑の点になってる。緑になったら、黄色の時と比べ大きくなった気がする。あの勇者なんかの比じゃないぞ」
「それは頼もしいじゃないですか。マスターの味方になったということは、フーと会話することができるかも知れませんよ」
「それはないだろう。なにせ相手は中身が空っぽの鎧だぞ」
「からっぽの鎧とはいえ、最初は、部屋の前を勝手に歩いていました。しかもここまで勝手について来てますし。あの鎧からするに、相当の戦力になるに違いありません」
「そうかなー。グリフォンたちだって大きくなれば相当の戦力になると思うが」
「人のいない場所では、グリフォンを戦力として勘定できますが、人の多い場所では、どうしても人型が必要になります」
「それなら、俺にはアスカがいるから十分じゃないか?」
「それはそうですが、屋敷も人が増え、守るべきものが増えてきたのも事実です。そういった戦力としてペラも有力ですが、今のところ冒険者学校で手一杯ですから動かせません。この屋敷にフーが常駐して、われわれが不在の時、みんなを見守ってくれればありがたいと思います」
「確かに。俺たちはいつも一緒に行動しているし、週末にはまたルマーニにエメルダさんを迎えにいって留守にするものな」
「そういうことなので、フーとの意思疎通は大事だと思います。さっそくマスターの部屋にいるフーを確認しにいきましょう」
アスカにいいように言いくるめられた感はあるが、もっともな意見でもある。
幸い、ラッティーが家の者たちに、フーは幸運の鎧などと触れ回ってくれたおかげで、みんな好意的に受け取っているような気もする。まあ、中に何も入っていない鎧が今後屋敷の中を勝手に歩き回っていて何とも思わないかどうかは分からないが、そこまで心配することもないだろう。
なにせ、俺とアスカはいつも突拍子もないことをしているとみんなが認識しているので、形式上は俺が持ってきた鎧が勝手に動き回ったところで気にしない可能性の方が高そうだ。
二階に上がって、俺の部屋に入ると、フーが立っていた。当たり前なのだが、朝方立っていた場所とは明らかに違う場所にいる。
こいつにも意思があるなら、ずーっと突っ立てるのは苦痛なのかもしれない。
見ず知らずの相手と仲良くやっていくには、こちらがある程度譲歩する必要がある。譲歩し過ぎて、相手につけ込まれるようでは困るが。
とりあえずの譲歩として、椅子にでも座らせてやろうか。アスカが以前、飛空艇用に作った芸術作品の座席が収納に入っているので、それを一台取り出して、部屋の隅に置き、フーを抱えて移動して座らせてやった。座らせてやったら、立ったままの姿勢で硬く体を突っ張らせることもなくちゃんと座っている。やっぱりこいつには意思がある。
「フーさん? その椅子は気に入りましたか?」
何だか分からないけれど、独り言のような感じでフーに話しかけてしまった。
そうしたら、フーが頭を縦に動かした。ような気がした。
「アスカ、いま、フーがうなずいたよな?」
「申し訳ありません。気付きませんでした」
アスカが気付かなかったと言うことは、フーがうなずいたように見えたのは何かの錯覚だったんだろうか? それともフーに憑りつかれている俺にしか見えないフーの意思表示なのか?
どこかの、ナレーションではないが、『謎は深まるばかり』だ。
「マスター、謎ならば、『探偵団』を復活させますか?」
「いや、それはいい」
アスカも気を利かせたのか、妙な探偵団の名前は出さなかったようだ。




