第240話 『シャーリン』、両殿下ご乗船
四人娘を動員して、資材・装備の点検と、問題点の洗い出しができた。
まず一つは、投擲弾の威力がダンジョン内だと予想以上に高かったことと、天井のあるダンジョン内の通路ではあまり山なりに投擲弾を投げることができないので、かなり肩の良い者でないと十分遠くまで投擲弾を投擲できないということが分かった。
これは、高さを制限した場所で、ダミーの投擲弾を投げて練習するしかない。冒険者学校の生徒は、メイスの振り方、投擲弾の投げ方をまず最初に教えこみ、短い時間でもいいが毎日練習させようと思う。
投擲弾の威力に関して、ダンジョン内で、複数のパーティーが活動した場合、近くで別のパーティーが使用した投擲弾が爆発した場合かなり危険だということだ。問題の根本的解決にはならないが、ホイッスルを用意しようということになった。ホイッスルを強く吹いて、5秒後に点火、投擲するといった感じだ。これで何とか不意に近くで爆弾が爆発して大ケガをすることはなくなるのではと期待している。
今現在、200個ほど高威力の投擲弾を製作済みだが、今後は添加する亜鉛粉の量をすこし減らして爆弾の威力を下げた投擲弾2型を製造していくことにした。この200個については俺が今後使用することにして、新人冒険者たちには使用させないつもりだ。
いまある陶器の弾体がなくなったら、中に入れる爆薬の威力は元に戻し、もう少し小ぶりの弾体に代えようと思う。その方が投げやすいだろうし、持ち運びにも便利だろう。
最後は、ペラだな。真面目なのは大切だが、周りの状況判断がまだ甘い。今後鍛えることになる新人冒険者たちは生身の人間なので、ケガもすれば疲労もする。そのあたりをアスカと二人でペラに説明したところ、ちゃんと理解してくれたようだ。
とにかく、少しずつでも先に進んでいるのは確かだ。冒険者学校のもう一人の寮母さんも、商業ギルドで面接も終え、大丈夫そうな人だったので即採用をきめた。聞けば、ヒギンスさんの幼馴染の人だったようでヒギンスさんの推薦だったようだ。仲良くやってくれるに越したことはないので、安心だ。
冒険者学校の建屋も、柱が立って屋根までできているようだ。ペラがどうも気になって仕方ないらしく、朝のランニングを終えると、そのまま工事現場まで様子を見にいって、午後からのヨシュア達の爆弾製造を手伝うため昼前に帰ってくる。メイスや盾は、すでに二十組ほど製造済みで俺が収納している。
だいぶ陽気も良くなって気温も暖かくなって来たそんなある日、王宮から使いの人が来て、国王陛下の外出の許しが出たので5日後の日曜日にリリアナ殿下とアリシア殿下がお付きの人を含め十名で、うちの『シャーリン』に乗船したいとの言伝だった。追伸として散歩のようなもので正式な訪問ではないため特別な配慮は無用とあった。
セントラル港のしかるべき場所に午前9時ごろ来ていただくよう言伝を頼んで使いの人を王宮に返した。
特別な配慮は無用と言われて、はいそうですかはありえないので、まず『シャーリン』を造船建屋の船架の上に乗っけて、中をもう一度隅々まで清掃しつつ、備品や装置などの点検を済ませた。見どころの船底に並んだガラス製の覗き窓を囲む座席には、座布団代わりのクッションを用意した。もちろん覗き窓のガラスは内外よく磨いてやった
そのあとは、こちら側の人選だ。俺とアスカは当然として、日曜だし、『シャーリン』の名前の由来のシャーリーだな。そしたら、ラッティーもか。ここらで、大国アデレードの王族、パルゴールの皇族に顔を売っておくのも将来役立つだろう。
あとは、給仕係としてミラ、ソフィアのハート姉妹。うちから六名で、王宮から両殿下を含め十名だから、全部で十六名。ちょっと多いかもしれないが、そのくらいは何とかなるだろう。
こちらの世界ではおそらくほとんどの人が泳げないだろうから、安全のために、浮き輪くらい用意していた方がいいかもしれない。船内に常備するのは、上甲板の船べりに何個か並べておけばいいだろう。あとは邪魔なのでおれが収納しておけば問題ないはずだ。
ということで、アスカに砂虫の皮を薄くしたものでドーナツ型の浮き輪を二十個ほど作ってもらった。人によっては輪の中に体を入れるのが厳しいかもしれないが、あまり大きなものを作るわけにもいかないし、手を掛けるだけでも体が沈むことはないので大丈夫だろう。
あとは、魔導コンロを何個か並べておいてもバーベキューはできなくはないようだが、やはりバーベキューコンロには木炭だろうと思い、木炭などを買っておいた。食材などはゴーメイさんと市場に出向いて、目に付く物をどんどん買い込みその場で収納していった。成人男女も参加するため、適当な酒類も用意しておいた。食材など不思議なことに日本で目にしたことが有るようなものがほとんどそろっていることに驚いたのだが、そもそも屋敷で何も気にも留めずにそういったものを食べていたのを思い出して笑ってしまった。
そして、当日がやって来た。
うちの箱馬車に六人は少々きついかとも思ったが、俺以外ラッティーを含めた女子だったため、そんなこともなく、港に向かった。
前の日に準備万端整った『シャーリン』を収納し、港に着いたところですぐに海に浮かべておいた。渡し板をかけて、港の杭にロープを結びつけてお迎えの用意は整った。あとは、王宮からの一行が到着するのを待つばかり。
こういったことが初めての四人はかなり緊張しているようだ。王女殿下たちが遊びにうちにやってくるようなことは、これから先そんなにはないだろうからいい経験だと思ってくれ。
王宮からの連絡が来た時点で、シャーリーには、王女殿下たちと『シャーリン』に乗ることを告げている。最初は驚いていたが、俺の後はうちを背負って貴族になるということに対して、ある程度の自覚は持っているようで、なにもいわず了承してくれた。ただ、『シャーリン』の名前については何か言っていたが俺は聞かなかったことにした。
ラッティーについては、殿下たちと同乗することを告げた時もそんなに驚きもせず淡々としていた。こちらもこちらで自覚があるのだろう。『地位が人を作る』とかいうらしいが、この歳で大したものである。
ミラとソフィアについては、他家でちゃんとした教育を受けているので全く問題なく接待要員として期待できる。




