第239話 『鉄の迷宮』3
全力でいくというペラの力強い言葉に安心して、俺たちは昼食を和気あいあいとダンジョンの床に敷いた布の上でとっていた。ようやくゴーレムが30メートルほどまで接近してきた。さすがに四人娘は食事を中断して、ペラとゴーレムを交互に見ている。もちろんアスカは気にせず、適当なものをつまんで口に運んでいる。
「行きます!」
やっちまった。
全力で駆けだしたペラが巻き起こした後塵によって、鉄気の混じった砂埃が食べ物の上に落ちてくる。そして、さらにマズいことに、ゴーレム手前でペラは音速を越えたようで、音速突破の轟音と突風が通路を伝わり食事中のわれわれを襲ってきた。皿が料理ごとひっくり返り、コップなどは割れてしまった。ペラが加速中に踏んづけたと思われるダンジョンの床が大きくえぐれている。
状況から判断すると、ペラが音速を越えた段階で発生した衝撃波でゴーレムは行動不能になったようで、そのままペラが一体のゴーレムの体を突き抜けて停止した時には、隣のゴーレムもその破片を至近に受けて壊れてしまっていたようだ。
ペラの全力を見誤ってしまった俺の大失態だった。今の衝撃波を受けて四輪車は後ろの方にすこし動いていたが壊れることもなく大丈夫だったようだ。こんなことが二度とあっては心配なので、四輪車は俺が荷物ごと収納しておいた。
突き抜けて行った場所から戻って来たペラを見ると、今の全力疾走で、はいていた「灼熱のブーツ」以外、着ていた衣服はボロボロになっている。放っておくわけにもいかないので、ちょうどこのまえアスカに取り揃えてもらった予備の女物の服をペラに出してやった。
俺の収納庫から女物の服が出て来たことに四人娘たちは驚いていたが、アスカが俺が女物の服を持っていることの理由を説明してくれた。あろうことか、女物の下着も多数取り揃えているという付加情報つきだった。なにか、アスカの悪意と四人娘の俺を見る目にこれまでとは違う何かを感じる。
ペラのたおしたヘマタイト・ゴーレムも収納し、ダメになった食事を片付けつつ、服を着替えて嬉しそうなペラの顔を見て、少しは叱った方がいいかもと思ったが、アスカの『ペラはほめて伸びる』とかいう言葉を思い出して、
「ペラ、よくやった」
と、心にもなくほめてやったら、
「サンキュー、サー!」とドールのくせにすごく嬉しそうに、大きな声と敬礼で返してきた。やはりほめた方が良かったようだ。
それにしても、今のペラの反応は、俺が昔見た洋画の記憶がごちゃ混ぜになってアスカ経由でペラに渡ったのだろうか? 今となってはどうでもいいが、ペラの今の敬礼はなかなかカッコよかった。勝手に旅立たれてもらっては困るが、愛と青春の冒険者学校で取り入れてみてもいいかもな。
ほとんど、食べ終わった食事だったから、もう一度何かを出す必要もないだろう。
「それじゃあ、帰るとするか。そのまえに、
コア、俺だ、聞こえるか?」
『はい。マスター』
「ここへの出入り口をもう一度動かしてもらいたいんだが、できるか?」
『可能です。どちらに動かしますか?』
「今の場所から、斜坑の坑口まで動かしてくれるか?」
『……、完了しました』
「ありがとう」
これで、10メートルほどとはいえ、四輪車で坂道を上り下りしなくて済むだろう。
「あと、余裕があれば、この層を重点的に拡張していってくれ。俺の魔力を渡したいんだがここからでも可能か?」
『可能です。いかほど、譲渡していただけますか?』
「そうだな、3000くらい持っていってくれるかい」
『了解しました。ダンジョンポイント3万増加しました。第1層の拡張を優先事項に指定しました』
MP1あたり、ダンジョンポイント10の交換比率だった。よくて一対一程度だろうと予想していたのだが、嬉しい誤算だ。これはありがたい。爆運の俺がダンジョンマスターなのがいい意味で影響したのかもしれない。
「あとはよろしくな」
俺が、空中に向かってコアと話していたのが気になったらしいリディアが、
「ショウタさん、誰と話をしてたんですか? コア?」
「ああ、実は俺はこの『鉄の迷宮』のダンジョンマスターなんだ」
ダンジョンマスターと聞いたとたん、四人娘全員が固まってしまった。
「このまえ、アスカとここに来た時、最下層まで行ってそこにあったコアにタッチしてダンジョンマスターになったんだ。そういえば誰にも言ってなかったな」
再起動した四人娘たち。そのなかでまたリディアが、
「ショウタさん、そのダンジョンマスターというのはダンジョンマスターですよね?」
「どのダンジョンマスターかは知らないけど、ダンジョンマスターだぞ」
「ダンジョンマスターって、どこかのモンスターだと思っていましたが、ショウタさんがモンスター? あれ?」
「ダンジョンの最下層にあるコアにさわれば、別にモンスターでなくても誰でもダンジョンマスターに成れるみたいだぞ。現に俺は人間のつもりだがな」
「そうなんですか。でも、ダンジョンマスターがふらふらダンジョンの外を出歩いていてもいいんですか?」
「別に問題ないんじゃないか? でも、いないときにコアルームにだれかやって来てコアを壊されたら困るかもな。そのために最下層には強い守護者がいるわけだからそこまで心配ではないな。時間さえあれば、俺とアスカならどこのダンジョンだろうと最下層に行くのは簡単だからいつでもダンジョンマスターに成れるしな」
「……」
四人とも尊敬の目で俺を見ているはずなんだが、半分口が開いている。理解不能な表情でそんなに俺を見るなよ。照れるじゃないか。さっきの下着の件はこれでチャラだな。ちょっとそれは甘いか?
「それじゃあ、そろそろ帰ろう」
とりあえず、今回の装備の実地試験は成功だったと思おう。
ぞろぞろと、ダンジョン出入り口の黒い渦を抜けたら、コアに指示した通り試験坑道の坑口だったので、四輪車を引いて坂道を上り下りする必要が無くなった。やはり、現場を見て少しずつ改善していく必要はある。
昼食後、休憩もせずに屋敷まで駆けて行くのは四人娘たちにはきついだろうと思い、冒険者学校の建築現場で働く作業員の人たちに、ダンジョンの出入り口が坑口近くに移動したことと、決して中に入らないように告げて、しばらく腹ごなしに徒歩で山道を下っていくことにした。
行きかう荷馬車に会釈しながら、30分ほど山道を下り、そこからみんなで屋敷に向かって駆けて行った。
途中、四人娘たちに今日のご褒美のつもりで例のオープンテラスで食事のできるカフェ・レストランにでも寄って行こうかなと思ったが、みんなそれなりに汗もかいているようだったので、お土産として、屋敷にいるみんなの分も含めてケーキやその他のお菓子を買って帰ることにした。




