第201話 アトレア王家3
アトレア王との話は一応終わったので、ハンナさんたちを部屋に呼び入れ、衝立とその後ろで俺とアスカの座る椅子を用意してもらった。アトレア王には、寝間着姿に戻ってベッドで寝たふりをしてもらうことにした。
ハンナさんに聞いたところ、アトレア王が意識を失っているあいだも、アトレア王の母親の言いつけで、彼女が持参した《くだん》のせんじ薬をアトレア王に吸い口から飲ませていたそうだ。念のためその吸い口をハンナさんに見せてもらったが、きれいに洗ってあったため、毒物の痕跡はみあたらなかった。
10分ほど衝立の後ろで待機していたところ、
「陛下の母上が館にいらっしゃいました。まもなくこの部屋にいらっしゃいます」
しばらくして、バタバタと大きな音が廊下から近づいてきたので、衝立の後ろで息をひそめる。
バン! とこれまた大きな音がして、アトレア王の病室の扉が開かれた。
「ハンナ、どういうこと? エリクシールなどというとんでもない薬で、レオンが全快したんですって? どこにそんなお金があったの?」
「エリクシールを作ることができる大錬金術師のお二人がアデレート王国からいらっしゃり、陛下にエリクシールを献上してくださいました」
「献上? どうしてレオンに?」
「そのあたりは存じ上げません」
「フン。わかったわ。それじゃあ、いつものようにこの薬をレオンに飲ませるのよ! 寝顔の見た目はほんとに元気そうだわ。一体どうなっているのよ。それじゃハンナ、忘れずに飲ませるのよ!」
また、バタンと大きな音と、バタバタと遠ざかる足音が聞こえて来た。あれだけ大きな音と声の中、アトレア王も寝たふりは大変だったと思う。
衝立の後ろから、アスカと二人出ていったのだが、お気の毒さまという言葉もかけづらい状況になってしまった。ベッドの脇の小テーブルの上に置かれたいわゆるせんじ薬は、俺から見てかなり毒々しくあきらかな毒物だった。とはいえ、今後のことを考えれば、ちゃんとしなければいけない。
「陛下、残念ですが、そのテーブルの上の薬は毒物です」
「お二方ともありがとう。あとは、私が王としての義務を果たす番です」
目を伏せたアトレア王の言葉を聞き俺とアスカは、与えられていた貴賓室に戻ることにした。
今回の『ショタアス探偵団』は結成から解散までそれこそマッハだった。
部屋に戻り、
「アスカ、さっきの毒は何の毒だかわかるか?」
「体力を奪い、体の抵抗力を失わせる毒物だと思います。一般の医師では、陛下の症状が毒物に起因するものと判断することはまず不可能です」
「なるほどな。一応、医師が関与している可能性も捨てきれなかったので聞いただけだ。しかし、大変なことになっちゃったな。でも、これでこの館はラッティーにとっても安全になるんじゃないか?」
「アトレア王がどのような処置を自分の母親に行うのかはわかりませんが、軽いものではないでしょう。マスターのいうとおり、この館は安全になると思います。私たちもラッティーとの別れを覚悟していなくてはなりませんね」
「それは仕方ないことだし、ラッティーはいままで苦労してたんだ。これから父親と幸せに暮らしたっていいだろう」
「そうですね」
「ところで、ラッティーの実の母親、アトレア王の王妃はいまはどうなってるんだ?」
「噂では、2年ほど前に病死しているようです」
「それも死因が怪しいわけか。やりきれない話だな。それで、ラッティーに父親のことは話すとして、祖母のことはどうする?」
「今回の祖母に対する処遇の軽重にかかわらず、本当のことを話した方が良いでしょう。賢い子ですから、実はこのことは知っていたかもしれません」
「そうだな。5歳なら物心はついているからな。まして、ラッティーほど頭がいい子だとそうかもしれないな。まあ、いずれにせよ寂しくなるが、これで一生会えなくなるわけでもないし」
「そうですね」
「もうすることもなくなったし、早いとこセントラルに帰るか。それで、ラッティーをここに連れてきて父親に会わせよう」
「午後早いうちにあいさつを済ませて、帰りましょう」
そんな相談をアスカとしていたら、カニスさんがやって来た。
「申し訳ありませんん。陛下がお二人をお呼びですので、おいでください」
アトレア王は王としての義務を果たしたのだろう。
アスカと二人、再度アトレア王の病室に行くのだろうとカニスさんについていったところ、別の部屋に案内された。その部屋は奥の方に大きな机、出入り口以外の壁は本棚になっていて、立派そうな本の背表紙がぎっしり並んでいた。おそらくアトレア王の執務室なのだろう。
アトレア王は軍服のように見える正装?を着ており、いかにも精悍な壮年の王さまに見える。
「お呼びたてして、申し訳ない。母と弟は国外追放とすることに決めました。甘い処分だとは思いますが、私には実の母親を処断することはできませんでした」
そのことについてわれわれが何か意見を述べることはできない。まあ、そんなところだろうとは思ったし、そんなところに落ち着いてよかったとも思う。
「そして、今回のエリクシールのお礼として、十分なものをお二人に受け取っていただきたかったのですが、対価と呼べるような物がわが国にはありませんでしたので、家宝のこの宝剣をお受け取り下さい」
そう言って、アトレア王は机の上に置いてあった長細いケースの蓋を取って、中から白い鞘に入った剣をとり出した。鞘にも、剣の持ち手の部分にも赤、青、緑の宝石がはめ込まれ金で模様が浮き彫りにされている。
「エリクシールについては、陛下がラッティーの父親であるという理由で献上したものですから、こういったものはいただけません。ラッティーの父親として、彼女を幸せにしていただけばそれだけで十分です」
「わかりました。ありがとうございます」
「お顔をお上げください。これからわれわれは、一度アデレードに戻って、ラッティーを連れてきます。明日の昼頃にはこちらに戻れると思いますから、よろしくお願いします」
「明日の昼? ですか?」
「はい、われわれは飛空艇を持っていまして、このアトレアにも飛空艇でやってきています。飛空艇ですと5時間もかからず、アトレアからアデレート王国の王都セントラルまで帰ることができます」
「なんと! あなたたちは、アデレート王国で開発されたという飛空艇をお持ちの方々でしたか。なるほど。わかりました。明日を楽しみにさせていただきます」




