第200話 アトレア王家2
アトレア王の居館の貴賓室で一夜明けた翌朝。
運んでもらった朝食をアスカと食べ終え、お茶を飲みながら寛いでいたら、きのうのカニスさんがやって来て、
「陛下がお二人にぜひお礼したいと申しておりますのでおいでください」と告げられた。
アスカと連れ立って先導するカニスさんの後について昨日のアトレア王の病室に入ったとたん、寝間着の上にガウン羽織ったままのアトレア王に、
「目が覚めた後、事情を聞かされ、すぐにでも二人にお会いしてお礼したいと思っていたのですが、侍女たちに止められてこの部屋を出ることができず申し訳ない」
といって、頭を下げられてしまった。
「いえ、こちらとしても、条件を出してのことでしたから、そのことはお気になさらずに」
「陛下、陛下もお二人も、そちらにお掛けになってお話をどうぞ」
部屋の隅にはソファーと足の短いテーブルがあり、そのテーブルを挟んで三人で腰を掛けた。
「非常に微妙な話ですので、できれば、陛下お一人にお話したいのですが?」
「ハンナ、カニス、席を外してくれるか。心配はいらない。なにせ、エリクシールの大錬金術師さまたちだからな」
部屋にいた女性二人が頭を下げて部屋を後にしたところで、
「あらためて、私はアデレート王国で子爵を賜っております、コダマと申します」
「同じく、子爵を賜っております、エンダーです」
「陛下、実は、5年前陛下の長女殿下が行方不明になられたとか?」
頷くアトレア王。
「その、長女殿下の特徴ですが、左の背中、肩甲骨の真ん中あたりに、3センチほどの紋が刻まれていませんでしたか? その紋はアトレア王家の紋と同じ丸の中の二本の百合の花」
「確かに娘の背中に王族であることを示す魔法紋を刻んでいました。どうしてお二方はそれを? まさか?」
「はい。いま、アデレード王国の王都セントラルにあるわたしたちの屋敷で長女殿下を保護しています」
「なんと! それは、まことですか?」
うなずく俺。
「よかった。ほんとーに、よかった。わたしが死の間際から助かったのみならず、娘まで……」
後ろの方の言葉は涙声だった。
「……それで、娘は?」
「はい、元気にしています。いまはこのアスカが勉強を見ています」
「そうですか。ありがとうございます」
「長女殿下は、いえ、殿下はいま名前をラッティーと名乗っています。われわれが保護する前はそれなりに苦労していたようです」
「そうでしたか。ラッティーですか。女性の名とは思えないような名前ですが、わたしが探し出してやることができなかったばかりに苦労をかけたんですね」
「それは今となっては致し方ありません。いまのラッティーは、いたって明るく朗らかな良い子です。それで、いったんラッティー、いえ、殿下のことはおいておいて、陛下のご病気はどうも、毒物によるものではないかとわれわれは思っています」
「毒物? 毒物ですか?」
「エリクシールをお飲みになった現在では陛下の体に薬物の痕跡はないのですが、昨日陛下にエリクシールを服用していただいた際、陛下の口元に確かに毒物の痕跡がありました。心当たりはございませんか?」
「心当たりとは、私に毒を盛る人物ということですか?」
「はい」
「お恥ずかしい話ですが、思い当たるのは、私の弟だけです。ご存じかもしれませんが、娘が失踪する前後で弟と王位を争っていまして、いま弟は、母のもとで蟄居しています。蟄居中ですから、この館に入ることはできませんし、街の中を自由に移動もできません」
「分かりました。それでは、陛下のお母さまはどうでしょう? 陛下のお母さまから何か飲食物をいただいてはいませんか?」
「まさか、母がわたしに? 弟を溺愛していた母のこと。可能性がないわけではないか」
アトレア王の深いため息が聞こえたが、ここは、聞かなかったことにするしかないな。
「母は数日に一度、この部屋にやって来て、滋養に良いというせんじ薬を持って来てくれていました。私は2週間ほど前に意識をなくしたようなのですが、意識のなくなる少し前にもその薬を飲んだことを覚えています。私が意識をなくした後のことは分かりませんが、ハンナかその他の者に母が言いつけて吸い口か何かで私に飲ませた可能性は有ります」
「今のところ、そのせんじ薬が毒物であったかは確証は有りません。昨日、お世話の女性の方にうかがったのですが、今日の午前中にも陛下のお母さまがいらっしゃるとか。できれば、物陰からでも構いませんから、陛下のお母さまを拝見させていただけないでしょうか?」
「それくらいはかまいません。では、ベッドの脇に衝立でも用意させましょう」




