第190話 お正月3、ニアミス
王宮の専用食堂で朝食をとり、身支度を整えて、今日は王都に出かけようとサヤカの部屋に迎えに来たモエなのだが、いつものようにサヤカが支度に手間取っていた。
「サヤカ、そろそろ出発するわよ」
「ちょっとまって」
「もう、いつもそうなんだから」
「モエ、こっちのピアスとこのピアス、どっちがいいと思う?」
「そんなの、どっちでもいいじゃない」
「あのねえ、モエはさいきん女子力落ちてるんじゃない? 見た目を気にしなくなったら女はおしまいよ、お・し・ま・い」
「分かったわよ。そっちの大きい方のピアスの方がサヤカには似合ってるんじゃない?」
「やっぱりそう? それじゃあこのピアスにするわ。……、お・ま・た・せ。いこ」
……
二人は王宮の西門を出てぶらぶらと王都の繁華街がある方向に歩いている。
「すっかり忘れていたけど、今日は元旦よね」
「そういえばそうだった。モエ、明けましておめでとう」
「サヤカ、明けましておめでとうございます。ことしはお年玉貰えないね」
「でも、毎月おこづかいもらってるじゃん」
「それはそうだけど、お年玉で貰うのも嬉しいものよ」
「もらえるのなら、なんでもいいわよ」
「そういう考え方もあるかもね。そういえば、きのう食べたお汁粉おいしかったわよね。向こうの世界にいたらそんなにおいしく感じなかったかもしれないけれど、こっちの世界で食べたあのお汁粉は格別だったわ。いままであんなおいしいものがこっちの世界にあったことを知らなかった自分が恥ずかしい。
ということで、サヤカ、今日は食材屋さんを見て回らない? 港の近くに問屋街があるそうだからそっちに行ってみようよ」
「今欲しい小物もないからモエの好きにしていいよ。港の近くだったらここからかなり遠くない?」
「乗合馬車があると思うけど、どれに乗ればいいのか分からないものね。急ぐ必要もないから、ゆっくり歩いて行きましょ。疲れたら、『スタミナ』かけてあげるから大丈夫よ」
「『スタミナ』もいいけど、できれば『ブレス』をかけてほしいかな。あれ、気持ちいいのよ」
「それじゃあ、『ブレス』」
「ほー。きっもちいー。ありがと、モエ」
「どういたしまして」
……
「ねえモエ、かなり港のほうに歩いてきたけど、とんやさんはまだかな?」
「歩いている人が少ないから、道を聞きづらいわね。あそこの人に聞いてみる? 親子連れにしては年が近いような。兄弟なのかな?」
「あの人たち、顔はぜんぜんにていないよ」
「ほんとだ。あれ、角を曲がってあっちに行っちゃった。今の人たちどっかで見たような気がするけど、どこでだったかな?」
「そんなの、どうでもいいじゃん」
「それは、そうね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シャーリーと本格的な王都見物は初めてのラッティーを連れて、久しぶりに王都の街中に出てみることにした。もちろんアスカも一緒だ。
「まだ早いし、お店も今日は閉まってるところが多いから、どうするかな?」
「それなら、港が見たい。です。ブレゾの近くにも港があったけど、行ったことなかったから」
今日は、ラッティーのための一日のつもりだったので、港に行くのは今日二度目になるが、もちろん構わないので、
「それじゃあ、港に行ってみよう」
四人で屋敷を出たところで、サージェントさんが向こうの方からやって来た。
「おはようございます。サージェントさん、どうしました?」
「シルバーとウーマの面倒を見に来ました。一日でも世話を欠かすことはできませんから」
「そうなんだ。ご苦労さまです。われわれは、これから出かけるのでよろしくお願いします」
「いってらっしゃい。お気をつけて」
シルバーとウーマのことはすっかり忘れていた。サージェントさんが来てくれたから良かったが、かわいそうなことをするところだった。それにしても、アスカがそのことを俺に注意しなかったのはどうしてだろう?
「マスター、私はサージェントさんが休み中も、毎日二頭の世話に来ることを知ってましたから」
アスカさんはご存じだったんですね。そうでしたか。
シャーリーとラッティーの顔を見てわかった。知らなかったのは、俺だけだったようだ。正月初日から疎外感を味わってしまった。
「ショウタさん、ガンバ」
シャーリーに励まされてしまった。
「シャーリー、ありがとう」
すぐに元気が出てしまった。
朝も通った道を四人で歩いていくと、前方に冬だというのに、かなり短いスカートにブーツを履いた二人組の女の人がこちらに向かって歩いていた。
向こうの二人がこっちを見ているようなので、その二人を注意して見ると、なんとあの賢者と聖女の二人組だった。
正月から出会いたくない連中だ。いや正月に限らないか。
「マスターはあの二人が苦手なんですね」
「まあな」
「そこの角を曲がっても港へは同じ距離ですからそちらを通りましょう」
シャーリーは何か感じているのかもしれないが、シャーリーもラッティーも何も言わずについてきた。
王都の東門を出ると、そこから港が広がっている。
「船がたくさん浮かんでる。海の匂いもするー。いい匂い。ショウタさん、アスカさん、ありがとう」
「マスター、そのうち船を買ってもいいかもしれませんね。飛空艇だと移動は簡単ですが、基本座席に座っているだけですし」
「それはいいな、春になって暖かくなったら買ってみるか。船に乗って魚釣りでもしてバーベキューなんかも楽しそうだしな。船は収納しておけばどこでも出せるし屋敷でも整備できるものな」
「船を買うの? わたしものっけてくれるよね? 乗せてくれますか?」
「あたりまえだろ、なに言ってるんだ。
そういえば、アスカ。ラッティーを今年の7月頃にあるという付属校の入試を受験させるつもりなんだろ?」
「はい、そのつもりです。来年でもいいのでしょうが、今年必ず私が合格させます」
こう言い切ったアスカは何をするかわからないが、普通に考えてラッティーの勉強をみてやるという意味だと思う。シャーリーの時みたいに、受験生を皆殺しにしてしまえば合格だなどと言わないよな。
「そうか、無理はさせないようにな。それで、ラッティーの名字はやっぱり、アスカのエンダーか?」
「はい。そのつもりです」
それはそうだろうな。『ラッティー・コダマ』もずいぶん女子プロっぽい名前だもんな。『ラッティー・エンダー』、シャーリーよりも語呂は良くないがまあいいんじゃないか。
「それじゃあ、シャーリーがお姉さんになるんだ」
「はい。ラッティーちゃんよろしくね」
「え?」
「ラッティー、おまえは、今日からアスカの養子だ。手続きは休み明けにでもハウゼンさんに頼んでおくから問題ない。アスカの養子ということは、俺の養子ということでもあるからな。よろしくな、ラッティー」
「えっ? えっ、ええー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねえ、モエ、ここらへんがとんやがいじゃない?」
「そうね」
「開いてるみせが一けんもないんだけどー」
「こっちの世界もお正月はお店が休みみたいね。何よサヤカ、私が悪いの?」
「まだ、なにも言ってないよー。でもモエのせいじゃない」
「今言ったー」
「じょうだんだよ。じょうだんのわかわない女は、しょうらいくろうするぞ」
「もう、分かりにくい冗談はやめてよ」




