第180話 カレー実食、買い物
さて、そろそろ昼の時間だ。ラッティーの勉強の進展具合の確認もかねて俺がアスカの部屋までラッティーを呼びにいった。
「アスカ、入るぞ」
一応ことわって部屋の中に入ったところ、先に厨房から部屋に戻っていたアスカが紙の束をつかって、ラッティーの顔を扇いでいた。
アスカの机の後ろの椅子に座って、机から頭と手を出したラッテイーが、顔を真っ赤にして写経している。えらい頑張り屋さんだ。2時間も頑張れれば大したものだと思っていたがもう3時間だ。
「ラッテイー、そろそろ昼食だから。それくらいにして、食堂に下りてこい」
「はい、でももう少しで切りのいいところまで終わるから、そしたら下りていきます」
アスカを見ると首をふるので、あきらめて俺だけ先に食堂に行くことにした。頑張り屋の子を持つ親の心境か? そんな大層なものではないが、小さな子供が頑張る姿をみて新鮮な驚きがあったのも確かだ。
俺は、小さいころラッティーほど頑張ったことが一度でもあったのかと問われれば胸を張って言い切ることができる。
『いいえ、一度もありません』と。
ほかの連中の食事を遅らせる訳にはいかないので、アスカとラッティーは後からやってくると食堂に集まった面々に説明し、先に昼食を始めることにした。
出来上がったカレーライスが盛られた深めの皿が、ミラが運ぶワゴンに人数分載せられて、食堂に運び込まれた。
厨房から漂って来る初めての匂いの正体が、お皿の上に載って自分の目の前に置かれた面々は一様に顔を見合わせている。ミラに続いて、サラダやジュース、ピクルスや水といったものが乗せられたワゴンがゴーメイさんによって運び込まれ、手分けしてみんなのテーブルの上に並べられていった。
「アスカとラッティーは遅れてくるから、先に始めておこう。今日の昼食はカレーライスといっておれの故郷にもあった料理だ。きょうはゴーメイさんが腕を振るって作ってくれた。少々辛いかもしれないが、それがまたいいところなんだ。それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
さっそく、スプーンでカレーをすくい口に運ぶ面々。
「辛ーい!」「辛ーい!」……。
いたるところで上がる悲鳴だか歓声だかわからない声。
「でも、おいしー!」
「ほんと、辛くてもおいしい」
そうだろう、そうだろう。うん、うん。辛さに慣れていないうちは、甘口カレーでさえ辛く感じるらしいからな。今回のカレーは、アスカ監修のスパイスだ。いいかえれば、俺が元居た世界で食べていたわが家のカレーの味に近い物のはずだ。実際先ほど味見したカレーのルーの味はややこちらの方がコクがあるような気もしたが、わが家のカレーの味だった。
早くきみたちもオコチャマ舌を卒業して大人の世界の仲間入りをするのだな。
ホー、おお辛い。水、みずー。
みんなも水をがぶがぶ飲みながらカレーを食べている。あまり水を飲むと2皿目が食べられませんよ。
「ミラ、悪いけどカレーライスのおかわりを貰えるか?」
「はい、お待ちください」
今食べたカレーライスの皿はそのままに新しくよそったカレーライスをミラが厨房から持って来てくれた。これだと効率が悪いな。
「ミラ、一々一皿ずつ厨房から持ってくるのだと手間だから、ご飯の入った鍋と、カレーの入った鍋をこっちに運んでおいて、各自今食べている皿に盛ってしまえばいいんじゃないか? おかわりの分はまだたくさんあるんだろ?」
「はい、そうします。ソフィア、手伝ってくれる?」
「はーい」
「それと、もうすぐアスカとラッティーも下りてくるだろうから、二人の分も用意しといてくれるかい」
「はい」
ワゴンにご飯とカレーが用意されて食堂に運ばれてきたところで、アスカとラッティーが食堂に入ってきた。ラッティーも先ほどと比べれば元気が出てきたようだ。
席についた二人の前にすぐにカレーライスが用意され、
「「いただきます」」
そういって、二人ともスプーンを手にしてカレーを口に運んだ。
「おいしい」
ラッティーには辛くなかったようだ。
アスカはいつものように無口でスプーンを口に運んでいるのだが明らかに普段のスピードよりも手の動かし方が速い。
フフフ、マキナドールの弱点を見つけたぞ。だからどうってことは何もないし、たぶん、明日になればすっかり忘れてしまうとは思う些細な弱点だが、いずれ思い出して役に立つかもしれない貴重な情報だ。
一部の連中には今日のカレーは相当辛かったらしく唇をタラコにしていたが大好評だったことには変わりない。今回は学校に行っているシャーリーに食べさせることはできなかったが、まだカレーは残っていたので一人分よそってもらって、収納しておいてやった。
ラッティーは午前中の勉強疲れと食後の満腹感のためか、目が重たくなってきたようなので、アスカのベッドで休ませ、俺は居間でしばらくくつろいでお腹が落ち着くのを待って、アスカと寝具を買いに出かけることにした。
20分ほどアスカと駆けて、いつもの家具屋に顔を出し、ベッドを10セット、それ用の寝具を10セット買っておいた。
「アスカ、ラッティーの机なんだがな、おまえの机だと大きすぎて、あれじゃあ首だけ出したさらし首だろ? 子ども用の勉強机を売ってないかな?」
「そもそも、あんな子どもが机に座って勉強することなどこの世界では考慮されていませんから売っていないと思います。私がいつものように作ってしまいますから、材料の木だけ買っておきましょう」
「そうだな。アスカの作る木工製品、いや金属製品もだが芸術品だものな。そっちの方がいいな」
いつものように木材を売ってくれるようお店の人に頼んだのだが、今回は寝具を大量に購入したせいか、ある程度の木材をタダで譲ってもらえた。そういったサービスをしてもらうと、俺としては必ず、あとでそれ以上そのお店を儲けさせるよう気を使っている。それが、お互いこれからも気持ちよく付き合って行ける秘訣ではないだろうか。
屋敷に戻って、家具屋さんから貰って来た木材をアスカに渡したらラッティー用の机と椅子をあっという間に作ってしまった。まさに、アスカ木工所だ。
あれ、まだ板とかだいぶ残っているじゃないか。
いいことを思いついたぞ。




