第170話 ラッティー3、変身
どうしたのか、ラッティーがアスカの後ろに隠れて出てこない。
「ラッティー。ほら、マスターにおまえの姿を見てもらえ」
アスカがラッティーを俺の方に押し出した。おずおずと現れたラッティーの格好にまず驚いた。
ゴスロリ。よくこんな衣装があったな。黒のエナメル靴に黒のロングドレス。スカート部分が何重にもなって広がった裾部分には白いフリルのレース。襟や袖にももちろん白いレースがふんだんに使われている。ボタンは、金ボタン。左右の袖口にも飾りボタンが四個ずつついている。結構お高い感じのゴスロリドレスだった。
ドレスはドレスですごかったが、やはり一番驚いたのは、ラッティー本人だ。ザンバラでごわごわだった髪の毛が肩口あたりできれいに切りそろえられ、サラサラだ。前髪はやや長めでこれもまっすぐに切りそろえられている。最初ラッティーを見た時は、髪の毛は灰色かと思っていたが、土埃か何かで汚れていただけで、実際は黒髪だった。
そしてキルンに確認飛行に行った時のシャーリーの友達のエメルダさんがかぶっていたような小さな、真っ赤な山高帽が斜めに黒髪の上に載っている。しかも、顔には薄く化粧もしているようで、口紅も薄く塗っているじゃないか。どこのお嬢さまだ?
「服を着せるのに少し時間がかかりましたが、なかなかのできだと自分でも思います。マスターはどう思います?」
アスカが自慢するのも分かる。まさに、大変身。
「アスカ、おまえ、スタイリストの才能もあったんだな。驚いたよ。
ラッティー、美人のお嬢さまだぞ」
そういったら、顔を真っ赤にしたラッティーがまたアスカの後ろに隠れてしまった。
「ラッティー、そんなに綺麗なんだから恥ずかしがることないんだぞ。
それじゃあアスカ、どこかに食事に行くか? ラッティーもいることだし、宿屋で食べなくても、どこかそれなりのレストランにでも行くか?」
「ラッティーのこともありますから、宿屋の食堂で食事をとりましょう。ラッティーには単品で好きなものを頼めばいいでしょうから」
「俺はどっちでもいいけど、
ラッティーはどうだ? レストランの方が良いものが食べれると思うけど、宿屋の食堂の方が、気楽だと思うぞ」
「それなら宿屋がいい」
「だそうだ。アスカ、宿屋に戻ろう」
「はいマスター」
「その前に、ラッティー。喉が渇いたろう。グレープジュースだ、飲むだろ?」
そう言って、さっき俺が飲んだのと同じグレープジュースの入ったコップをラッティーに渡し、アスカにも渡した。
「はい、アスカ」
「マスター、ありがとうございます」
ラスティーも受け取ったジュースを飲みながら小さな声で、
「ありがとう」そう言ってくれた。
受付のお姉さんがまた飲みたそうな顔をしてこっちを見ていたが、俺と目が合った瞬間目を逸らせた。そりゃそうだ。
風呂屋から出たら、あたりはもう暗くなっていた。せっかくのお風呂で温まった体が湯冷めでもしたらまずいので、やや速めに歩いて宿屋に帰りついた。ラッティーの小さな足とごてごてした衣装ではきついかもしれない速さだったが、問題なかった。
「ラッティー、おまえ帰るところはないんだろ?」
頷く、ラッティー。
宿屋の受付には、またあのかわいらしい宿屋の女の子が座っていた。
「お嬢さん、今帰りました」
「お客さん、お帰りなさーい。部屋の鍵でーす」
部屋の鍵を受け取る。アスカはラッティーを連れ、少し離れたところに立ってラッティーに何か話しかけている。俺は、少し小さな声で、
「もう一人、あの子を部屋に泊めたいのだけれどいいかな?」
よそを向いてアスカと何か話をしているラッティーを指さして、宿屋の受付の女の子に尋ねた。
「同じ部屋なら問題ありませーん。追加料金は、かわいい女の子さんなので食事代の大銅貨3枚だけでいいでーす」
大銅貨3枚を払い、受付の女の子をおだてて、
「お嬢さんありがとう。お嬢さんも可愛いよ」
「お客さま、レディーの扱いがお上手ですー。フフフ」
「ラッティー、俺たちはいったん部屋に戻るからおまえもついて来てくれ」
ラッティーを連れて二階の角部屋に戻った。荷物が有るわけではないが一度部屋に戻ってゆっくりしたかっただけだ。
「マスター、確かにレディーの扱いがお上手になりましたね」
「小さな子ども限定だがな」
「小さな子どももそのうち成長すればレディーですから、戦術では後れを取り気味のマスターの将来だけを見越した、起死回生の大戦略という訳ですね?」
「アスカがなにを言っているのかは理解しづらいが、ラッティーの今着ている服は着替えさせるんだろ? この服だと食事しにくそうだと思うが」
預かっていたラッティーのためにいろいろ買った物の入った包みをアスカに渡した。
「はい。着替えに普段着も何着か買いましたから、すぐに着替えさせます。レディーの着替えにマスターがそばにいると問題ですので、マスターは先に食堂に下りて、本日のお勧めを人数分注文しておいていただけますか?」
「わかった、鍵を渡しておくからラッティーを着替えさせたら早めに来てくれ」
「了解しました」
「ラッティー、夕食までもう少しの辛抱だ。それじゃあな」
「うん」
食堂に下りていき、空いていた四人掛けのテーブルについて、本日のお勧めを3人分注文しておいた。今日のお勧めのメインは豚肉のソテーだそうだ。5分ほどで、アスカとラッティーがやって来た。ラッティーの着ているのは今度は普通の服で、部屋着に近い。かわいらしい顔つきなので、それでも人目をひくほどだ。
今日は俺の向かいにラッティーが座り、その隣にアスカが座っている。二人が席につくと間をおかず、注文していた今日のお勧め料理が運ばれて来た。湯気の立つ料理が目の前に置かれたラッティーが目をみはっている。
「ほんとに食べていいんだな? いえ、食べていいんですか?」
「ああ、好きなだけ食べさせてやると言っただろ? 遠慮せずに食べろ。そのかわりよく噛んでな。それじゃあ俺たちも、『いただきます』」「いただきます」
俺たちが『いただきます』と言っているうちから、ラッティーはがつがつと豚のソテーを口に運んでいた。大きな肉だったが、そのままフォークを肉の真ん中に突き刺してむさぼり食べている。なんだか、見ていると、行儀が悪いとかそんなのではなく、なにか悲しく感じるものがあった。アスカもラッティーが肉をがつがつ食べている姿を見ていたが何も言わず、好きなように食べさせていた。




