第131話 なんでもMONちゃん
みんな思い思いのお土産を買い、キルンでの観光も終え、俺たちは無事王都に帰還した。
王都に帰り着いたのは午後四時を回った時間だった。
四時ごろに迎えに来るよう頼んでいた箱馬車がボルツ邸の前に到着して待っていたので、それに乗り込み、エメルダさんを先に送ってから『ナイツオブダイヤモンド』に帰った。エメルダさんは、以前フレデリカ姉さんが言っていた宿屋『銀馬車』のスイートに泊まっていた。
キルンまでの確認飛行だか遊覧飛行を終え、王都に戻ってから数日がたったある日。
ボルツさんの新工房もすでに柱が立って、屋根の骨組を作っているところである。
新しい俺たちの屋敷の方も順調で外壁、床ともに仕上がり、内装工事に取り掛かっているそうだ。一応は貴族の屋敷なので、屋敷の前の外構工事(庭や塀なども)もだいぶ進み、立派な門柱もすでに立っている。
どちらもあと一カ月で受け渡しだ。
今日も今日とて、シャーリーを学校に送り出した後することがない。
「なあ、アスカ、暇なんだけど」
恒例の、暇アピールをして見る。最初はアスカもいつも通り俺を無視する。
「なあ、アスカ。すごく暇なんだけど」さらに追撃の暇アピール。
「マスター、私にどうせよと?」
「なんか面白いことないかな?」
「面白いことと言われましても」ここまでがお約束のパターン。
「アスカ、俺のいた世界のファンタジー小説にはテイマーと言ってモンスターを手なずけてそいつらを手足のように使う職業があるんだ」
「いきなりですね。前回は飛空艇でしたが、今回はテイマーですか? 当然、マスターの知識ですので私も知っています」
「それで、この世界にはテイマーとかテイムとかないの?」
「マスターの言いたいことは分かりました。それでは私と少し出かけましょう」
「どこへ?」
「ついて来ていただければわかります」
そういうアスカの後について、王都のとある商店街の中を今は歩いている。
「マスター、ここです」
アスカがある店の前で立ち止まった。
言われて見上げると、店の看板がある。
『かわいいモンスターのことなら なんでもMONちゃん で!』
妙にかわいい字体で書かれた看板が掛かっていた。
『なんでもMONちゃん』という店らしい。
アスカに促されて店の中に入ると、独特のにおいがする。これはペットショップのにおいだ。
「アスカ、ここペットショップじゃないか?」
「そうですよ、モンスター専門のペットショップ、『なんでもMONちゃん』ですから」
ちょっと俺の思っていたこととこれは違うんじゃないか?
今まで、俺とアスカの間には、阿吽の呼吸というか、魂のつながりというか、何かそんなものがあると思っていたのは俺の思い過ごしだったのか?
店の中でアスカと喋っていたら、奥の方から女の人が出てきた。
「『なんでもMONちゃん』にようこそ、どのようなモンスターをお探しですか?」
「あまり大きくなくてかわいらしいモンスターはいますか?」
おいおい、モンスターでかわいらしいはないだろー。
「それでしたら、こちらはいかがです?」
店の奥に並んだケージの前まで連れていかれた。店の人が指し示す先には、真っ白な子犬がしっぽを振っている。なに? このかわいい生物は。
「スノー・ハスキーの幼体です。ダンジョンに連れていって濃い魔素を吸わせるか、魔石を与えるかしないと、これ以上は大きくなりません」
「あとは、こちらのツインテールキャットの幼体です。こちらも濃い魔素を吸わせるか、魔石を与えるかしないと、これ以上は大きくなりません」
髪の毛がツインテールでなく、しっぽが二本ある猫だった。
「どうです。可愛いでしょう?」
そう言いながら店の人がツインテールキャットの幼体の喉元をくすぐってやっている。ツインテールキャットは目を細めて気持ちよさそうだ。
これはアスカにいっぱい食わされたのか? アスカのやつ、自分が欲しくて俺をこの店に連れて来たんじゃないか?
「マスター、いかがですか?」
ここは、素直に認めよう。
「可愛いじゃないか。だけど今は宿屋住まいだからペットはまずいんじゃないか?」
「お客さま。モンスターは粗相などはしませんし、テイム済みですので決して人を襲ったりしませんから安心ですよ。それに、与えるエサも魔道具などで使い古した魔石で十分ですから。そういったところが好まれて、モンスターペットは王都ではやりつつあるんです」
店には俺たちしか客はいないけど、まだ朝の早い時間なので、客の入りはこれからなのかもしれない。
「へー、そうなんだ。アスカどうする? さすがに宿屋で二匹は飼えないから一匹にしよう」
もう買うことは俺の中で決定している。俺は犬派なので当然スノー・ハスキーの幼体が欲しいのだが、一応アスカの意見も聞いてみることにした。
「それでは、マスターがチラチラ横目で見ているスノー・ハスキーの幼体を購入しましょう。他のは見ないでいいんですか?」
まさにバレテーラだった。ここは俺とアスカの以心伝心が復活したと思っておこう。
「いや、いい。他の子に目がいったらこの子に悪い。
それではこのスノー・ハスキーの幼体をいただけますか?」
「代金は、大金貨一枚になりますがよろしいですか?」
思った以上に高いが相手はわざわざテイムしたモンスターだ。そのくらいするのは当たり前なのかもしれない。
「はい、問題ありません。それでこの子を育てるにあたっての注意するようなことってありますか?」
「先ほども申しましたが、粗相などはしませんし、エサも魔力の抜けた魔石で十分です。エサといっても、実際はおやつのようなものですので、必ず与えなくてはいけないというものではありません。モンスターなので病気もしません。この子の場合は、普通の犬と同様にたまに散歩に連れて行ってやると喜ぶといったところでしょう」
「分かりました。それではこれで」
大金貨一枚を手渡す。
「はい、この子をよろしくお願いします。サービスで小型のケージに入れて差し上げますので、あまり揺らさないよう気を付けてお帰り下さい。家の中では、逃げたりしませんからケージから出しておいて大丈夫です。そうそう、ちょっと待っててくださいね」
店の人がいったん店の奥に行って何かを持って戻って来た。
「散歩をするなら、この首輪とリードをお使いください。これもサービスしますからどうぞ」
首輪と、それにつなげる太い紐をもらった。
首輪だけはその場で付けて、スノー・ハスキーの幼体をケージに入れてもらい、ウキウキしながら『ナイツオブダイヤモンド』にゆっくり歩いて帰った。
後でアスカに聞いたら、さっきの店の人が『なんでもMONちゃん』の店主で、名前はハニー・ベレット。職業はテイマーで、スキルにテイムを持っているそうだ。
レベル2のスノー・ハスキーやツインテールキャットをテイムしていたところを見るとスキルレベルは2以上は持っているとのことだ。なぜかというと、自分のテイムレベル以下のレベルのモンスターしかテイムできないということだ。
それで、テイムしたモンスターなのだが、ふつうはテイムした人に対してだけ従順になるのだが、テイマーを職業に持った者がモンスターをテイムすると、テイムした本人だけでなく、全ての人間に対してモンスターは従順になるのだそうだ。
それで、モンスターをペットにすることができるようになったので『なんでもMONちゃん』を開業したらしい。




