第116話 再び北の砦2
飛空艇は進路を真北から少しずつ西に向けた後、北の砦に向け順調に飛行を続け、飛空艇の下の地面が一面の砂漠となって既に二時間ほど経過している。
「前方十キロ、北の砦が見えてきました」
前方の砂漠の上に、建物のようなものがかすかに見える。なぜか砂煙のようなものが立ち上がっているようにも見えるがこの距離ではよくわからない。
「着陸準備に入ります」
「近くに下りると砦の人たちが驚くだろうから、前回来た時に休憩した場所に下りよう」
「了解。……前回の砂丘の上空に到達。噴気方向下向き確認。降下します。着陸脚展開」
確かに砦の北東方向から幾筋も砂煙が上がっており、ミニマップを見ると小さな赤い点がたくさん映ってる。急いだほうがよさそうだ。
徐々に飛空艇が降下し始めた。足の下でカタカタいっているのは、着陸脚を出している音だ。
「着陸脚、展開完了。高度七百、六百五十、……着陸しました。加速器停止します」
降下時の噴気で砂が巻き上げられ操縦席の前のキャノピー前が曇ってしまい視界は良くないが、飛空艇が軽く振動したことで着陸したことが分かる。
「アスカ、『スカイ・レイ』で何か問題はないか?」
「現状、整備を必要とする問題はありません」
「分かった。外に出て、『スカイ・レイ』を収納してから、急いで砦に向かおう」
「はい、マスター」
急いで『スカイ・レイ』から飛び出し、そのまま収納して砦の方へ駆け下りて行く。
砦の北側と東側の外壁に、モンスターが取り付いているのが見えた。モンスターの数はおそらく二百。
北東の方向から砂煙が幾筋も近づいてきているので、モンスターは増えていきそうだ。
砦の外壁は以前来た時と違い、二メートルちょっとの高さになっており、厚さも厚くなっているようで、壁の上から兵隊さんが槍を突き出してモンスターを攻撃している。櫓の上から弓を射ている兵隊さんもいる。見たところ兵隊さんの負傷者はいないようだ。
「アスカ。右から回り込んで、少し離れたところからモンスターの魔石を抜いていく。援護頼む」
実際、アスカが一人で突っ込んでいけば、ものの十秒もかからずモンスターを殲滅できると思うが、でき上がりがね。砦から見てる人も多いみたいだし。
すこし走ると、モンスターをはっきり目視できるところまで近づいた。砂色のトカゲ型のモンスターで、立ち上がると人の背丈くらいの大きさがある。そいつらが、外壁に爪を立ててよじ登ろうとしている。
魔石は胸のあたりにあるようだ。手あたり次第、目に入り次第、魔石奪取アンド収納のコンボでモンスターを減らしてゆく。
櫓からの矢も止んで、砦の方は何だか静かになった。
砦に取り付いていた最後のトカゲをコンボで処理し、収納庫の中を確認すると二百八匹のトカゲがいた。サンド・リザードという名前らしい。まだ北東から近づいて来る砂煙はあるが、これで砦の危機は去ったと思っていいだろう。
「アスカ。サンド・リザードのモンスターレベルがわかるか?」
「サンド・リザードはレベル2相当のモンスターです」
残念。レベル3あれば、『スカイ・レイ』で使えたのに。
サイドワークはここら辺にして、砦に荷物を届けよう。
砦の南側に回って、荷物を届けに来たことを告げると、すぐに砦の門が開き中に通されたのだが、すぐ目の前に隊長のローゼンさんが立っていた。これは好都合。
「こんにちは、ローゼンさん。今回もわれわれが物資を届けに来ました」
「それは済まんな。いままでサンド・リザードの大群が砦を襲ってたんだ。それが、気が付いたらいなくなってしまった。そしたら、お前さんたちが近くに立ってるじゃないか。お前さんたちが何かしたのか?」
「はい。とりあえず、砦が危なそうだったんで、目に付くトカゲは私が斃してついでに収納しちゃいました」
「はあ? 斃してついでに収納しちゃったって。どういうことだ?」
「だから、言った通りです。ほれ、この通り」
トカゲの死骸を十匹ほどローゼンさんの横の砂の上に出してやった。
「うぉ! いきなり出すな。ほんとにサンド・リザードだ」
出してても仕方ないのでトカゲはすぐに仕舞う。
「いまのが、全部で二百八匹いました」
「分かった、信じよう。物資を運んでくれた上に、砦の危機を救ってくれてありがとう。このことは騎士団本部に連絡しておくから、だいぶ先になると思うがそのうち騎士団から金一封が出ると思うぞ」
そいつはありがたい。
「それでは、さっそく荷物を出しますから、倉庫にお願いします」
「おーい、また資材が届いたぞー。資材の確認するから、空いてるやつはついて来てくれ」
「……、これで、最後です」
三棟目の倉庫に最後の荷物を取り出し、確認の終るのを待つ。
「確認は終わった、今回も問題はない。サインはここだな」
確認書類を受け取りサインを確認。これにて依頼完了。
「どうして、急にトカゲが砦を襲ったんでしょうねえ?」
少し不思議に思ったのでローゼンさんに聞いて見たところ、
「どうも今までいた砂虫がいなくなったようで、その穴を埋めるように東から移動してるらしい。今までは、数匹単位でやって来てたんだが今日は集団でやって来やがった。あいつらそんなに強いモンスターじゃないが、なかなかしぶとくて手がかかるんだ。あのままではじり貧になったところだ。危ないところだった」
俺にも原因があったようだ。とりあえず自己完結できてよかった。よかった。
「そういえば、お前さん達、前回ここに来た時、『魔界ゲート』に行っただろ? その時大爆発があったんだがなんともなかったようだな。爆発の後、ゲートを見にいったら、今まで南を向いてたゲートが北の方を向いてるじゃないか。しかも、少し位置もずれてた。お前たち何か知らないか? ゲートが北を向いたおかげで、この砦からゲートからあふれ出す魔族に直接攻撃できなくなってしまった。いやーこれには困った。今は王都からの指示待ちだ」
まずいまずい。騎士の人から預かった指示書をローゼンさんに渡すのを忘れてた。しかも前回『魔界ゲート』を出し入れした時なにかやらやらかしていたようだ。
「すみません、王都から預かった書類をお渡しするのを忘れてました。これがその書類です」
そう言ってローゼンさんに預かっていた書類を渡す。
逆にグッドタイミングか? ゲートの話をかわせるぞ。
「おお、これは王都からの指示書だ。ありがとう。で、『魔界ゲート』について何か見なかったか?」
かわせなかった。
「私たちは、見物してただけで、ナニモシリマセンヨ」
「そうか? ま、無事で良かった。こうしてまた砦に来てくれたしな」
「それじゃ、私たちはこれで」
『素知らぬ顔にたたりなし』
これって名言だよね。




