第111話 北の砦、善後策
ショウタたちが、タチアナ・ボルツたちと飛空艇を建造していたころ。
『魔界ゲート』が向きを変えたという情報が北の砦からの急使により第3騎士団本部にもたらされた。ショウタたちが王都に戻ってからちょうど一カ月後のことである。
現在北の砦では、第3騎士団本部からの指示を待つ傍ら、二人の冒険者により大量の物資が届けられたことで、滞っていた砦の拡充を再開している。
当初の対『魔界ゲート』、対魔族の戦術は、『魔界ゲート』が解放され魔族があふれ出た時には、正面に築いた砦から魔導砲などで魔族を駆逐しつつ、勇者を含む精鋭が突撃し、『ゲート』にたどり着いた勇者がその聖剣で『魔界ゲート』を閉じてしまうというものだった。
しかし、『魔界ゲート』が百八十度回転して、砦の逆方向を向いてしまったため、作戦の変更が必要となった。
現在、騎士団会議室で、ポーラ・ギリガン総長、アンソニー・トリスタン第2騎士団団長、アルビン・レスター第3騎士団団長の三名が今後の作戦について話し合っている。
「大きな音とともに『魔界ゲート』の向きが変わったのは分かったが、ゲートの開放時期はどうなんだ?」
ギリガン総長の問いにレスター第3騎士団団長が答える。
「そちらの方は、『ゲート』の魔素充填率を計測した結果、変化ないようです」
「それは良かった。今の砦を拡充するのは賛成だが、その後どうする。トリスタン、ゲートの後ろから突撃できるのか?」
「魔族に対し飛び道具での先制攻撃が難しいとなると、突撃は難しくありませんか?」
「やはり『魔界ゲート』の正面に何らかの拠点が必要でしょう。その拠点から先制攻撃を仕掛けましょう」
「レスター、今の砦を放っておいて新しく、『魔界ゲート』の正面に砦を築くというのか?」
「いえ、今の砦はこのまま整備し、新しく『魔界ゲート』の正面に先制攻撃及び突撃をするためだけに特化した拠点を作るのはどうでしょう」
「どういったものなんだ? その特化拠点というのは?」
「はい、まずは魔導砲などの台座、攻勢魔導兵の陣地、突撃部隊の待機場所、こういった攻撃に必要なものだけを揃えます。兵舎や、食堂等は、今の砦で間に合わせます」
「今の砦と特化拠点との行き来は、塹壕でも掘ればいいか。よし、それで行こう」
「ところで、トリスタン、肝心の勇者さまの方はどうなんだ?少しはヤル気を出しているか?」
「はい。少しはやる気が出てきたようで、以前は素振りなど全くしていなかったのに今は真面目に行なっているようです」
勇者については、若干の負い目があるので、ギリガンは少し安心する。
「北の砦に物資を大量に運んだという冒険者なんだが、また次も頼めるか?」
「現在、砂虫の活動が低調で、これまで通りの輸送法でも何とか砦への物資の輸送はできているようです。新たに拠点を作るとなると、さらに物資が多量に必要となりますから先の冒険者に依頼できればありがたいですね」
「運搬費用はかなり掛かったようだが、かかった時間と運んだ量を考えると、安上がりだったようだな」
「運搬途中の損耗等もなく資材が北の砦に短時間で届いたわけですから驚きです」
「一週間で王都と北の砦を往復したんだろう。しかも、商業ギルドの大倉庫一棟分の資材を持って」
「何でも、キルンから来た若手の冒険者二人組で、ショタースとかいうパーティー名だそうです。噂ですが、たった二人で何百メートルもある砂虫を退治したそうで、今は二人ともAランクに昇格しているようです。計画の細目を決めたうえで、冒険者ギルドに依頼を出して、ショタースに資材を運んでもらいましょう」
「ほう、ショタースか。そんなすごい連中なら一度会ってみたいものだな」
これが、ショウタとアスカがギリガン総長と出会うフラグとなるのか?
会議室での会議が終わったトリスタン第2騎士団団長が王宮内を歩いていたところ、珍しい人と出会った。
「これはお珍しい、マーロン魔術師団長ではありませんか。魔術師団の方の訓練はいかがですか?」
「これはこれは、トリスタン団長久しぶりですな。テンペラ宮以来ですか。訓練の方は、ぼちぼちといったところでしょうかな」
「そうですか。マーロン魔術師団長が王宮内にいらっしゃるとは珍しいですね」
「いや、元気に回復されたリリアナ殿下の家庭教師を頼まれましてな。それで王宮に出入りすることが多くなったんじゃよ。そういえば、トリスタン団長、憶えておると思うが、キルン迷宮で行方不明になったコダマ殿に先日王宮で会ったのじゃ。迷宮で文字通り迷子になったらしいが何とか地上に戻って来て今は冒険者をやっておるそうな。わしも安心したよ」
「そうでしたか。あのコダマ殿が。目だったスキルはないうえ、ステータスも人並みかそれ以下だったにもかかわらずキルン迷宮から脱出できたとは」
「まだ旅先のマリア殿下は知らぬだろうから、殿下に親しいトリスタン殿の方からも帰られたら伝えてあげてくだされ」
「了解しました」
『あの、収納士とかいうあまり戦闘には向かなそうなスキルの上、ステータスも運以外平凡だったコダマがキルン迷宮を独力で脱出したのか。俺も見る目がなかったわけだ』
ステータスしか取り柄のない勇者しか見ていなかったトリスタンはステータスがすべてではないことに今更ながら気づき反省するのだった。




