第101話 王立セントラル大学文官養成部付属校
商業ギルド本部のリストギルド長にシャーリーのセントラル大学文官養成部付属校への転入のお願いをした二日後には、リストさんから連絡があり、転入は正式に許可されたそうだ。さすがは親会社(セントラル大学)の理事だ。
こういうのも一種の裏口入学なのかもしれないのだが、たとえば、バックドア・アプローチと言い換えれば、なんだかカッコいいことをしたように思えるから不思議だ。
何が言いたいかというと、要は気の持ちよう。自分が納得してればいいのだ。運が悪くて社会にばれると社会的に人生が終了してしまうかもしれないが、リスクを取らねばリターンは得られない。アスカも横で頷いている。わかって頷いてんのか?
今日はシャーリーを連れ、その文官養成部付属校の校長先生に挨拶の傍ら見学にきている。シャーリー連れなので足は当然箱馬車だ。シャーリーの足だと『ナイツオブダイヤモンド』から歩いて、四十分はかかりそうだ。新しく出来る屋敷からだと、ここからさらに遠いので五十分はかかるだろう。俺とアスカならどちらにせよ五分もあれば十分だと思うけどね。
一人で四十分の通学は大変だろうし、こっちが心配だ。
というわけでシャーリーの通学には箱馬車が必要だ。帰ったら『ナイツオブダイヤモンド』の支配人さんにお願いして、日々の送り迎えを長期契約で箱馬車に頼めないか聞いてみよう。
この学校には寮もあるそうだが、若い娘を寮なんぞに入れてしまったら、何か良からぬことが起きても嫌だから自宅通学だ。
きょう乗って来た箱馬車には正門横で待っていてもらうことにした。
馬車を降り正門の守衛棟で名乗ると、待機していたのか、ザ・女史といった感じの黒ぶち眼鏡をかけタイトな黒スカートに白のシャツをパリッと決めた三十前くらいの女性が出迎えてくれた。
「コダマ子爵閣下と、エンダー子爵閣下でいらっしゃいますね。私、シャーリー・エンダーさんの担任を任されましたシルビア・ラブレスと申します。よろしくお願いいたします。さっそくですがこれから校長室にご案内します」
「ラブレス先生。こちらこそ、シャーリーをよろしくお願いします」
「シャーリーをよろしくお願いします」
おお、挨拶がちょっと長いよ。普段付かない『よろしく』付きだよ。アスカも気合が入ってんな。
「ラブレス先生。シャーリー・エンダーです。よろしくお願いします」
こっちはちゃんと頭を下げてお辞儀してる。偉いぞシャーリー。しかし、この先生、今授業中じゃないの? 自分の受け持ちクラス放ってていいの。ああ、ここは教科制なのでラブレス先生はいま授業がないのかな。
かなり広い校庭では体操着を着るわけでもなく学校の制服を着たままの生徒たちが、球技のようなものをしている。ボールを蹴って走り回っているからサッカーかな?
俺達は、校庭で走り回っている生徒たちを横目で見ながら、ラブレス先生に連れられ校長室に案内された。
「ラブレスです。両子爵閣下をお連れしました」
「どうぞ、お入りください」
校長室に入ると、初老のおじさんが執務机からにこやかに立ち上がり、こちらにやって来た。
「初めまして、コダマと申します」「エンダーです」
「初めまして、シャーリー・エンダーです」
ペコリ。シャーリーは少し緊張しているみたいだ。
「初めまして、この学校の校長を務めますマクローリンと申します。コダマ子爵殿、エンダー子爵殿、シャーリーさん。どうぞお楽に、そちらにお掛けください」
ソファーを勧められたので、着席する。左からアスカ、シャーリー、俺の順だ。向かいはマクローリン校長とラブレス先生。
「シャーリーさんは、大学の方の経理科に進みたいということで、うちの学校に入学されるということでしたな。ゆくゆくは、それを活かして両子爵家に役立てたいと。目標があるということは結構なことです。
最近の若者は、とりあえず入学して、そのうちに自分に合ったものを探せばいいと暢気に構えている者が多く、そのうち、そのうちといって、気付けばあっという間に三年が過ぎてしまっているということがままあります。
あと注意点が一つ。当校には、他国からの子女も大勢留学しています。中には身分制度に厳しい国からの生徒さんもおり、シャーリーさんのような孤児奴隷の生徒を見下してしまうことがあるやもしれません。わが国の孤児奴隷制度をちゃんと理解しておればそのようなことはないはずなのですが残念なことです。
大学の理事会からも、シャーリーさんに対してそのような問題が決して起こらないよう十分注意するよう指示されていますので、安心してください。ですが、われわれ教師の目が届かない場合もありますので、なるべくそのような生徒には近づかないようお願いします。
私の方からはそんなところです。後はラブレス先生お願いします」
「それでは、私ラブレスが構内をご案内しながら当校の仕組みなどをご説明いたします。どうぞこちらへ」
マクローリン校長に礼を言い校長室を後に。ラブレス先生について構内を案内してもらう。
歩きながらのラブレス先生の説明。
文官養成部付属校
一学年の学年の定員は二百名、一クラス定員四十名、一学年五クラス、全3学年。九月から十二月までの1学期、一月から三月までの2学期、四月から七月中旬までの3学期の三学期制、七月中旬から八月一杯が夏休み。
祝祭日、日曜が休日。講義時間は九十分。午前二コマ、午後一コマ。授業開始は午前八時五十分、終了は午後三時三十分、正午から午後二時まで昼休み。
A、B、C、D、Eの五つのクラスは成績順でクラス分け。1年生の1学期は入試成績順。2学期以降は前の学期の成績でクラス替えを行う。クラス替えは変則的で、Aクラス下位十名とBクラス上位十名、Bクラス下位十名とCクラス上位十名といった具合にクラス替えされる。
Aクラス下位十名の成績がBクラス上位十名と比べ良かったとしても、クラス替えは行われる。クラスの中での順位が重要になるが、進級時は前年一年間の成績で学年全体を通して順位が付けられ、クラス分けされる。ある程度能力の幅を持っているがそれほど差のないグループの中で成績を競っていけるシステムとなっている。
「シャーリーさんは、私のAクラスに編入しますから、1年生のあいだ、いくら成績が悪くてもCクラスまでしか下がりませんから安心ですよ」
そんなにシャーリーが頭悪そうに見えるのか?
「ここが、食堂です。定員は三百名なので、お弁当などを持参する人も結構います。寮生ですと、昼食時には各自の寮に戻り寮の食堂で昼食をとっているようです」
かなり立派な食堂だ。
「こちらが、講堂になります」
「体育は当校では行っておりません。今グランドで走り回っている生徒たちは、自習時間を利用して遊んでいるのでしょう。因みに、いま走り回っているのは私の担任するAクラスのみんなです。シャーリーさんのクラスメートになる人たちですね」
ラブレス先生がにっこり微笑んで俺たちの方を見る。いや、微笑んでもらうのはいいけど、生徒ほっといて、俺たちの案内してていいの?
「入学に際しての事務手続きは終っていますので、後は制服などの購入をお願いします。シャーリーさんの体格ならば、校内の購買部に在庫があると思います」
「ここが、購買部です。一部サイズ的な問題で特注の必要な制服などの例外はありますが、学校で必要とするものはおそらくすべて揃っていると思います。シャーリーさんは明日からの転入ということですので、明日の八時三十分までに正門にお越しください。教科書等は明日お渡しします」
「ラブレス先生、色々お世話になりました。われわれは、このお店で必要なものを揃えてしまいますから。どうぞ授業にお戻りください。ありがとうございました」
「いえ、どういたしまして。何かわからないことがあれば、近くの職員にお聞きください。それでは失礼します」
「どうも、ありがとうございました」「ありがとう」「ラブレス先生、ありがとうございました」
仕事熱心なのか何だかわからない先生だったな。それでも信頼は出来そうな先生でよかった。
「それじゃあ、購買部の人と相談して、どんどん買っていこう」
購買部の女性職員の人と相談しながら、制服上下、ブラウス、靴、手提げかばん、筆記用具、ノート等取り揃えることができた。もし足りないものがあれば、シャーリーにお金を多めに持たせておけば何とかなるだろう。




