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EP 5

冷徹なるサイラスの罠〜地下帝国、完全封鎖〜

地下帝国ドンガンの外、鉄鋼山脈の麓に設営されたゴルド商会の豪奢な前線基地。

最高級の絨毯が敷かれた天幕の中で、エリート幹部であるサイラスは、報告に駆け込んできた密偵を冷たい目で見下ろしていた。

「……ほう? たった一人の少年が、数千人のドワーフに極上の酒と肉を振る舞ったと?」

サイラスは銀縁の眼鏡を押し上げ、ワイングラスを静かにテーブルに置いた。

第一章でソラトが相対した太った商人とは違い、彼は知性と冷酷さを兼ね備えた男だった。感情で動くことはなく、常に「利益」と「盤面」を計算する。

「は、はい! 信じられませんが、彼の持つ薄汚れた魔法鞄から、巨大な樽や丸焼きが無限に湧き出してきて……! ドンガンの職人たちは完全にあの少年に取り込まれました!」

「無限、ね。馬鹿馬鹿しい。いかに古代のアーティファクトであろうと、容量には必ず限界がある。だが……あのガレリアの街で飛竜騎士団を無力化したという『規格外の厄介者』が、自ら袋のネズミになりに来てくれたのは好都合だ」

サイラスは冷酷な笑みを浮かべ、傍らに控える傭兵隊長に指示を出した。

「作戦を変更する。ドンガンへ通じる『大扉』を外側から完全に溶接し、予備の搬入用トンネルをすべて爆破しろ」

「えっ!? さ、サイラス様。それでは我々の部隊も中に入れなくなりますが……」

「構わん。物理的な『完全封鎖』を行う。食料の供給を断つだけでなく、空気の循環すらもな。……どんなチート鞄を持っていようと、十万のドワーフを一生養うことなど不可能だ。希望を見せた後に、より深い絶望に叩き落としてやる」

一方、地下帝国ドンガンの広場。

『米麦酒』と『シープピッグの丸焼き』による大宴会は最高潮に達していたが、突如として地下全体を揺るがす大地震のような轟音が鳴り響いた。

ズズズズズズズッ!!!

ドゴォォォォンッ!!!

「な、なんだ!? 鉱盤が崩れたのか!?」

「親方! 大変です! 地上へ続く大扉が……外側から完全に封鎖されました! 第2、第3の搬入トンネルも爆破されて、完全に生き埋めです!」

血相を変えた若いドワーフの報告に、広場は一瞬にして静まり返った。

「……サイラスの野郎、ついに狂いやがったか。街ごとワシらを窒息死させる気じゃ!」

群衆の中から、ひと際巨大な体躯を持つ老ドワーフが進み出てきた。

顔には歴戦の傷跡、長く編み込まれた白い髭。彼こそが、ドンガンを統べる『ドワーフ王』だった。

その時、広場の中央に設置されていた大型の『魔導通信石』が強制的に起動し、空中にサイラスの巨大なホログラム映像が投影された。

『ご機嫌よう、ドンガンの諸君。そして……我が商会の利益を度々侵害してくれる、ネズミのような少年よ』

サイラスの冷徹な眼差しが、ホログラム越しに俺を捉える。

『私は寛大だ。諸君らに最後の選択肢を与えよう。ドンガンで極秘開発されている【最新鋭魔導パワードスーツ】の設計図、その赤毛の小娘ガーネット、そして……そこの少年が持っている【魔法鞄】。この三つを大人しく差し出すなら、封鎖を解いてやろう』

サイラスは眼鏡を光らせ、残忍な笑みを深めた。

『猶予は3日だ。少年の鞄にどれだけ食料が入っていようと、酸素と物資が枯渇する恐怖の中、暴動が起きるのは時間の問題だろう。……賢明な判断を期待しているよ』

プツンッ。

一方的に通信が切れる。

広場は再び重苦しい沈黙に包まれた。完全な密室に閉じ込められた恐怖が、ドワーフたちの顔に影を落とす。ガーネットも青ざめた顔で俺の袖をギュッと掴んだ。

「しゃ、社長……。ごめんね、私のせいで、こんなことに……」

「……ご主人様。私が上に向けて全力で金棒を振り抜けば、山を一つ吹き飛ばして風穴を開けられますが。やりますか?」

カグラが極めて物理的かつ物騒な解決策を提案してくる。

ルクスは肩をすくめ、「あれでは街も崩落してしまいますよ、カグラ殿」とたしなめた。

「ソラトとやら。すまんが、お前さんたちも巻き込んでしまったようじゃな」

ドワーフ王が重いため息をつき、俺の前に立った。

「ワシらは決して屈せん。だが……このままでは、皆が飢えと酸欠で死ぬ。ワシが責任を取って、奴らの条件を飲むしか……」

「王様。あんた、ドワーフの誇りをサイラスなんかに売り飛ばす気か?」

俺は立ち上がり、ドワーフ王の言葉を遮った。

「たしかに、普通の物流業者なら、道を物理的に塞がれたらそこでお手上げだ。だがな……」

俺は魔法ポーチをポンと叩き、不敵に笑い放った。

「俺の【神のオーバー・ロジスティクス】を、ただの『大容量の冷蔵庫』程度に思ってるなら、サイラスのエリート様も底が知れてるな」

俺はドワーフ王と、広場に集まった数万の職人たちを見渡した。

「サイラスは3日待つと言った。つまり、俺たちはこの3日間、誰の邪魔も入らずに『好きなだけ最強の兵器を作れる』ってことだ。違うか?」

「な、なに……?」

「飯ならいくらでもある。素材も俺のポーチに腐るほどある。……ガーネット、親方衆! この地下帝国を、俺の『ソラト物流』の最大拠点として再構築リビルドするぞ! サイラスの絶望顔を見る準備はいいか!?」

俺の挑発的な言葉に、ガーネットの瞳に再び炎が宿り、ドワーフの親方衆がニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

「ガハハハハッ! 言いよるわ、この若造! 上等じゃねぇか!」

「死の商人の本気、あの眼鏡の青瓢箪に骨の髄まで叩き込んでやるぜ!」

冷徹なるサイラスの「完全封鎖」という名の兵糧攻め。

だが彼は、前世で「ジャスト・イン・タイム」の物流を極めた俺に、最も与えてはならない『準備期間』を与えてしまったのだ。

地下帝国ドンガンの大逆襲が、今幕を開ける。

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