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EP 1

魔力ゼロの「お荷物」と、ぶっ壊れた魔法ポーチ

「ソラト。今日、16歳の成人をもって貴様を我が家から追放する。二度と敷居を跨ぐな」

ルナミス帝国でも有数の規模を誇る大商会、その応接室にて。

豪奢な椅子にふんぞり返る実の父親は、まるでゴミでも見るかのような目で俺を見下ろしていた。

「……はい。今までお世話になりました」

俺は深く一礼する。

その顔には、悲壮感も絶望もない。むしろ、込み上げてくる笑いを必死に噛み殺していた。

(よしっ……! やっと、このブラック企業(実家)から解放される……!)

俺には前世の記憶がある。

日本の大手物流センターで、日々トラックの配車と在庫管理に追われ、過労死した『陸山りくやま 空海くうかい』としての記憶だ。

ここアナステシア世界は、魔法と闘気が全てを決める。

3歳でのスキル検査、5歳での魔力検査で、俺の魔力は「ゼロ」、闘気の素質も「皆無」と判定された。

この世界では、6歳の義務教育からクロスボウを使った戦闘訓練が始まる。そんな武闘派な社会において、戦闘力が皆無の俺は、名門商会の「恥」として扱われてきたのだ。

「フン、少しは泣きつくかと思ったが、相変わらず気味の悪い奴だ。……ほれ、手切れ金代わりだ。持っていけ」

父親が足元に放り投げてきたのは、薄汚れた皮袋。

ハンドバックほどのサイズ感の『魔法ポーチ』だ。

「……これは?」

「我が商会の不良在庫だ。魔力回路がイカれていてな。物を入れると亜空間で消滅するか、二度と取り出せなくなる完全な『壊れ物』だ。魔力ゼロのポンコツには、壊れたカバンがお似合いだろう?」

周囲に控えていた異母兄弟や使用人たちが、クスクスと嘲笑を漏らす。

俺は無表情のまま、その魔法ポーチを拾い上げた。

「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」

背を向け、屋敷を出る。

門を抜け、帝都の喧騒を背にして街道を歩き出すと、俺はたまらずガッツポーズをした。

「あいつら、本当に商売人か? アホすぎるだろ……!」

俺は手の中の『壊れた魔法ポーチ』を見つめる。

実は3歳のスキル検査の時、俺は意図的に自分のユニークスキルを隠蔽していたのだ。前世の知識から、「下手に目立つと面倒なことになる」と判断したためである。

俺の本当のユニークスキル。それは――、

【神のオーバー・ロジスティクス

前世の『物流管理者』としての魂が、この世界の法則と結びついて発現した規格外のスキルだ。俺は魔法ポーチに手を当て、スキルを発動させた。

『ピロリンッ』

脳内に、俺にしか聞こえないシステム音が響く。

[対象『破損した魔法ポーチ』を認識。]

[スキル【神の蔵】の端末として最適化を実行します。]

[……最適化完了。容量を『牛1頭分』から『無制限』に拡張しました。]

[内部空間の『時間停止機能』をアクティブ化しました。]

「……っし! 読み通りだ!」

アナステシア世界に流通している一般的な魔法ポーチは、牛1頭分(約500kg)が入るだけでも超高額で取引される。

だが、俺の【神の蔵】を通せば、ただの皮袋が『容量無限』かつ『時間停止付き』の神アーティファクトに化けるのだ。

親父が「物を入れると消える」と言っていたのは、ポーチが壊れていたからではない。俺の隠しスキルの領域に、勝手に接続しようとしてエラーを起こしていただけだったのだ。

「容量無限で、しかも入れた物の時間が止まる……。つまり、獲れたての食材を10年後に取り出しても、湯気が立ってるってことだろ? 物流の常識が崩壊するぞ、これ」

前世で「腐る在庫」と「積載量」にどれだけ泣かされてきたことか。

それが全て解決する夢のような能力。これさえあれば、世界最大の『ゴルド商会』の顔色を窺うことなく、個人で最強の流通網を作れる。

「さて、まずは腹ごしらえだな」

俺は街道を外れ、近くの森へと足を踏み入れた。

ここからが、【神の蔵】のもう一つの恐ろしい機能の出番だ。

[周辺検索スキャンを開始……。半径1km以内に『肉椎茸』および『醤油草』の群生を確認しました。]

脳内のレーダーが、周囲の資源を完璧にマッピングしていく。

俺の第二の人生――いや、最強の『異世界スローライフ&物流無双』が、今ここから始まるのだった。

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