11:姉妹の幸せ
私は顔をあげると、諸悪の根源であるジュリアン王子をキッと睨みつけた。
「お前に……お前に、可愛いマリーはやらん!!!」
「!?」
飛び上がったジュリアン王子に、私は逃すまいと詰め寄った。
「はぁ? なんなのあれ?? さっきのがマリーへのプロポーズなの? 舐めてるわ!!」
すごむ私に王子が「ひぃっ」と小さく悲鳴をもらす。
「私の代わりみたいに聞こえるじゃないっ!!」
怒鳴り散らすと、間髪入れずに続けた。
「違うでしょ!? マリーがいいんでしょ? その想いをきちんと伝えなさいよ! 腰抜けが!!」
「…………ひどい」
「何か言った!? やり直しなさい!! それが出来なきゃお前みたいな未熟者に、マリーは一生やらんっ!!」
そう捲し立て、ふんすと鼻息荒く腕組みをした。
私の怒号が落ち着くと、再び生徒たちがヒソヒソとし始める。
「アンナ様こわい……」
「けど、王子のあの言い方は……ねぇ?」
次第にざわざわと騒がしくなり、王子はどうやり直すのだろうと、場の空気が色めき立っていった。
「…………」
涙目になった王子が、マリーをチラリと見つめた。
マリーは言い直されるのかとピクッと肩を揺らし、モジモジと頬を染める。
「かわっ! ……モゴモゴ」
私は慌てて口を塞いだ。
さすがにここでうるさく騒いでは可哀想だ。
ジュリアン王子はマリーの目の前でひざまづくと、彼女の片手を恭しく取った。
「マリー、君のことを愛してるんだ。誰よりも幸せにすると誓う。だから結婚してくれないか?」
「……はい……っ!」
マリーが薄っすら涙を浮かべ、笑顔で頷いた。
「「わぁぁぁぁ!!」」
その場にいるみんなが、やり直しプロポーズに拍手喝采を送った。
王子は安堵しながら立ち上がり、愛おしそうにマリーを引き寄せる。
抱きしめられた妹は、泣き笑いのままゆっくりと彼の背中に手を回した。
「……マリー、よかったね」
素直な思いが、口をついて出た。
幸せそうなマリーの笑顔に、私も胸がいっぱいになるーー
けれどすぐに、高々と手を挙げた。
「はいはーい! わたくしは今回の件を悔い改めて、マリー王太子妃の侍女になりまーす!」
「「え?」」
抱き合っていたふたりは、同時に動きを止めた。
ゆるゆると体を離しながらも、寄り添ったまま私を見つめる。
「幸せそうなふたりを見ながら歯軋りしてまーす! それが一生続くなんて、すごい罰になりまーす!」
嬉々として宣言する私に、会場のみんなの気持ちがひとつになった。
「「…………(歯軋りするかなぁ?)」」
王子とマリーは顔を見合わせると、またゆっくりと私を見た。
そしてジュリアン王子がおもむろに口を開く。
「アンナの今後については、すでに話がついている。マリーたっての希望もあり、もう縁談が決まっているんだ」
その瞬間、遠巻きに見ていた生徒たちの中から、マーカスがしゃしゃり出てきた。
「はいはーい、じゃあ俺が貰い受けるってことで!」
彼が私の言い回しを真似しながら、待ってましたと言わんばかりに楽しそうに笑った。
「……へ?」
呆気に取られている私の前までマーカスが来ると、マリーが言い聞かせるように私へ告げた。
「お姉様、マーカス様のこと好きでしょ? 見てて分かるもの」
「…………」
私は、ふたりをただ交互に見比べていた。
「俺でもいい?」
そんな私に、彼がイタズラっぽく笑って言う。
「……マーカスは、私でもいいの?」
「あぁ。アンナ様がいい。それに未来の国王と王妃に口出しできる存在が、我が家に入るなんて……ほとんど主導権を握ったようなもんだろ?」
彼の言い草に思わず吹き出してしまう。
「ふふっ。それを許してくれる夫なんて、あなたぐらいかもしれないわね」
私たちがいつものように笑い合う横で、ジュリアン王子が苦い表情を浮かべた。
「このふたりをくっ付けたのは、失敗だったかもしれない……」
それをマリーだけが聞いており、王子をなだめるように苦笑する。
私はふと、宙を見上げた。
「けどなぁ。マーカスの領地って、王都から遠いのよねー。あ、私をマリーから遠ざけようと……?」
深読みした私は、すぐさまジュリアン王子を睨んだ。
ギクリと遠くを見る王子。
そんな中、マリーがきりっとした表情で私を見据えた。
「お姉様。そろそろ妹離れして、自分の幸せを考えてくれない?」
「…………」
いつになく強気な態度の彼女に、私は言葉を無くす。
けれど次の瞬間、マリーがふにゃりと表情を柔らげた。
「お姉様が私を幸せにしたいように、私もお姉様が誰よりも幸せになって欲しいの」
「マリー……」
感極まった私は、マリーをそっと抱きしめた。
……いつの間にか、ずいぶん立派になってしまった。
あんな小さな女の子だったのに。
もう、私が守る必要のない大人になってしまったのだ。
言いようのない嬉しさと寂しさを噛みしめていると、マリーも優しく抱きしめ返してきた。
そして耳元で囁く。
「例え離れても、ず〜っと大好きだよ」
「…………ぅん、私もぉっ!」
グスグスと涙が滲み始め、私は妹の肩に顔を埋めた。
マリーは抱きしめる力を少し強めて、かすかに震える声で伝えた。
「いっぱい遊んでくれて、ありがとう。……杏奈お姉ちゃん」
「…………っ!!」
私はわんわんと大泣きしながら、ずっと変わらない大切な妹を、抱きしめ続けていた。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
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