第13話:俺たちの商売(推し活)はこれからだ!
戦火の煙がゆっくりと薄れゆく、あの全ての物語が始まった『はじまりの断崖絶壁』。
世界大戦を裏で完璧にプロデュースし、二大国家の喉元を可愛い布切れ一枚で締め上げてひざまずかせた私──アイリスは、闇ギルド『白百合カルテル』の最強の仲間たちを引き連れて、静かに山頂へと立っていた。
私の両手には、国宝の限定素材『天界シルク』をすべて注ぎ込み、我が魔導ミシンを限界突破させて仕立て上げた、世界に一着だけの究極のドレス『神衣・白百合の聖裁』。
そして、崖の先端。
朝日に照らされながら、あの日、ログイン一秒目の私を完全に狂わせたあの時と同じように、純白のドレスを美しく翻して佇む、「彼女」の後ろ姿があった。
「あ……」
胸が、張り裂けそうなほどに激しく高鳴る。ついに、ついにこの時が来たんだ。
私は最高級のドレスを落とさないよう大切に抱えたまま、限界オタク全開の、やや内股でそわそわとした足取りで彼女の元へと駆け寄った。
「あの……っ! やっと、やっと会えました……っ! これ、私が作った、世界で一番可愛くて美しいドレスです! あなたに、どうしても、どうしてもこれを着てほしくて……!」
感極まりながら、貢ぎ物のようにドレスを両手で天に捧げる。現実の専門学校の課題なんてどうでもいい、私のこのゲームでのすべての努力は、ただこの瞬間のためにあった。
私の震える声に反応し、その女性がゆっくりとこちらを振り向いた。風に戦ぐ美しい髪、世界を足元に跪かせるような冷徹な美貌。あの日、ムービーの画面越しに私を狂わせた、憧れの「白いドレスの彼女」その人だ。
しかし──至近距離まで近づいて、彼女の美しい顔立ちを拝んだ、まさにその瞬間。
彼女の頭上にポップアップした、禍々しいほど真っ赤に燃え盛るシステムグラフィックを見て、私と、後ろに控えていたゴライアス(中身乙女)やランスロットたちの動きが、完全に、氷河期のように凍りついた。
そこにあったのは、NPC(ゲーム内案内人)を示す、あの平和な緑色の文字ではなかった。
──
【プレイヤー名:アルテミス】
所属ギルド: 『戦神』ギルドマスター(単一ギルド)
獲得称号: 【全サーバーランキング1位】【破壊神】【国家ブレイカー】
──
「……え? プ、プレイヤー……?」
私の口から、現実のトホホなカエルの潰れたような、最高に間抜けな声が漏れた。
案内人のNPCなんかじゃない。この超ハードコア戦争ゲーム『レグナム・ベラム』の頂点に君臨する、ガチの戦闘狂・最古参トップ廃人プレイヤーだったのだ。
あの日、初期神殿がド派手に爆発していたのは、NPCの案内所がイベントで壊されたのではなく、単に彼女が敵対する巨大ギルドの拠点を一人で楽しそうに更地にしている最中だったという恐ろしい事実が、今になって綺麗に、そして最悪な形で繋がった。
アルテミス様(本物)は、私が差し出したドレスのシステムステータス画面を一瞥した。
次の瞬間、彼女の冷徹で美しい眉がピクリと跳ね上がる。画面には「防御力・測定不能」「戦闘職の武器使用・スキル発動禁止」という、運営開発が泣いて土下座してサーバーを一時止めかねないレベルの、頭の悪いバグ数値がズラリと並んでいるのだから。
アルテミス様はフッと不敵に、最高に美しく微笑むと、私の後ろにいるピンクのフリルエプロンを着た二メートルの巨漢ゴライアスや、頭に大きなピンクのリボンを乗せた白銀の騎士ランスロットたちをじっと見据えた。
「……へえ。あなたが、最近この世界の武器の流通と経済を裏で完全にハックして弄んでるっていう、あの噂の『戦争屋』? 面見るのは初めてだけど、最高にイカれた仕立て屋じゃない」
ドレスのバグ染みた可愛さと性能を見た彼女の瞳が、戦闘狂特有の、ギラギラとした恐ろしくも美しい光を帯びる。
「いいわ、気に入った。いくら払えば、その最高の決戦兵器を私に独占させてくれる? 私と一緒に、この世界をもっと、誰も手が付けられない地獄の戦火に染め上げましょう?」
ドンッ! と、アルテミス様は私の目の前の岩壁に細く白い手を突き、顔を至近距離まで近づけてきた。いわゆる、ガチの壁ドンである。
超至近距離で見る推しの圧倒的な美貌と、そこから放たれる凄まじい物理的な覇気に、私の脳のキャパシティは一瞬で限界を迎えて完全にパンクした。
(待って。NPCじゃなかった。ガチの廃人戦闘狂だった。でも……推しが、私の大好きな推しがプレイヤーで、しかも私の作った服をめちゃくちゃ気に入ってくれてて、これからも私のお洋服を一番に着て戦場を蹂躙してくれるってこと……?)
(それって……ファンの域を完全に超えて、公式専属デザイナー(内助の功)になったってコトじゃん!? 最高の推し活なんですけどぉぉぉ!!)
私は一瞬でパニックから回復し、裏社会を支配した『戦争屋の仕立て屋』としての、最高に悪辣で、最高に可憐な笑みを浮かべ返した。
「いいですよ、アルテミス様。あなたを世界で一番美しく、そして誰にも手が届かない最凶の女王に仕立て上げてあげます。その代わり──次の新作ドレスの限定素材集め、きっちり手伝ってくださいね?」
「ええ、喜んで。次の獲物はどの国にする? あなたの布切れ一枚で、私はどこまでも狂ってみせるわ」
こうして、盛大な勘違いから始まった戦場の仕立て屋の物語は、世界にとっては最悪の結末(私にとっては人生最高のハッピーエンド)へと辿り着いた。
世界最強の『戦闘狂』と、世界最悪の『戦争屋』。
美しくも完全に頭のネジが消し飛んだ二人の、全サーバーを恐怖とフリルのどん底に陥れる最凶のタッグが、ここに爆誕したのだ。
崖の下からは、今日も彼女たちが引き起こす、新しい大戦争の砲撃音が、私たちの門出を祝う祝福の鐘のように心地よく響き渡っていた。
「さあ、みんな! アルテミス様の次の新作お洋服のために、もっと戦火を煽って素材とカネを毟り取るわよ!」
「「「うおおおおおーーーっ!!!(※野太い声のネカマ女子たちの叫び)」」」
裏社会の仕立て屋の、本当のプロデュース(推し活)は、ここから始まるのだ。
(『戦争屋の仕立て屋は、世界大戦をプロデュースする』・全13話 完結)




