第80話:雪解けを報せる魔法薬草(伯備線・山菜の天ぷら)
木属性の槍(京たけのこ)で春の息吹を体内へと取り込んだ私が次に向かったのは、緑豊かな関西からさらに西……中国地方の急峻な山脈(中国山地)を縦断する過酷な山岳ルートである。
商人ギルド『JR西日本』が誇る振り子式(カーブ特化型)の魔導特急『やくも』に乗り込み、岡山と山陰を結ぶ伯備線の牙剥く渓谷を猛スピードで突き進む。
「フスッ……。スーパーはくと同様、この車体もまた、自らの装甲を猛烈に傾けながら急カーブのダンジョンを神速で切り裂いていくな!」
私が特急を乗り捨てるようにして降り立ったのは、鳥取・岡山県境にそびえる威風堂々たる霊峰……『大山』の麓にあたる深い山奥の駅であった。
「……寒いッ! 平地ではすでに桜が散ろうかという時期に、この山奥にはまだ冬の魔神による雪の結界(残雪)が色濃く残っているではないか!」
だが、この過酷な寒冷環境こそが、私の求める『最強の回復用アイテム(山の幸)』を生み出す絶対的な条件なのだ。
「長く厳しい雪の下で、魔神の目に触れぬようひっそりと大地のマナを蓄え続けた植物たち。雪解けと共に一斉に芽吹くその姿は、まさに『雪解けの魔法薬草(春の山菜)』と呼ぶにふさわしい!」
私は吐息を白く染めながら、大地の精霊を信仰する村人(地元のおばあちゃんたち)が運営しているという、質素だが魔力に満ちたギルド食堂部(峠の蕎麦・天ぷら屋)へと逃げ込むように足を踏み入れた。
「オーダーだ! この雪のダンジョンでしか採取できない高位の魔法薬草の群れ……『春の山菜の天ぷら盛り合わせ』を、私の前の祭壇に召喚しろッ!」
おばあちゃん魔導士は深く頷き、静かに油の張られた大鍋(炸裂魔法陣)へと火を入れた。
パチパチ、ジュワァァァッ!!
厨房から響き渡る小気味よい油の詠唱音が止み、私の目の前にドォンと置かれたのは、黄金色の美しいバリア(衣)に包まれた、生命力あふれる緑色の薬草群であった。
「フハハハッ! 見事な陣形だ! 『ふきのとう』、『タラの芽』、そして『こごみ』か!」
いずれも、その辺の平地に生えているスライムのような雑草とは違い、深い森へと自ら踏み入った採取ギルド(山菜採り)の者たちでしか手に入れられない、極めて純度の高い大地のドロップアイテムだ。
「生のままで齧れば、その強烈すぎる魔力によって舌が麻痺してしまう危険な代物だが……こうして高温の油で封じ込めることで、その毒素すらも最強のステータス・バフへと反転するのだ!」
私は魔術スティック(箸)を用い、まずは丸くぽってりとした『ふきのとう』を大口で見事に迎え撃った。
「いざ、実食ッ!」
「……サクッ!! ガガハァッ!?」
熱々の薄衣を噛み割った瞬間、脳髄を直接針で刺されたかのような、強烈極まりない『独特の苦味と大地の香り(極大のマナ・ショック)』が口内全域に大爆発を起こした。
「に、苦いッ!! だが……不快ではない! むしろ、この強烈な苦味こそが、冬の間、私の身体に溜まりに溜まっていた老廃物(呪い)を一瞬にして浄化していくのがハッキリとわかるぞ!」
植物自身が外敵から身を守るために身につけた毒素(苦味やアク)。
それが人間の身体に入った瞬間に見事な回復薬(デトックス効果)へと反転する、完全なる錬金術。
「フスッ……これだ。山の幸の真の恐ろしさは、海のように解りやすい『脂やタンパク質などの単純な物理回復』ではなく、身体の芯から状態異常を治癒するこの『魔法薬効(苦味)』にあるッ!」
ふきのとうの強烈なショック療法(浄化魔法)に耐え抜き、身震いするほどの快感を得た私は、即座に次なるターゲット……『タラの芽』へと箸を伸ばした。
「いでよ、山菜の王!」
サクッ……ホクホク。
「……おおおっ! 先ほどのふきのとうとは違い、こちらは苦味が少なく、大いなる大地の甘みと極上のホクホク感(柔装甲)が際立っている!」
そして、先端がクルリと丸まった不思議な魔導杖のような『こごみ』にかじりつく。
「サクサク、ヌルッ。……フハハハッ! なんだこの不思議な食感は! 噛んだ瞬間に中から溢れ出す、絶妙なヌメリ(良性のスライム液)が、衣の油を見事に中和して喉の奥へと滑らかに滑り落ちていくぞ!」
全く性格の異なる三種の魔法薬草の波状攻撃。私は、ただ塩(岩塩の魔力粉)を軽く振りかけるだけの単純な詠唱手順によって、大地の生命力を次々と体内へと吸収していった。
「……ふぅっ、ハァッ。完全なる超・浄化(デトックス完了)だ」
衣から落ちた油すらもありがたく飲み干しそうになるほどの圧倒的な充足感。
山菜の天ぷらによって、私の身体はまるで厳しい冬を一瞬で飛び越え、細胞から新たな春の芽吹きを迎えたかのように異常な軽さを得ていた。
「フハハハッ! 商人ギルド『JR西日本』の領地を南北に連なる中国山地。この雪深い深い森の底には、人間(冒険者)のステータスを裏側から(苦味で)完全回復させる、信じられないほどの薬草(山の幸)が自生しているというわけだな!」
山の恵みのもたらす鮮烈な驚きと喜びに満たされた私は、大山の冷たい風を胸いっぱいに吸い込み、山陰のさらに奥地に潜むという大地の魔物へと狙いを定め、軽やかな足取りで駅へと向かうのであった。




