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第74話:透明なクラーケンと甘きマナ(特急スーパーはくと・鳥取の白イカ)

 北陸の地で真紅の重装甲魔獣(越前がに)を討伐し、極上のミソをすすった私が次に向かったのは、本州の西側に広がるもう一つの日本海エリア……山陰地方である。

「フスッ……。商人ギルド『JR西日本』の領地から、智頭急行という独自のギルド路線を直通して山陰の海へと抜ける、風神の如き特急が存在するという」

 その魔導特急の名は『スーパーはくと』。

 関西の魔導王都(大阪・京都)から乗り込み、山陽線の直線区間を超高速で駆け抜けた後、特急は突如として深い山々が連なる急カーブのダンジョンへと突入した。

「……おおっ! なんだこの機動力は! 急なカーブに差し掛かるたびに、車体が自ら内側へと大きく傾き、一切スピードを落とさずに山を切り裂いていくではないか!」

 遠心力を完全に制御する『振り子式装甲車』という驚異的なテクノロジー。私は激しく揺れる車内でワクワクと胸を高鳴らせながら、大いなる砂の魔境……『鳥取』へと猛スピードで接近していった。


 鳥取駅へと降り立った私を待っていたのは、広大な砂漠(砂丘)の乾いた風ではなく、日本海から吹き付ける湿った潮の香りであった。

「フハハハッ! 鳥取といえば巨大な砂漠(鳥取砂丘)のイメージが強いが、私の真の目的は乾いた砂の底ではない。荒れ狂う日本海の深淵に潜む、極上の魔獣だ!」

 私は迷うことなく、鳥取駅周辺に位置する「産地直送」の看板を掲げたギルド酒場(海鮮居酒屋)の暖簾を勢いよくくぐった。

「頼む! この砂の国の港に水揚げされたばかりの新鮮な海の魔物……『白イカ(剣先イカ)』を、活け造りで私の前の祭壇に召喚してくれ!」

 水槽(生け簀)から直前まで生きていた魔物を引きずり出し、高位のナイフスキルを持つ板前が瞬時に切り刻んで召喚するという、極めて残酷で新鮮な儀式(活け造り)。

 私は魔術スティック(箸)を両手に握りしめ、その時が来るのを静かに待った。


「お待たせしました。白イカの活け造りです」

 私の目の前にドォンと置かれたその巨大な皿を見て、私は思わず目を見開いた。

「……バ、バカなッ! 魔獣の姿が完全に透き通っているぞ! 皿に描かれた模様が、分厚い肉の向こう側からハッキリと見えているではないか!」

 皿の中央に鎮座していたのは、全身がクリスタルのように透明なクラーケンの幼生(白イカ)であった。

 普通、イカといえば白濁したゴムのような肉を想像するが、目の前にある極上の白イカは、完全に『光学迷彩(ステルス機能)』を起動させたままの透明度を保っている。

「しかも……見ろ! 胴体を綺麗に糸状に切り刻まれているというのに、残された頭部と触手ゲソの部分が、私の威圧感に反応してまだウネウネとうごめいている!」

 命を強制的に絶たれた後でもなお反撃の意志を忘れない、恐るべき生命力。

 これこそが、港に最も近いギルド酒場でのみ味わえる究極の鮮度魔法であった。


「フスッ……。死してなお蠢く透明なクラーケンよ。そののろいを、私の胃袋コアで完全に解呪してくれよう!」

 私は糸状に切り揃えられた透明な肉(イカ刺し)を魔術スティックでたっぷりとつまみ上げ、生姜(土属性の刺激的な薬味)を溶かした醤油の池へと深く沈めた。

 そして、まだコリコリと意志を持っているかのようなその肉塊を、一気に口内へと放り込む。

「……ンンッ!? なんだ、この異常なまでの粘着力は!!」

 口に入れた瞬間、コリッとした強靭な反発力(物理防御)があったかと思うと、次の瞬間には、私の舌や上顎にネットリと絡みつくような凄まじい『粘り気(スライム属性)』が発動したのだ。

「フハハハッ! 私の口の中で、バラバラにされた触手が強引に再結合しようとでも言うのか! だが……それ以上に、恐ろしいほどの『甘きマナ』が口いっぱいに溢れ出しているッ!」


 そう。透き通ったイカの肉は、噛み締めるごとに細胞を破壊され、中から信じられないほど濃厚で優しい『自然の甘み』をほとばしらせていたのだ。

「美味い……! ただコリコリとしているだけの安物のイカ(低級スライム)とは根本から格が違う! 噛めば噛むほどに、強烈な糖度のバフが脳髄をガンガンと刺激してくるぞ!」

 生姜の鋭い辛味が、イカの甘みをさらに強烈に引き立てる。

 私はただ無心に、透明なクラーケンの胴体をすすり、噛み砕き、その甘きマナを延々と胃袋に流し込み続けた。

 そして、あっという間に透明な肉の山を制圧した私のもとへ、ギルドマスター(店将のオヤジ)が静かに歩み寄ってきた。

「お客さん、残ったゲソ(触手)と耳の部分、天ぷらに揚げてきましょか?」

「……なに!? 魔獣が、第二形態セカンド・フォームへと進化するというのかッ!」


 数分後。私のテーブルに再召喚されたのは、黄金色の強固な防具(サクサクの衣)に身を包んだ、クラーケンの残骸……『ゲソの天ぷら』であった。

「フハハハッ! 油という灼熱の池に沈められ、物理攻撃を極限まで高めた最終装甲! だが、今の私の勢い(テンション)を止めることなどできんぞ!」

 サクッ! ギュムッ!

 天ぷらを噛み割ると、先ほどまでの透明な刺身のマナとはまた違う、加熱によって限界まで凝縮された野蛮な旨味が、衣の油のバフを伴って大爆発を起こした。

「……ふぅっ、ハァッ。完全なる二段討伐(フルコース完了)であった」

 強烈な甘み(刺身)と、暴力的な旨味(天ぷら)。

 透明なクラーケンの全てを平らげた私は、充実感に満ちた重い腹をさすりながら、砂の国のギルド酒場を後にした。

「振り子式特急『スーパーはくと』が結ぶ、関西から山陰への大いなる魔導ルート。日本海には、まだまだ私の知らない恐るべき魔獣(海神の恵み)が潜んでいるようだな!」

 潮の香りとイカの余韻が残る中、私は次なる海魔獣を目指して歩みを進めるのであった。


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