第61話:海に浮かぶ大鳥居と炙られた海竜の肉(JR宮島フェリー・あなごめし)
備前の地で最強の隠蔽魔法(ばら寿司)を喰らった私が次に向かったのは、安芸の国……『広島』である。
「フスッ……。史跡と魔力が交差し続ける山陽本線をさらに西へと突き進み、私がやってきたのは宮島口駅」
商人ギルド『JR西日本』が誇る、恐るべき広さを誇る超広大な移動魔法網。
ここまで数多の鉄獣(列車)を乗り継いできた私だが、今回は少し毛色が違う。
「陸の獣(列車)ではない。今回は、商人ギルドが保有する唯一の『海上輸送機動兵器』に乗り込み、海に浮かぶ神の島へと直接向かうのだ!」
桟橋で静かに待ち構えていた『JR西日本宮島フェリー』に乗り込むと、強い潮の香りと重厚なディーゼルエンジンの唸りが、私の内なる闘争本能を大いに刺激した。
「フハハハッ! 海だ! 陸路の結界を超え、ついに私は海将の領域へと足を踏み入れるぞ!」
フェリーの甲板(見晴らしの良い屋外の展望デッキ)に立った私の視線の先には、海上に堂々とそびえ立つ巨大な朱色の構造物……厳島神社の大鳥居が見えてきた。
「おおっ……! あれが、島全体を魔獣や悪霊から守護しているという伝説の『海上防護結界(大鳥居)』か!」
波間に浮かぶその美しくも神々しい姿は、周辺の海域に圧倒的なスケールの神聖魔法を放ち続けている。
「だが! 私がこの特別な海路を選んだ最大の理由は、あの結界を拝むことだけではない。古来よりこの神の島へ渡る巡礼者(観光客)たちのみに許された、特別な『祭祀食』が一つ手前の駅に存在しているからだ」
私は、宮島口の老舗ギルド(有名な弁当屋)で事前に調達しておいた、ずっしりと重い経木の包み……『魔法の宝箱』を、甲板のベンチの上へとドサリと置いた。
「さあ、見せてもらおうか。明治の世から巡礼者たちのHPとMPを力強く支え続けてきた、伝説の駅弁の圧倒的な回復力を!」
レトロな包み紙を荒々しく破り、木のフタをパカリと開ける。
「……ッ!! なんだこれは!」
弁当箱の中にビッシリと敷き詰められていたのは、見事に焼き上げられた美しい黄金色の身。それが一切の隙間なく、まるで竜の鱗のように幾重にも規則正しく並べられている。
「フスッ、フハハハッ! 間違いない。これこそが、瀬戸内海の激しい潮流を生き抜いた獰猛な海竜……『穴子』の肉だ!」
うなぎ(沼の泥魔獣)のドロリとした重厚な脂属性とは全く違う、引き締まった上質な筋肉と淡白な魔力を秘めた海の竜。
その肉を直火で徹底的に炙り(炎属性魔法による追撃)、秘伝のタレ(何代にもわたり継ぎ足された暗黒の甘辛液体)で強固にコーティングした究極の魔法陣形。
「焼けた醤油の焦げるような凶悪な匂いが、潮風に乗って私の鼻腔(魔力センサー)を真正面から直撃してくるぞ!」
私は魔術スティック(割り箸)を割り、箱の中に敷き詰められた海竜の肉と、その下にある茶色く染まった白米をまとめて大きくすくい上げた。
「……ンンッ!! 香ばしいッ!」
口に入れた瞬間、炭火で炙られたアナゴの皮の強烈な香ばしさ(炎の追撃スプラッシュダメージ)が炸裂し、その直後にふっくらとした白身の淡白な旨味(水属性の回復魔法)がふわりと極上に広がる。
「美味い……! うなぎのような重量級の脂がない分、ダイレクトに肉そのものの旨味がMPへと変換されていく!」
さらに恐ろしいのは、アナゴの下に敷かれた『茶色いご飯(土台となる土属性魔法)』だ。
「フスッ! これはただの白米ではないな! 海竜の頭や骨から極限まで抽出した極上のダシ(マナ)で炊き込まれた、完全なる『魔族のブイヨンライス』ではないか!」
海竜の肉片(炙りあなご)と魔族のライス(旨味の沁みた味付けご飯)。
この二重の結界が口内で完全に合体・フュージョンした時の破壊力は、私の想像を絶していた。
「……クハァッ! 止まらんッ!」
アナゴには無駄な脂が少ないため、いくら食べても胃袋が重くならない(重量オーバーによる鈍足デバフが一切かからない)。
むしろ、噛めば噛むほどに秘伝のタレの甘辛い魔力が脳髄をダイレクトに刺激し、食べるスピード(物理攻撃速度)が異常なまでに急加速していく。
「恐ろしい駅弁だ……! これから神聖な巡礼の旅(島内の観光や歩き回るクエスト)に向かう前に、これほどまでに強烈なヘイスト(行動速度上昇バフ)を全身にかけてくるとは!」
私は潮風に激しく吹かれるフェリーの甲板の上で、まるで自らが貪欲な海坊主になったかのごとく、ひたすらに海竜の肉を胃袋へと掻き込み続けた。
「……ふぅっ。海竜一匹、完全討伐(完食)だ」
完全に空になった経木の弁当箱からは、まだほんのりと木の香りとタレの甘い残り香が漂っている。
ふと前を見れば、フェリーは巨大な朱色の大鳥居(大結界)のすぐ横を抜け、神の島・宮島へと静かにエンジン音を響かせて接岸しようとしていた。
「商人ギルド『JR西日本』。彼らの手引き(大鳥居へ接近する特別航路)によって、私は海上の結界を越え、極上の祭祀食によって完全にステータスをカンストさせた」
フェリーを降り立った満腹の私を、神の使いである鹿(立派な角の生えた森の精霊)たちが「よく来たな」と言わんばかりののどかな瞳で出迎えてくれた。
「神の島での観光(霊的浄化)を済ませたら、次はいよいよ……百年封印された最凶の猛毒魔獣が潜む、本州最西端の魔境(下関)だ!」
私は、腹の奥に力強く宿った海竜のマナを爆発させ、厳島神社の荘厳な社殿へ向けて意気揚々と討伐の足を進めるのであった。




