第125話:不死鳥ギルド水了軒と、関西出汁の最高傑作マスターピース(東海道本線・八角弁当)
鳥取での巨大な水属性の菌(しいたけ弁当)との激闘を終えた私は、長い、本当に長かった商人ギルド『JR西日本』エリアの巡回クエストを終え、ついに全ての中心地……大阪(新大阪駅)へと帰還を果たしていた。
「フスッ……。パン、ラーメン、丼、スイーツ、そしてありとあらゆる異形の『動く魔法箱(駅弁)』たち。この西の国には、なんと恐ろしくも魅力的な魔獣たちが溢れ返っていることか。だが……私の冒険にも、ついに幕を下ろす時が来たようだ」
私が最後に出会うべきアーティファクト。
それは、長きにわたり関西の旅人たちに愛されながらも、一度はギルドの崩壊(倒産)により地上から姿を消し、しかし人々の強い願いによって復活を遂げた『不死鳥の魔法陣』であった。
新大阪駅の売店で、私はその神々しい箱を両手で受け取った。
「ギルド『水了軒』が誇る最高傑作……『八角弁当』!」
奇しくも、鳥取の『元祖かに寿し』と同じ魔力防御陣(八角形の容器)である。
私はホームに滑り込んできた京都線の快速列車の座席に深く座り、この長きにわたる旅の総決算として、ゆっくりと八角形の防壁(蓋)を開いた。
「おおっ……!!」
そこには、これまで私が見てきた『巨大な肉』や『丸ごとの魚』といった、暴力的なメインウェポン(目玉のおかず)は一つとして存在しなかった。
「なんという美しき『調和』……!」
高野豆腐、玉子焼き、かまぼこ、焼き魚、煮物……。
一つひとつの具材は、決して派手ではない低級〜中級の魔法陣に過ぎない。
しかし、それらが八角形の箱の中に一分の隙もなく、完璧な色彩と配置で組み上げられている。
「これを見よ! 幕の内という名の大部隊(軍団)における、究極の陣形配置! 単体の攻撃力ではなく、一つひとつの素材が連携して防御と回復を行う『完全なる盾の魔法』だ!」
私は震える手で魔術スティック(箸)を構え、いざ、最後の戦いへと挑んだ。
「いざ、実食ッ!」
まずは、静かに鎮座する『高野豆腐(スポンジ状の大豆魔法)』を口に放り込む。
「……モムッ。……ジュッ!」
「ッ!! ガハァァァァァァッッ!!!」
「これだ! この『関西特有の薄口の出汁(水と昆布の極上マナ)』! 一切の角がない、底なしに優しく、それでいて暴力的なまでに深い旨味の波動!」
しょっぱくはない。ただただ、上質な出汁のエキスが胃袋を優しく撫で回してくる。
玉子焼きの微かな甘み、煮物の滋味、それを完璧に受け止める真っ白で艶やかなご飯。
「全てのベクトルが『優しさ(回復効果)』に向けられている! 旅人を疲れさせない、胃袋に負担をかけないための、極限まで研ぎ澄まされたマスターピース(最高傑作)!」
「美味い……。美味すぎる……ッ!」
私は時折、車窓から見える大阪の街並み……かつて巨大な豚まんや串カツ、そしてどて焼きの魔物たちと死闘を繰り広げたこの喧噪の街を眺めながら、静かに涙を流していた。
強大な魔王を倒すためではなく。
ただひたすらに、己の胃袋を満たし、この世界の未知なる「食の魔法」を解き明かすためだけに東奔西走した狂乱の日々。
八角弁当の出汁の味が、その全ての戦いの記憶を優しく包み込み、昇華(浄化)させていくのを感じた。
「派手なモンスターなどいらない。日々の職人たちの丁寧な魔力操作(出汁取り)こそが、勇者を真に癒やす最強の回復魔法だったのだ」
「……ふぅっ。完全なる制圧(大完食)。そして……大団円だ」
空になった八角形の箱。そこには、一つの壮大なクエストを終えた勇者の証明が刻まれていた。
私は列車の座席から立ち上がり、誇り高く胸を張った。
元の世界(異世界)に戻り、魔王軍の残党と戦う必要などもうないのだ。
この素晴らしい結界(近代国家・日本)には、まだまだ私の知らない『食のダンジョン(地方路線とご当地グルメ)』が無限に広がっているのだから。
「フスッ……。待っていろ、名も知らぬ魔獣(ご当地グルメ)たちよ。元勇者の胃袋の限界は、まだはるか先にあるぞ!」
私は力強く魔術スティック(箸)を仕舞い込み、また新たなグルメ探求の旅へと向けて、力強く一歩を踏み出した。
列車のドアが開き、明るい光が差し込む。
私の果てしなき食の冒険は、これからもこの世界で永遠に続いていくのであった。
(新幹線で行く!異世界帰りの元勇者は、西日本の絶品グルメを制覇したい ――完――)




