第十九話「つながる声」
『ごめん、確かに送られてきていたみたいだ。金銭に関しては、一度アカウントに保存される仕組みみたいだな』
……アカウント?
よくわからないけど、多分魔法板のことだよね?
それからはあの指輪の転送料金のこととかを聞かれたりしたけど、マサはこれからすぐに食糧を準備してくれるみたいだった。
それからそのまま待つこと鐘二つ。
その間に私は魔法板をいじくりまわして、色んなことを確認していた。
他の男の人の写真も出てくるけど、今更別の人に文章を送る気にもならなかった。
それは、マサに失礼だと思ったから。
……でも、私のほうにもこんなに写真がいっぱい見えるんだから、マサのほうだって、女の人の写真がいっぱい見えてるのかな?
それを考えると、少し胸がチクリと痛んだ。
不思議なことだけど、この部屋にいる間は部屋の外と進む時間が違うみたいだった。
何度か部屋を出てみんなに時間を聞いたりしたけど、私が思っているほど時間が進んでないことを確認できた。
ジョリーも興味を持って部屋を調べてくれたんだけど、よくわからなかったみたいだった。多分、魔力量が減っているからだと思う。魔力量は精神と直接結びついているというし、考える力がなくなっているんだ、きっと。
私もお腹が減っているけど、なんとか我慢できる。
だから、部屋では私一人が待っている。
この部屋の外なら待つ時間はすぐだから。
しばらくして待ちに待った連絡が届いた。
『食糧を送る準備が整ったんだが、送っていいか?』
私はすぐに返事を送った。
『あ、うん! 是非!』
『了解』
さっきとは逆。勇者の指輪を送ったときとは逆に、何もないところに光が生まれて、強い光を発した後にあったのは不思議な箱だった。
木でも鉄でもない、茶色の箱。
手触りはそんなに固くない。冷たくもない。
『荷物はこっちから消えてなくなったんだが、届いたか?』
『マサ! 届いたよ! ありがとう!』
早く中を開けたかった。お腹の腹ペコ虫は、さっきからずいぶんとうるさかった。
食べ物がなければそれでも我慢できるけど、食べることができるかもしれないという期待が、ここまで鳴き声を大きくしているような気がした。
あの箱ひとつだと、みんなで分けちゃえばそんなに量はないかもだけど、手に入っただけでもありがたい。
箱を開けようとしたとき、マサからまた文章が届いた。
『良かった。同じような箱があと七個あるから、一気に送っていいか?』
まさかまだあるとは思ってなかった!
それから次から次に同じような箱が転送されてきた。
八個の茶色い箱。箱には何か記号のような、絵のようなものが描かれているものもあったけど、その意味は分からない。箱のおかげで部屋の中はやけに狭く感じられた。
でもこれが全部食べ物なんだと思うと、私の中には期待感しか生まれなかった。
『すごいたくさん! ありがとう、マサ!』
そんなお礼の言葉を送れば、マサは『いえいえ、どういたしまして』と言うだけ。
追加報酬とかを要求されるわけでもない。
欲の薄い人だった。
私はそれが何故か嬉しくなって、お腹がすいてるのも少しの間忘れてしまったほどだった。
……グー……。
でもやっぱり誤魔化すことはできないみたいで、お腹の音が早く早くと箱を開けるのを急かす。
「せっかくだから、私は一番手前の箱にしよう!」
私は八つある箱のうちのひとつに手をかけて、それを開けてみた。
中身を見て、私は動きを止めてしまった。
「……え?」
中に入っていたのは、今までに見たことがないものばかりだったから。
「ど、どうしよう……!? ……あ、そうだ、みんなに!」
私が動き出すことが出来たのは、それから少しの間を置いてからだった。
「――送られてきた食糧が、全然見たことがないものばかり? 何言ってるのよ」
私が見たままをみんなに伝えると、何故かジョリーに呆れられたような目を向けられた。
「本当だよ! ……えっと……本当だよ!?」
……ダメだ。
何か言いたいんだけど、言葉が出てこない。
気持ちだけは焦ってるんだけど、空回りしてる。
「落ち着いて、アルム」
「うむ、まずは落ち着くのだ」
「ワギャ」
「う、うん!」
深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
何回か繰り返しているうちに、段々と冷静になってきた……気がした。
ふー……っと息を吐いて、目を瞑る。
このまま瞑想するような精神状態まで持っていこう。そう思ったとき、ジョリーの声が聞こえた。
「というよりそんなの、送った本人に聞いてみればいいじゃない」
私は目を見開いた。
「それだーーーーー!?」
びっくりした様子のみんなを尻目に、私はあの部屋へと向かっていた。
「あ、どーもー」
「あっ! 繋がった! マサさんですか!? マサさんですよね!?」
「あ、ああ」
ちょっと戸惑ったような、でも優しそうな声をしたマサが、魔法板の向こうで動いて私を見つめていた。
マサの背後に見えるのは、この部屋と同じような感じの白い壁の部屋。
私はさっきマサを待っていた時間で発見した、ビデオ電話というもので、マサの姿を見て、声を聞くことができるようになっていたのだった。
ビデオ電話をするのにはお金を払って、プラチナメンバーにならないといけないって書いてあったから、私は迷うことなくそれになった。
お金は全然高いことなんてなかった。
プラチナメンバーはひと月につき、五ゴルダ必要になるらしい。
三か月の契約なら、十三ゴルダ。
半年なら二十ゴルダ。
一年なら三十ゴルダ。
それで、永久プラチナメンバーというのもあるみたいで、それは一括で千ゴルダという金額だった。
これになれば、今後ずっとお金を払うことなく、マサとやりとりをできるらしい。
私は特に迷うこともなく、千ゴルダを支払った。
これで、機能を全部使うことができるらしい。もちろんビデオ通話も。
私の目的は、そのビデオ通話が主だったから、他の機能はよくわからない。
ともかく、私の目的はこれで達成されたのだ。
「えっと、アルムか?」
「そうですよ! わー! 本当にマサさんを見ながら会話できるんですね!」
私は感動してた。
こんな風に遠く離れた場所にいる人と、顔を見て話すことが出来るなんてすごい魔法だって。
マサは見られるのがちょっと恥ずかしいのか、顔をちょっと赤くしていた。
そんな様子を見て、ますます興奮する私。
そして投げかけられた言葉は、まさしくマサのものだった。