4-Ex5. 吟遊詩人は王都に想いを馳せる
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楽しんでもらえますと幸いです。
リッドとウィノーがダンジョンの奥深くで神と対面している頃。
ハトオロは一人、王都を一望できる小高い丘にいて、まるで彫像のような無機質さを表情に入り混じらせて、虹色の虹彩でまじまじと王都を眺めている。
「リッドさんは今ごろ心を揺らしているのでしょうね」
ハトオロがちらりと別の方角、リッドがいるであろう方向を見てから、再び王都の方へと向き直り、そよ風で流される構造色の長髪を若干鬱陶しそうに肩の後ろへと戻していた。
やがて、風の音や草花の擦れる音だけでは飽きてきたようで、彼は自慢の楽器を取り出して静かな調べを奏でる。
「英雄には困難がつきものでしょう。だからこそ、英雄譚は困難に喘ぐ大衆の心に刺さる。英雄でも困難なことは巡ってくる、もしくは、困難に向き合っている自分もいつか英雄のようになれるのではないか、とね」
ハトオロは誰に喋りかけているわけでもなく、風の音よりも少しばかり大きな声で呟いている。
その瞳は焦点のぼけた様子で、ただただ王都の外壁を眺めていた。
「だが、しかし……」
すっとハトオロの手が止まる。
彼の手は、まるで機械の動作でも確認するかのように、ゆっくりと閉じたり広げたりを繰り返していく。
「リッドさんは果たして、真の英雄か、はたまた、無理解に蹂躙される端役か」
ハトオロの問いに答える者はない。
独り言。
ただの独り言を、目と口を閉じた彼は、味わい咀嚼したものを嚥下するかのようにゆっくりと喉を鳴らす。
「……吟遊詩人としては、私自身としては、彼が真の英雄であることを願い、祈り、助力をするばかりですね」
ハトオロはふっと少し開いた口の端から笑みをこぼすと、再び楽器を掻き鳴らすように手を振るう。
徐々に、不調和だった風の音や草花の擦れる音がハトオロの音に馴染み、壮大な自然を彷彿させる曲へと昇華していく。
「それにしても、都合が悪いと言うべきか、いや、むしろ、都合が良いと言うべきか」
しばらくして、一心不乱に音を奏でていたハトオロが、調和していた音からあえて外していき、不協和音へと変えていく。
すると、風が戸惑って怒りを露わにしたかのように、ハトオロにひと際強い風をお見舞いしたので、彼のトレードマークでもある三角帽子が空へと高く舞い上がった。
ハトオロの瞳孔が開く。
「……リッドさんは、やはり真の英雄なのでしょうね。おや、あなたは小鳥さんじゃないですか」
弄ばれた三角帽子の行方を目で追い、ハトオロはゆっくりと歩いていく。
そのときにちょうど、ハトオロが友だちだと豪語する小鳥が地面に落ちた三角帽子に止まった。
「それに、これは……奇特な……繋がりができてしまったようですね」
ハトオロは三角帽子を拾い上げ、そのまま小鳥付きの三角帽子を頭にしっかりと被せる。
「それと……やはり、クレアさんは……彼女もまた……無理やりに作られた因果ですね」
小さな溜め息。
まるでクレアを哀れむかのように、ハトオロの表情は曇っていた。
「さて、なんと詠えばいいでしょうかね」
ハトオロは深呼吸で息を全て吐ききってから、いつものニコニコとした笑みを浮かべて、再び楽器を構える。
「時を経て思念は満ちる。熱気に包まれ朗らかに弾む王都に崩壊への音色が忍び寄り、起こされた愛なき亡霊は英雄と邂逅する。英雄が亡霊を討ち、彼の持つ杯が満つるとき、平和を象る少女は何を想うか」
ハトオロの視線は、王都を、そのさらに先の遠くを見つめ、何かを見透かしているかのようだった。
「……運命なんて言葉は……きっと野暮でしょうが……」
やがて、弾き終わったハトオロが独り言で口籠る。
「より強く想い、より強く引き寄せようともがく者にこそ、運ばれてくるものもあるのでしょうね」
小鳥が飛び立った。
そのまま、王都の方へと羽ばたいていき、ハトオロにも見えなくなるほどに小さく背景に溶け込むように消えていく。
小高い丘に吹く風もいつの間にか、寝息を立てるように静かだった。
「さて、いきましょうかね。英雄の姿をこの目でしっかりと見るために」
ハトオロは三角帽子を目深に被り直して、風ではためくマントを身体に引き寄せながら、王都の方へと歩みを進めるのであった。
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