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ダンジョン喰らいのリッド  作者: 茉莉多 真遊人
幕間4

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4-Ex3. 通い慣れた魔窟

約3,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 地図に表記もされない、とある未開のダンジョン。


 冒険者ギルドに誰も立ち寄ってはいけない場所として封鎖されるも、リッドとその仲間(パーティー)だけが唯一侵入を許可された、リッドたちに因縁のあるダンジョン。


 灰色がかった土砂や岩石でできている洞窟のような場所だが、ところどころ人工物のように綺麗に均された壁や床があり、数多くの強力な魔物が互いの縄張りも意識しつつ共存している。


 リッドとウィノーは、既にダンジョンへと入り、魔物を刺激しないように静かに歩みを進めていた。


 しばらくリッドたちが歩いていると、リッドの暗赤色の双眸が暗がりで蠢く影を捉える。


「いるぞ」


 リッドがそう呟いて隣にいるウィノーを一瞥すると、ウィノーのサファイアブルーの瞳が既に蠢く影の方へと向いていた。


「分からないオレと思うニャ」


 ウィノーが言い終わるやいなや、リッドとウィノーが同時に走り出す。


 先行したウィノーに蠢く影の視線が向くと、すかさず別方向から接近していたリッドが全力で殴り飛ばした。


「GYAN!」


 その短い悲鳴を聞きつけた仲間の魔物が奥の闇から姿を現す。


 暗夜狼(サイレント・ウルフ)、獣型の魔物でも上級種と見なされる魔物が群れとなって、リッドとウィノーを警戒するように距離を取って取り囲む。


 リッドとウィノーは互いに目配せをしてから頷き、別方向へと再び走り出す。


「ほーら、ほら! オレの方が小さくて狙い目ニャ!」


「GAAAAA!」


「おっと、惜しいニャ。ほら、ほら、きっと、もう少しで当たるニャ?」


 そう軽口を叩いているウィノーは、オフホワイトの目立つ小さな身体を目いっぱいに動かして、足音も立てずに群がってくる暗夜狼(サイレント・ウルフ)の牙や爪を掠める直前で難なく躱し続け、常に自分へと注意を惹きつけている。


「GYAU!」


「KYAN!」


「AGYA!」


 ウィノーが喋り続ける一方で、無言のリッドは、ウィノーや暗夜狼(サイレント・ウルフ)と同様に音も立てずに忍び寄り、ウィノーに気を取られた暗夜狼(サイレント・ウルフ)を一匹、また一匹と確実に死角から仕留めていった。


 その後、リッドやウィノーが息も上がらない内に、暗夜狼(サイレント・ウルフ)の死骸が山となって通路の隅に積み上げられる。


「いつも通りだな」


 少し大きな一息を吐いたリッドが両手を軽くはたきながらぼそりと呟く。


 それを聞き逃さなかったウィノーは、安堵しているリッドを眺めて、尻尾をゆっくりとうねらせている。


「いや、気が抜けているニャ」


 リッドは思わずビクッと小さく身体を震わせた。


 すぐさま、ウィノーの言葉を否定するように、リッドは首を傾げて不服そうな顔つきでウィノーを睨む。


「はっ? 手を抜いてないぞ」


 ウィノーが大きな口を開けて笑った。


「ニャハ! 誰が『手を抜いている』なんて言ったニャ? オレは『気が抜けている』って言ったニャ」


 ウィノーの甲高い笑い声が奥にまで響き、彼の尻尾はその笑い声と同様に愉快そうな動きで左右にうねって揺れている。


 言い争う気のないリッドは、肩を竦ませて鼻で笑った。


「揚げ足を取るなよ。どっちでも、同じことだろう?」


「ニャハハ! それを本気で言っているなら、相当に気が抜けているニャ」


 おどけて終わらせようとしていたリッドも、何度も言われてしまうとムッとせざるを得ないようで、彼は眉間にシワを寄せて口を真一文字にした後に口を開く。


「しつこいぞ! だから、別に俺は——」


「だって、リッド、技名を言い忘れているニャ?」


 少し荒くなったリッドの語気を制するかのように、ウィノーの軽やかで屈託のない楽しそうな声が覆いかぶさった。


「……あ」


 すぐさまリッドは息を呑む。


 ウィノーの嬉々としたサファイアブルーに見つめられて、リッドの暗赤色の瞳は稜線に落ちていく陽のように徐々に下へと滑っていく。


気に掛ける仲間(クレアちゃん)がいないからって、最高の相棒(オレ)しかいないからって、気に掛けていないことすら気付けない今のリッドを見て、『気が抜けている』って言葉以外に言えることあるかって言っているんだニャ」


 ウィノーの言葉は軽やかながらも、しっかりとリッドに突き刺さっていた。


 リッドは苦虫を食い潰したような表情を隠さずに手を軽く振る。


「ぐっ……そ、それは、無言の方が気付かれずに動きやすいし、早く済ませられればウィノーへの負担もないし、それに、そう言うが、実際にクレアがいないから——」


「一事が万事ニャ。オレたちが気を抜いた一瞬で、あっと言う間に全滅した(ヤラレた)ことを忘れたかニャ?」


「うっ……」


 リッドの喉奥から出てこようとしていた言葉は、ウィノーに畳みかけられてしまって、呻き声へとすっかり変わってから漏れ出てくる。


 リッドにとっても、ウィノーにとっても、最も苦い記憶であり、この場所の記憶でもあるため、そのことを持ち出されて、リッドの顔から一気に血の気が引いていった。


「……(わり)ぃ、ちょっと言い過ぎたニャ」


「いや、ウィノーの言う通りだ。俺は正直、今はクレアを失うことなんてないって、内心でホッとしていたんだ」


 リッドは右手で左肩を掴んで、灰褐色の髪の毛を垂らすように頭を静かに傾ける。


 少しして、ウィノーが重苦しい空気を跳ね飛ばすように、ぶんぶんと尻尾を振り回した。


「ま、その点、オレはクレアちゃんがいない時だって、語尾に『ニャ』を付けるように気を抜かずにしているニャ」


「……それはちょっと違う気もするが」


 ウィノーの言い分を聞いて、リッドの顔に笑顔が戻ってくる。


 ウィノーも口の端が上がった企み顔で、リッドの周りをしなやかな動きで歩き回った。


「でもまあ、今日はクレアちゃんもイライドもいないし、男2人で気楽なダンジョンピクニックでもいいけどニャ」


「ははっ、ダンジョンピクニックって、初めて聞いたぞ」


 すっかりウィノーのペースで会話が仕切られ、会話が進むように、リッドとウィノーの歩みも奥へと進み始める。


 その後、いくつかの階層を慎重に進み、赤色に眩しく光る魔物激昂蜥蜴(ヴォルカ・リザード)や金切り声とともに舞う魔物洞窟蝙蝠(ケイヴァン・フライ)などの魔物に対して、時間を掛けて躱したり、危なげなく交戦したりを繰り返していく。


 そうして、中腹を過ぎた頃、ウィノーが鼻をヒクヒクと動かしてから、顔を徐々に顰めていった。


「うげげ、この先、死招く粘体(ブラック・ウーズ)の気配が多いニャ。今日はこのままじゃ逃げ切りづらいニャ」


「そうか。あいつらは打撃が効きにくいが、とはいえ、ここは必ず通らなきゃならないからな。多少無理しても行くしかないな」


 リッドが金属籠手(ガントレット)をさすりながら、静かに決意を固めていく。


 ウィノーはほぼ無策のリッドを小ばかにするように首を横に振った。


「いやいや、ちょっとは考えるニャ。というか、オレの出番ニャ。青巻紙を1枚ブルーロール・シングル、【惑わす屈折(ミスト・ヴェール)】」


 ウィノーが首輪に取り付けている小さなポーチから青い紙を1枚取り出して、はっきりとした声で呪文を呟く。

すると、リッドとウィノーの周りに白い霧状のものが纏わりつき、徐々に白から透明へと変色しながら、彼らをも周りから視認させないように透明化させた。


「まだ中腹過ぎたところだぞ? こんなところで貴重な——」


「あのニャ……魔法の神髄ってのは、膨大な魔力量で圧倒することでも、精緻な制御力で裁縫針の穴に通すようなことでもなく、ここぞというときに使うタイミングなんだニャ。それよりなにより、魔法のことで、お前に文句を絶対に言わせないニャ」


 ウィノーがリッドの言葉に被せてそう言いきると、リッドは目を閉じて両手を挙げる。


「分かったよ。静かに進むぞ」


 その後、リッドとウィノーは【惑わす屈折(ミスト・ヴェール)】に守られて、どの魔物にも完全には気付かれることなく進んでいく。


 最終的に、【惑わす屈折(ミスト・ヴェール)】の効果時間内で最奥へと辿り着いたのであった。


「ほら、あっと言う間に着いたニャ」


「はいはい、分かった、分かった」


「その言い草はないニャ!」


 ウィノーが声高にそう言い放ったところでリッドが適当にあしらったため、ウィノーは地団太を踏んで怒りを露わにした。


「俺がお前の言っていることを全然分かっていないことなんてなかったろ?」


 リッドが何の気なしにそう呟くと、ウィノーは照れを隠せずににんまりと笑顔を浮かべる。


「こっ恥ずかしいことをすんなりと……。まったく、それをクレアちゃんに言ってあげたらイチコロニャ」


「そんなこと、クレアに言うわけないだろ」


 リッドは乾いた笑いで返した。


 ウィノーもリッドの真意に気付いているようで溜め息を吐く。


「なあ、お前は本気で、クレアちゃんの気持ちを見なかったことにするのか?」


「……語尾の『ニャ』がなくなっているな。気が抜けているぞ」


 リッドはそう言って、ウィノーの質問を振り払うようにダンジョンの奥へと進むのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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