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30話 会いたくなかった人

先日はブックマークやリアクションなど、ありがとうございます!

とても励みになっています。


 会場に足を踏み入れると、すでに多くの人が集まっていた。

 前回参加をした舞踏会よりは会場が狭いとは思うが、それでも人は多い。以前は年代が近い人や事業家たちが集まっていた印象だけど、今回の年齢層は幅広く感じる。

 まずは主催者であるチェンバレン公爵様に挨拶をしようと、彼の姿を探せばすぐに見つかった。目立つ空気を放ち、楽しそうに談笑をしている。すぐこちらに気づいたらしく、話していた人たちに断りを入れると私たちの方に駆け寄ってくれた。


「来てくれたんだな」

「ちゃんと招待を受けるという手紙は送っただろう」

「まあな、来てくれて嬉しいよ。改めて……こんばんは、ウォーカー公爵、ウォーカー公爵夫人。この度は来ていただき、ありがとうございます」


 お互いに礼をすると、チェンバレン公爵様は私たちを見てニコニコと笑った。


「今回はペアで来たんだな。似合っているよ」

「……茶化すように言われても、信用ならんな」

「茶化してなんかいないさ。夫人のドレスは君が選んだんだろう?」

「ああ。彼女に似合うように注文をさせてもらった」

「いいじゃないか。二人の仲が良さそうで何よりだ」


 仲が良さそう、と言われて少し照れてしまう。

 側から見てもそのように見えるのは嬉しい。特に、旦那様と昔から交流があるチェンバレン公爵様にそう言ってもらえるのが嬉しかった。

 じっくりと上から下まで姿を見られる。でもそれは、見定めるような嫌な視線ではないので不快な気持ちにはならない。興味で見ているような、好奇心があるような目線で不快ではなくとも少しだけ不安にはなる。どういった意図なのだろうか。


「あまり彼女を見るな。彼女が不快に思うだろう」

「それは失礼したね。以前より夫人が元気そうで安心したよ。随分と愛されているんだな」

「愛……っ?!」

「ハロルド、いい加減にしろ」

「はいはい、ここら辺でお暇するよ。どうか今日は楽しんでくれ」


 ひらひらと軽く手を振ったチェンバレン公爵様はすぐ人に捕まり、また談笑をし始めた。

 まさか、愛されているなんて言われると思っていなかった。周りからそう思われるのは嬉しいけど、旦那様の気持ちを無視したいわけじゃない。彼がそう言われることで、不快に思ってしまわないかが心配だ。

 ゆっくりと旦那様の方に顔を向けると、予想に反して嬉しそうに軽く微笑んでいた。いつものような仏頂面というか、無表情、もしくは不快そうな顔をしているかと思ったのに。

 まさか嬉しそうに笑っているとは思わなかったので、慌てて顔を逸らした。


(自惚れてはダメだというのに……)


 どうしても、顔に熱が集まってしまう。

 それを誤魔化すためにも給仕の人にドリンクをもらうことにした。


「旦那様も何かお飲みになりますか?」

「ああ。俺がお願いをしてくるから、君はここにいるといい。また足が痛くなってしまっては大変だからな」


 そう言って、私を近くのソファに座らせると給仕の人に声をかけに行った。

 なんだか申し訳ないと思いつつ、夜会はまだ始まったばかりで先は長い。お言葉に甘えてソファに腰をかけると、少しだけ体の力が抜け、ホッとする。

 やはり、こういう場は慣れることができない。


「……アメリア!」

「え?」


 名前を呼ばれ、顔を挙げるとそこには見慣れた女性と男性が立っていた。

 といっても、私の記憶ではもう十年以上前にはなる。女性の方は前と変わらず厚化粧で、年齢に合わない煌びやかなドレスにアクセサリー。隣に立っている男性は恰幅がよく、きらりと光る宝石をコサージュとして身につけている。

 二人はニコリと笑いながら私を見ている。どうしても受け入れられなくて、その笑顔に寒気がした。

 どうして、ここにいるのだろう。

 

「ああ……私たちの愛しい娘、アメリア! 元気にしていた? 一年ほどぶりだもの、随分と雰囲気が変わったじゃない! さすが、公爵夫人ね」

「全くだ。随分といい暮らしをしていそうだな。お前が元気そうで私も嬉しいよ」

「お母様……お父様……」


 ブラウン家の事業を立て直すために、娘を売った両親。その前からも虐待と言えるような態度と対応であったというのに、今更「愛しい娘」だなんて、何をいっているのだろう。今となってはブラウン家を出ることができてよかったと思っているけれど、それでも両親に対しての嫌悪感が消えたわけではない。

 偽物の笑顔で私を抱きしめ、感動の再会を果たしたかのように演出される。嫌な香水の香りが鼻を掠め、吐き気がしてきた。


「どうして、ここに?」

「招待を受けたのよ! チェンバレン公爵様のお知り合いに誘われて……」


 わざとらしく話し始めるお母様にどういう顔をすればいいかわからない。

 今回は夜会だったから、きっとチェンバレン公爵様は仲の良い方達には「他の人たちも誘って良い」としたのだろう。

 旦那様のおかげで経営が良くなっただけだというのに、贅沢を繰り返す両親の姿にうんざりする。誘われた、と言っているけど、無理に頼み込んだのだろう。その様子が頭に浮かぶ。

 両親は伯爵という爵位ではあるけれど、伯爵という爵位に相応しいかといったら別だ。


「ところで、どのようなご用件でしょうか?」

「まあ……娘に会うのに理由なんてなくてもいいでしょう? あなたの姿が見えたからね。ウォーカー公爵様とうまくやっているようで安心したわ」

「そうですか。ご用件はそれだけでしょうか? そろそろ旦那様が戻ってくると思いますので、この辺りで」

「そんな冷たいことを言わないでちょうだい! 久しぶりに会えたのだから、もう少しくらいいいでしょう?」


 横にいるお父様もうんうんと頷いている。

 もしかしたら、旦那様も経営のことでお話したいことがあるかもしれない。私がこの短い時間を耐えさえすればいいだろう。

 わかりました、と小さな声で呟くとその瞬間、両親の顔が明るくなってニヤリと口角を上げた。


「よかったわ! 公爵様ともお話がしたかったし、ちょうどいいわね!」

「そうだな。娘のことでもお礼を言わなくては」


 楽しそうに笑っているが、どうしても嫌な予感を拭うことができない。何を言うつもりなのか……。

 きっと、私の顔はこわばっていることだろう。でも、そのことに両親は気づく様子もない。結局、私のことになんて興味がないのだ。さっきの言葉たちだって、嘘にしか聞こえない。


「ブラウン伯爵?」

「おお、これはこれは! ウォーカー公爵様! お会いできて光栄でございます」


 お父様がいち早く反応を示し、わざとらしく大きな反応を見せた。

 旦那様の方を見れば、いつもとは変わらぬ表情で困っているようには見えない。


「アメリア、待たせてすまない。飲み物をもらってきたから、これを飲むといい」

「ありがとうございます」


 グラスを受け取ったが、緊張のせいなのか口をつける気になれない。喉はカラカラで、張り付きそうだというのに少しだけ手が震えてしまっている。


「まあ、仲がいいのね。ウォーカー公爵様、貴方様のおかげで我が家の経営は安定し、娘も幸せそうで安心しましたわ」

「いえ。私もアメリアと結婚ができてよかったと思っています」


 旦那様の言葉に嬉しくなる。

 さっきも馬車の中で言ってくれていたけど、この公の場でも言ってくれるのは嬉しい。


「ところで……ウォーカー公爵様。また我が家の経営に支援やアドバイスをいただけにでしょうか?」

「……それはなぜでしょう?」

「我がブラウン家ではまた新たに店舗を構え、新しい事業に革製品の販売を考えておりまして。ウォーカー公爵様の支援とアドバイスがあれば間違い無いかと! もちろん、お名前は大きく書かせていただきます。投資先として悪くないでしょう?」


 笑顔で話し始めるお父様に対して、旦那様は眉を少しだけ動かし、静かにしている。

 旦那様が何も言わず、返事すらしていないというのにお父様は上機嫌にペラペラと話をしている。お母様も笑顔で頷いており、私は失望した。

 結局、耳聞こえのいい言葉を並べただけで私のことなんて見ていなかった。私の隣にいる旦那様しか見ていなくて、支援と自分たちの事業が成功することしか考えていない。


「なので、ぜひまたご支援を……」

「もう、やめてください」


 声が出てしまった。自分でも驚き、両親も旦那様も驚いた表情で私のことを見ている。


「急にどうしたの? 貴方らしくないわよ、アメリア」


 笑顔で注意をするお母様の目元は、優しそうに見えて敵意剥き出しの目だった。余計なことを言うな、とでも言いたげな視線に体が震え始める。自分でもなんで口を挟んでしまったのかはわからない。でも、旦那様の表情を見てもあまりいい話には聞こえなかった。

 両親に反抗するなんて、今までしたことがない。もしかしたら旦那様の邪魔にもなっているかもしれない。

 こんな、公の場ですることではないとわかっている。でも、ここで大人しくすることもできない。


「お言葉ですが、新たな事業はあまりにも無謀すぎます。ようやく、旦那様のおかげで立て直すことができたと言うのに……」

「だからこそ始めようと思ったのだ。アメリア、お前は何もわかっていないのだから黙りなさい。私はウォーカー公爵様と話をしている!」

「今では私も公爵家の人間です! 旦那様が許可を出していないというのに話をしている時点で無礼だとは思わないのですか? 新しく始めるのは革製品であると言っていましたが、管理が非常に大変です。専門の職人でなければ製品を作ることすらできませんし、購入した後も管理が大変で匂いもあまりいいものではありません。一部の人には人気でしょうが、流行を狙っているとしたらそれは大きな見当違いです」

「な、何がわかる! お前は商売なんかしたことないだろう!」

「私にだって知識はあります。きっと、一つの製品が売れれば儲けになるからと考えたのでしょう。ですが、流行りにはならず最終的には赤字になると思われます」


 自分でもびっくりするほど、言葉が出てくる。不思議な気持ちだった。

 両親は図星でも突かれたように慌てて、どう反論するか必死のようだった。今まで、私はこの両親に意見を申し出たことはなかったけど、こんなにも簡単なことだったのね……いや、これは旦那様のおかげだ。彼が私の知識を培うための機会とお金を出してくれたおかげだ。彼が「女に勉強は必要ない」とでも言って新聞や小説本を買ってくれなければ今の私はいない。


「だが、これはアメリアの意見だろう! 公爵様ご本人から話は聞いていない!」


 お父様は自信満々に旦那様の方を見て、私のことを鼻で笑う。

 旦那様は一つ息を吐き、チラリと私のことを見てからお父様に顔を向けた。

 

「……そうだな。私の意見は言っていなかった」

「ええ、ええ。そうですよ! 貴方様から見てどうでしょうか!」

「私は、アメリアの意見に賛同します」

「は、なんだと……?! こんな娘の話など信用できないだろう!」

「私の妻に向かって“こんな”と言わないでいただきたい。それに、彼女が言っているように革製品は管理が大変で、在庫の管理も専門の人に任せなければなりません。一部の紳士には人気ですが、それは管理や手入れをするのも趣味の一つとして楽しんでいるからです」

「な、ならコルセットはどうだ! 女もののドレスにはコルセットが必要だろう!」

「海外のとある地域ではすでに革で作られた女性用のコルセットの販売をしていましたが、匂いがキツいのと侍女たちでは管理ができないことからすぐに使用されなくなり、店を閉じたところも多くあります。我が国で流行するとは、とても思えません。海外の店と同じような結末になるでしょう」


 旦那様は私の隣に立ち、庇うかのように手を腰に添えてくれている。その手がどれだけ私に安心感を与えてくれるのか、きっとわからないでしょう。

 私の意見に賛同してくれたのも、実の親に“こんな娘”と言われた私のことを気遣って否定してくれたのも、どう言い表したら良いのかわからないほどの安心を与えてくれる。私も、この人の妻になることができて本当によかった。

中途半端ではありますが、文字数が多くなってしまったのでここで切らせていただきます。

ブックマークやリアクション、評価など本当に本当にありがとうございます。

とても嬉しいです!これからもよろしくお願いします。

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