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第九話 処刑宣言

 突然だが、フェルマータ魔術学院には四つの学寮が存在する。

 桜花鳳来。露月業雲。残雪對馬。

 そして余ったモノがあつまる炎焔塵芥の四つである。

 

 他の学校と同じように、それぞれの寮の由来やらモチーフやらはあるらしいのだが、そんなことはどうでもよい。


 問題なのは、学寮間の行き来が厳しく規制されていることと、私と我が妹が別の寮に組み分けられているという事実だけで、結論、あの邂逅から一週間が経とうというのに、私は妹と言葉を交わすどころか再会することすらできていないのだ。


 やっと降ってきた私の死の手掛かりに、お預け状態の私は我慢が限界で。

 このままだともどかしくて、気がくるって白目を剥いてしまいそう。


「と、言うわけで、雪組に侵入しようと思ってる。」

ここは炎焔塵芥、通称焔寮の談話室。


焦げ茶色床板に赤いじゅうたんが敷かれ、中央に円卓のあるその部屋で、私は、次の授業『身体学』が始まるのを待っている間に、私は珈琲を飲んでくつろいでいる全身緑の鱗の生えたトカゲのような少年にそう話しかけた。


それを少年―アストン・セティア―は、正気かこいつという唖然とした表情で。


 「最近追いかけている女の子に会うためかい?恋は素敵な文化だけど…ばれたら、退学じゃすまないよ?」

 と言葉を最後に絶句していた。


 彼のポカンと開いた口からはトカゲのような舌がチロチロと見えており、まんまるとした眼は水色で、両手の先には長く太いかぎ爪、さらに喉の辺りは緑の鱗も生えておらず白い革で覆われていた。

 ドラゴノイド。

 彼の先祖は財宝を守るドラゴンだったらしい。


 そんなことはともかくとして、気が付くと目の前の彼は、『とりあえず、ビャクレンさんに言っておくね。』と、足早に席を立とうとしていた。


 まずい。師匠にバレるのは、本当にまずい。


 師匠に先週かけられたバックブリンガーを幻痛しながら、私は思わず、彼のざらりとした感触のしっぽを両手でつかみ、どうにか話の続きを聞いてくれるように歎願した。


 神様、仏様お許しください。

 もう、あの地獄のような百裂しごきはもうこりごりなんです。


 「じゃあ、黙ってやってくれればいいのに。」とアストンは渋い顔をしながらも席についてくれる。

 「僕が隠し事できないって知ってるだろ?他ならぬ友達,,,の君の頼みとは言ったって、協力したくても協力できないんだって。」


 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべながら、私は彼の発言に頷いて同意する。


 彼は生粋の正直者。


 そんなこと言われなくてもそんなこと、重々知っている。


 妹の所属寮を調べるために、教員相手に雑談をしかけ、職員室に忍び込む隙間時間を作ってくれと頼んだ時も、君のあまりの挙動不審さで私の犯行まで速攻バレたし。

 朝寝坊して、『戦闘術式学』に遅刻しそうになった時、代返を頼んだら、なぜか一回でいい返事をテンパって十五回も嚙み続けて、業後普通に私の欠席がバレていた。


 しかし、無断校外労働を端に発した悪行のうわさが広まったせいか、私と好くしてくれる友人は君ぐらいしかいない。

 つまり共犯者になれるのは君だけなのだ。光栄に思ってくれたまえ。


 「すがすがしいクズだね。」

 「生きる目的にまっすぐなだけさ。」

 とアストンは私の言葉に処置ナシという顔で肩をすくめて呆れかえっていた。


★★★

 「しかし、君。授業では会えなかったのかい?」

 アストンの協力が得られないことが分かり、次なる作戦を練っている私の耳に、アストンの声が聞こえてくる。


 その声に目を向けると、彼は珈琲を飲み終わったようで、空になったコップの淵をなでながら、こちらを見つめて首をかしげていた。

 「あれだけの金を払って成果ナシってことはないだろう?」


 ウニバールスタシス。通称『学参購入』制度。

 一科目金貨五百枚という法外な財貨を差し出すことで、受講資格のない学問を学べるようにするという、入試を突破する学才に恵まれなかった貴族のボンボンを救済する制度である。


 私の妹は入学時点から、九つある科目全ての受講を許可された『全科生』であるらしく、文字通り凡庸な私と彼のような『独科生』とは位が違う。

 おまけに私の専門『身体学』は学寮ごとに開催日時を分けているようで、どうにも出会うチャンスを作れそうにない。

 そのため、私は闘技場で稼いだ金貨の一部を学校へ納め、全ての学問の受講資格をこじ開けたのである。


 そうして、路銀を犠牲にして得た成果は…

 「察してくれよ。」

 

 そう、無駄だった。


 『演繹学』『自然学』『戦闘術式学』『幾何数学』『神道学』『倫理学』『魔術史学』『魔術薬工学』と全ての学問を開放し、一週間かけて授業に出たが、全て単科生と全科生で開催日時を分けられていた。

 それどころか、才能の優れた『全科生』の邪魔にならないようにということなのか、彼らの受講会場すら教えてくれなかったのだ。


 しかし、そこで諦める私ではない。

 それならばと、授業で一緒になった、雪組学生やたまたま職員室を通りかかった『全科生』に彼女とつないでもらえないか頼み込んでみて、挙句の果てには玄関先に張り込んでもしてみた。

 もちろん、頼む際はスイーツのプレゼント付きだ。

 

 だが、結果としてはすべて失敗し、何の手掛かりも得られなかった。

 .......。

 そもそもリアンと名乗った瞬間、怯えられ、ろくに話してもらえず、その様子を見た第三者の口によりさらに悪評が広まっていく始末。


 完全に無駄骨。

 悲しくなる。

 本当にもう.......学問なんかに、金なんて掛けなきゃよかった。


 などと、学生として本末転倒なことを考えている私であったが、アストンはそんな私を見捨ててはいなかった。


 「しかし、まあ。」とアストンが落ち込む私の肩を叩いて、優しく語る。

 「いろいろと無駄だったかもだけど、きっといいこともあるよ。だって、今日の『身体学』は珍しく大講堂の全学寮共通授業だし、探せば会えるかも。」


 …適当なこと言うんじゃないよ。


 って、え?

 全学寮共通授業?

 『身体学』で妹と会えるかもしれないの?


 「前回授業で発表されてたよ。」と怪訝な表情を一瞬浮かべたかと思うと『あっ』とアストンが焦ったような声を上げた。


 一体どうしたというんだね。

 「逃げないでね、君。バレて逃げたとなったら僕怒られちゃう...。」


 バレる?笑止。

 こんなチャンス逃げるはずが――


 と言いかけ、アストンが『身体学』の教科書と一緒に持っていたビラに目が吸い寄せられる。


◆◆◆

 来週の『身体学』は全学寮共通授業!

 私の弟子でありながら、四回にわたり私への無断欠席をつづけたリアン・アルバートの公開折...紹介授業を行います。

 これまで授業で扱ってきた古今東西あらゆる拷問術を彼相手に試すから、みんな刮目するように!


 追伸

  彼にこの会をばらした生徒はお仕置きね♡


 文責:ビャクレン・アーノルド


◆◆◆

 確かにそうかかれた文章を読み終えた私は静かに悟りを開いた。


 おそらく私は死ぬらしい。


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