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第五話 尋問は拷問に変わりつつある

 『情報の有無が戦争を制する』

 とは古来より伝わる至言であるが、もしこの言葉の言い出しっぺに『ただ情報を集めればよいのか』と尋ねれば『ノー』と返ってくるに違いない。

 

 しかし、『この情報がなければ負けていた』という経験や『この経緯ならそもそも参戦しない方がよかったのに』と情報収取を怠ったことで後悔した経験があるかと為政者に聞けば、『イエス』と返ってくるに違いないし、噂では、情報伝達機構・防諜体制への各国の設備投資額は年々増加していっているらしい。


 つまり、大事なのは情報の品質で、特に真偽を明らかにすることが死活的に重要なのである。


 それを踏まえれば、戦時における『尋問』とはまたとない情報収集の機会でありながら、偽情報をつかませられる危険性も孕んでいる。それもそのはず、先程まで撃ち合っていた相手に本音や真実を伝えようとする兵士はほとんどいないからである。

、だからこそ、十五年前に開発された真偽鑑定術式は軍事関係者に泣いて喜ばれたのだろうし、今日の『尋問』が真偽鑑定術師の協力の元、実施されるのはもはや常識になっている。

 

 さて、それを踏まえると。

 「君は?見ない顔だけど、どうしたの?」

 その術式を行使できるだろう彼女からの尋問は絶体絶命のピンチである。


 確かに、信頼のおける教授同士なら、上記真偽鑑定術式を使うこともないはずもないし、上手く噓をつけば乗り切れるのかもしれない。

 しかし、私はどっからどうみても怪しい不審者。


 前世の私なら、尋問官をなぎ倒し、逃走することもできたはずだが、流石にこの身体ではあの超絶機動の幼女から逃げられる気もしない。

 まさに万事休すなそんな状況で、私のとれる手段としては。


 「…。」

 沈黙、これ一択に尽きるのである。


 「どこから来たのかしら?」

 沈黙。

 「お父さんお母さんはご一緒?」

 沈黙。

 「そもそも、なぜビャクレンといるのかしら?」

 沈黙。


 御覧の通り、沈黙は無敵のカードである。

 しゃべりたくないことは口に出さなければよい。

 これは、あらゆる場面での最善解だ。


 しかし、この手法は強力な反面、ご存じのようにデメリットも尋常ではなくて、先程から質問してきている幼女の眉間には私が無視をすればするほどしわが寄ってきてしまっている。


 というか、もはや半ギレ状態だ。


 「なんで黙ってるの?君、ひょっとして――」

 もうお手上げだ。


 「私の弟子、リアン君ですよ。」

 と私を窮状から救ってくれたのは、金髪少女、師匠であった。


 静観を決めると思い込んでいた私も驚いたが、もっとびっくりしたのは幼女の方で、この横面を突如張るような彼女の強引な横槍に、金髪少女の方へ目を丸くして見つめていた。


 しかしそんな我々をあえて無視し、彼女はまくしたてるように言葉をつづけたのだった。

 「リアン・アルバート。十五歳。男性。『身体学』単科生希望の新入生です。四男坊なので、ご両親の同行はなく、面接も私が応対したのですが一人でここに来たみたいでした。」

 「新入生…なら今日結界を破ってきた魔族の可能性も…。」


 「それはないですね。」と胸を張って少女は嘘を言う。

 「私は今日結界近くの集いの間で面接を実施していましたが、消滅させた魔族以外、異変は特にありませんでした(嘘)」

 「でも、擬態している可能性も...。」

 「アデポスへの誓いも済ませております。なので、不用意な殺生・治安悪化の意図はないようです。それに実力は折紙付きで、今年の最上回生…五回生でも初見クリアは誰もできなかった、物理戦闘を一発合格した将来有望少年です。」

 「あの、頭のおかしい戦闘試験を?へぇー…。」


 金髪少女の説明を聞いて、目の前の幼女は感心したように私の全身を眺め始めた。

 その目からは先ほどまでの警戒心は薄れており、珍しいものを眺める好奇の視線になっていた。


 アデポスへの誓いってのは、『人間を殺す気も、社会をひっくり返す気もない』ってやつだろう。いや、それにしても、今『最上回生でもクリアできない試験』って言ってたか?

 そんな戦闘試験、入試にもってきていいのかよ。


 などと混乱のあまり筋違いなことを考える私を無視し、金髪少女はなおも言葉を続ける。


 「だから、何よりもまずここにも連れてきたんです。将来必要になるでしょうし。」

 「まあ、確かにね…。」

 と金髪少女の話を聞いて、目の前の少女は『うーん』と唇に指をあてて考え始めた。


 師匠には救われたが、流石に厳しすぎる状況だ。

 客観的に見ても、私は怪しすぎる。

 百歩譲って、街中の魔族出現と私は無関係だったとしても、私の左腕には魔力量調整装置なるものがつけられている。

 あからさまに魔力量不問な『身体学』専攻の生徒がこれをつけている意味が分からない。


 仮にも、この幼女が教授クラスなのだとしたら、金髪少女と同様、魔力量調整装置の存在は知っているだろうし、確証が持てなくとも、まず外すことを命じてくるだろう。

 というか、私だったら絶対そうする。

 などと、胸中の突っ込みを察知してか知らでてか、幼女は私の方へ視線を再度向け、その左腕に着けられている装置に目を止め、動きを止めた。


 さながらエラーを発見した機械のように、彼女は食い入るように、目を見開くように、それを見据えている。


 彫像のように固まる幼女。ニコニコと笑う少女。

 そして、今度こそ終わったとあきらめる私。


 しかし、その硬直も長くは続かず、しばらくすると彼女は満足したように頷き、金髪少女と私に微笑みかけて、こう続けた。


 「その関係、長く続くと私も嬉しいわ。」

 「はいっ。」


 どうやら私は窮地を脱したようだった。


 …いや、なんでだよ。

◆◆◆


 「あぁ、もう死にそう。死んでるけど。」


 その日の晩。

 私は学寮に用意された『リアン・アルバート』という名札の個室へどうにかたどり着くと、部屋中央に置かれた天蓋付きの寝具へ倒れるように突っ伏した。

 今日はどうやら、第二セメスターを前日に控え、緊急的に用意された特殊技能試験の最終日だったようで、入学のガイダンスを今の今まで受けさせられていたのである。


 おまけに、ガイダンスと三回生以下の指導教官はあの幼女、ユグラシル・アーノルド教授。

 ガイダンスは私一人しか参加者がおらず、結果彼女と数時間にわたり一対一の対面となったため、生きた心地がしなかったのだ。


 ただ、不幸中の幸いもあった。

 まず、替えの靴。ずっと裸足だったから、やっと文明的な姿になれた。

 そして、生存権の確保。外套を脱いだ拍子に角と翼を見せてしまったが、誰も驚きも騒ぎもしない。学内の人間が寛容なのか、はたまた腕輪の影響かはわからないが、自由に活動できるのはありがたいことこの上ない。


 …というか、私の魔力そんなに匂っていたのかな?


 「お疲れのようですねぇ。死んじゃいそう!」

 「…ほぉっておいてくれ。」

 と、頭の中に響く、ヒトを馬鹿にしたような口調の声に小声で答える。


 目をつぶると、瞼の裏にあの嘲笑を浮かべた、オリエンタルな服の邪神が現れた。


 ヴェータス。

 私を魔族にして、この異国の地へ送り込んだ実行犯は、先程から私が一人になるとこうしてちょっかいを出してきている。


「実行犯とは人聞きの悪い。」と袖で口元を隠して『オヨヨ』と泣きまねを始める邪神。

「きちんと、私は神聖帝国へ送り込みましたよ。あなたの結界が邪魔をしただけで。おまけに、『リアン・アルバート』という自然死した若者の枠もあげたじゃないですか。」


 それに関しては、ぐうの音も出ない。

 どうやら、魔術学院の枠は彼女が用意してくれていたものらしく、結果的に死なずにいられているのも彼女のおかげだということらしい。


 しかし、しかし私は騙されない。

 そもそも魔族に転生させなければ、諸々の問題は起きてすらいないのだから。


 「だから、魔族にしかできなかったっていってるでしょぉ。」

 と邪神はプンプンと怒ったような表情で、私に対して食って返してきた。

 「私自身、権限も力も半ば奪われた可哀そうで非力な神位にも関わらず、あなたのような哀れで惨めで無意味な青年を救ってあげたというのに。そんなわがままさんは、もう一度殺して、真相追及も復讐も何もかもできない魂の牢獄へ幽閉――」

 「大変申し訳ございません。」

 「わかればいいんです。」

 『仲間として一緒にやっていきましょうねー将来は明るいぜー』と楽しげに、歌う邪神。


 悔しいが、確かに、まあ、邪神の言うとおりだ。

 前途は多難だが、文字通り、十四歳に戻され、学生という身分が故に切り開ける道もある。


 私に学籍を譲ってくれた『リアン・アルバート』君に冥福を祈りつつ、まずはどうにかオリデンスへ帰ろう。


 そう、私は前向きに考えながら、邪神の歌声を子守唄に、深い眠りにつくのであった。

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