第三話 魔族に擬態は難しい
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ちなみに、魔族になった主人公は、ルルーシュを幼くした感じに翼と角が生えていると想像してもらえると嬉しいです。
オリデンス神聖帝国から西へ一万四千数百キロ 異国イタヴォル某所
一体どうしてこうなった?
「よぉしっし!今度は武装傀儡、こいつらはちょっと手ごわいよぉっ!」
赤絨毯の敷かれた洋風の室内。
その中央に陣取り、どこか興奮冷めやらぬ様子で叫び立てる少女を横目に、私は眼前に召喚された人型傀儡たちを見つめていた。
百八十センチほどで骨太の体格の人形が二体。
それぞれ全身灰色の服に身を包んでおり、右側の人形はアサルトライフルを構えている。
もう一方は近距離戦闘型なのか、右手にはコンバットナイフ、そして左手には小型丸鏡にも似た簡易式起動印が持たされていた。
おまけに、それぞれの傀儡の頭にはフルフェイスアーマーが装着されており、脚部にはおそらく機動術式が施されたコンバットブーツを履いている。
そのまま前線で運用できそうな、見事な現代型軽装歩兵。
それが二体、私の目の前にいた。
「使用してよい術式は?」
「機動補助術式のみ!では、始めぇっ!」
ブゥンという低い振動音と共に、二体の傀儡の目に灯がともる。
ワンテンポ遅れながらもどうにか、私は機動補助術式を展開するが、その間にも、セオリー通りに、コンバットナイフを持った傀儡が私へ突進を開始し、その背後からはアサルトライフルの弾丸が逃げ場をなくすように襲い掛かってきた。
距離は五十。もう飛ぶしかない。
私は前方の傀儡がナイフを持って突き出してきた右腕を踏み台にして、跳躍する。
そしてそのまま空中で前回りをして態勢を整え、勢いそのまま、ライフルの反動のせいか、上方向への反応が遅れた銃装傀儡にかかと落としを食らわせる。
流石のフルフェイスも全体重を乗せた一撃には耐えられなかったか、何か砕ける音がして、後方の傀儡の動きが止まった。
これで、まずは一体ノックアウト。
ほっとしたのも、つかの間、背中の方から急激な魔力の高まりを感じる。
急いで振り返ると、ナイフ傀儡が左手に持つ簡易起動印を展開し。こちらへ焼却呪文を詠唱していた。
こうなりゃ破れかぶれだ。
丸焼きになりたくない一心で、展開中の術式陣ごと左手刀で突き刺したところ、どうにか起動印を粉砕することに成功し、その後、傀儡が振り下ろしてきたコンバットナイフも、側頭部へのまわし蹴りに巻き込み無力化した。
「ナイスッ!実技は文句なしだね!」
と銃弾でずたずたになった赤絨毯の上で、黒い煙を上げる傀儡を前に口笛を吹く、金髪少女。
ここはおそらく応接間。
そして、私は何故だか、異国で魔術学院の制服を着て、教授を自称する少女の前で、物理攻撃主体の近接戦闘試験を受けさせられている。
一体どうしてこうなった。
…言うまでもない。
全ては、私の正体が人類の敵『魔族』だとバレ、危うく銃撃戦で駆除されそうになったところから始まったのだ。
◆◆◆
数刻前、オリデンス神聖帝国から西へ一万四千数百キロ 異国イタヴォル某所。
冒険者ギルド店内。
「打ち漏らすんじゃないわよおぉ!!」「「姉御、合点です!!」」
血管がぶちぎれるんじゃないかというほどの受付嬢の大絶叫と共に、店先、そこから続く街道やらあちらこちらの半鐘が鳴り響く。
カンカンカン、カーン。
惚けている間に、私は鐘の音と共に集まった一般市民の群れに包囲されていた。
「目標、眼前の魔族!放てぇ!!!」
鬼気迫る鬨の声がしたかと思うと、四方八方から機関銃の一斉掃射が始まり、一目散に地下道へ逃げようとする私に弾丸が襲い来る。
「逃げたぞ!追えぇ!」
私の背中に浴びせかけられるのは、梯子を下りる靴音に混ざった怒声。振り返ると、追ってくる人間全員目が血走っており、当たり前だが、捕まったら殺される。
生きていくために、冒険者ギルドへ登録しに来ただけでこの扱い。
魔族は人間の敵だが、ここまで迫害されるとは。
地下道での逃走劇は、もう無我夢中だった。
衣装自体は先ほどまでの黒の儀礼服のままだったが、靴をどこかに落としてしまったようで、薄汚れた地下道で歩を進めるたびに臓物のような、ぐちゅぐちゅとした物体を踏み抜く感触が足を襲う。
おまけに、魔族へ生まれ変わった影響なのか、髪は黒く、身体は縮み、背中には翼、頭には角が生えており、バランスがおかしくて仕方がない。
それでもどうにか追っ手を振り切り、下水の案内板に目を向け、どうやら先ほどから逃げ回っている場所は、オリデンス神聖帝国域外であると理解したのは、一時間も後のことだった。
察するに、排斥結界の影響で異国へ飛ばされたのだろう。
加えてその案内板には、前世の私の顔写真に、荒々しく赤ペンキで『×』が殴り描かれたポスターがいくつもあって、見ていて気分の良いものではなかった。
それはとにかく、このままの恰好では破傷風や感染症の恐れがある。
力任せにズボンの泥水にまみれた部分を引き裂くと、周囲を警戒しながら地上へ上がり、近くの公園に置かれた散水機で身体を洗い流すと、一軒の店が目に入った。
『フェルマータ魔術学院御用達呉服店』
店主は留守のようだった。
ひとまず、魔族の特徴である翼と角を隠すために、フード付きの外套をお店から拝借する。
…代金はつけておいてもらうことにしよう。
「近くにいるぞ、見つけ次第殺せ!」「はっ!」
などと惚けている余裕はなかった。
店先から聞こえてくるのは野太い声と金属音。
どうやら周囲を抑えられているようだったので、近くの賊木林へ逃げ込んでみる。
とにかく、奥へとにかく奥へと足を進め、行く手を阻むように数層にわたって展開された結界をこじ開けると、そこは切り立った崖になっていた。
「警告。」
と何やら怪しげで無機質な声が鳴り響く。
「市政監査局特別許可対魔緊急措置として、魔力残滓の確認されるこの林は、焼却処分となります。直ちに避難を。」
遠くではゴォンゴォンという巨大な装置を動かす駆動音すら聞こえてきた。
下を見ると相当の高さではあるが、地上には幅数メートルの堀。
その先には茶色の瓦葺の建屋があった。
助走をつければ、あの建物に飛び乗れるか?
いや、もう、これはやるしかない。
そう思った私は、身一つで大降下を行い、気が付いたらこの入試会場兼応接間に運び込まれていたというわけである。
◆◆◆
「しっかし、びっくりだね。杖も持たずとは!」
…驚くところ、そこですか?
勧めに従って革張りのソファーへ私が腰を下ろすと、彼女はこのように言葉を紡いだ。
名前はビャクレン。
若干十八歳ながら、このフェルマータ魔術学院の先生で、近接戦闘を始めとした『身体学』を専攻している自称教授。どうやら神族の血が入っているのか、紫の瞳には神印が浮かび上がっており、豪快な笑顔と八重歯が特徴的な、どこか勝気な印象の金髪少女。
はたから見れば眉目秀麗、なかなかの美少女だが、黒のマリンキャップに肩出しのTシャツ、それに革製のバックル付きミニスカートと奇抜な格好でだいぶ損をしている。
そんな風変わりな格好の彼女を前に、私は成り行きで入学試験を受けていたのだ。
「天井?ああ、私もよくやる、よくやる。」
テーブルの淵にひっかけていた足を下ろすと、彼女は楽しそうに口元緩める。
「ほらあそこ、直すのが面倒だから破れたままにしとるんよね。崖から飛び下りれば、正門の検査で待たされることもないからね。」
私こと、カーネリアン・ヴァイスは幸運だったらしい。
たまたま手に取った服がこの学園の一回生の外套で、たまたま飛び降りた場所では入学試験が実施されており、そしてたまたま、天井を突き破って通勤する常習犯がその入試面接官だったということなのだ。
もっとも、魔族じゃなければこんな状態になっていないのだろうが。
「見つけたときは流石に驚いたよ。最後に試験を受ける子が来ないなぁと思ってたら、物音がして。ひょっとしたらと確認しに行ったら、木箱に埋もれて伸びてるんだもん、服もボロボロで悲惨な感じだったし。もうちょっと遅かったら、帰ってたね。」
『ハハハハ。』と乾いた笑みを浮かべ話に合わせておく。
ちなみに試験を受けるはずだった子の名前は『リアン・アルバート』というそうだ。
十四歳の男子で、どこぞの名家の四男。
入学後は親元から離れて寮生活を希望しており、顔写真は書類不備のため存在しない。
しかし連絡もせず予定時間から三時間経っても現れなかったということで、中々肝の座った人物なご様子だ。
…転生被害にあった私が、他人のふりをするというのは中々心に来る。
が、生き残るためだ、仕方がない。
「しかし、そんなことよりもだ。」
と頭を振って葛藤する私に気にも留めず、目の前の少女はまじめな顔をして口を開く。
「君、魔族でしょ?なんだって、こんな人間の真似をしてるんだい?」
瞬間空気が死んだ。
というのは嘘で、まあそうだよなと私は半ばあきらめの境地にいた。
思い返せば、変装した後でさえ街中の兵士たちは私を的確に追いかけてきたのだ。
彼女が本当に術式に卓越した教授ならば、魔族だと看破するのは造作もないだろう。
しかし、自分の死の真相もわからず、家族...オフィーリアと再会する前に、殺されるのは耐えられない。どうにかして打開を―――
「いやぁ、惜しいよなぁ。」
ぼやく声に顔を上げると、目の前の少女は後頭部に両手を当てて、空を仰いで何やら考えているようだった。
...一体何が惜しいのだろう。
「君を殺すと私の悩みが振り出しに戻るっていう事実がだよ。」
と、無意識に首をかしげてしまった私に、金髪少女はどこか楽し気にまくしたて始めた。
「いやまぁ単純なことでね。最近の学生はどいつもこいつも、『フレア!』とか『バインド!』とか略式詠唱しかせんし、それが当たり前だと思いこんどるんよ。」
「はあ。」
「おまけに、『戦場では兵站管理と戦場破壊型大規模術式しか役に立たない』とかわかったような口をきいてねぇ。間違いなく近接戦闘技能を下に見てる。許せない。燃やしちゃいたい。」
燃やすのはダメじゃないでしょうか。
「え、燃やされる方が悪くない?あーっとなんだっけ…そうそう、君みたいに『攻撃術式の使えない対複数接敵時』の対処ができる人材は希少なんだよ。というか四百五十三人面接して、君だけだった。なので、弟子にしたいっ!」
「…なるほど。」
とそう顔をこちらへ突き出してくる彼女を前に、私は適当に頷くことしかできなかった。
確かに、異世界転生者たちがこの世界に現れてから、戦闘様式はずいぶん変わった。
極論、核兵器やら細菌兵器を後方から高軌道ミサイルか何かで打ち込んでいれば、相手の城壁と防御結界を破城槌や侵略術式で攻略する必要なんてないし、草原に布陣する兵力相手なら、塹壕、鉄条網、そしてその奥に機関銃を設置し一斉掃射すれば片付いてしまうのだ。
そう考えると、近接戦闘が必要になってくる人間は、本当に私のような皇族ぐらいしかいない。それを踏まえると、彼女が弟子不足に悩むのは納得できることなのかもしれない。
「そうだっ!」
などと私が考えていると、目の前の少女は何かひらめいたように口を開いた。
「魔族を死滅させないといけないのは、人間を殺戮し、社会を脅かすから。」
「…と、いうことは?」
「逆に言えば、君がそれに該当しなければいいのでは?」
これもまた、なんて極論。
仮にも魔族の私が言うのもおかしいが大丈夫か?
などと言い返している間もなく、目の前の少女は私の肩をつかんで、こう尋ねてきた。
「リアン・アルバート。君、人間を殺す気も、社会をひっくり返す気もないわよね?」
「ないです…でも――」
私、リアン・アルバートですら、ないんですが。
「はいっ!合格!」
彼女はそう嬌声にも似た大声を上げると、履歴書らしき書類にどこからか取り出した合格スタンプを押し込み、私は学寮という寝床と学院という安住の地を手に入れたのだった。
めでたし、めでたし。
…いや、大丈夫か、これ?




