イザイア視点
俺はイザイア・パルッソ。伯爵家の次男で騎士団に所属している。自分で言うのもなんだが、なかなか良い見た目をしてるのでそれなりにモテる。ただ、趣味を理解してくれる娘がいないのがなー……。
実は女装するのが趣味で、付き合って暫く経ってから実際に見せてカミングアウトすると、まぁフラれる。
『あなたに勝てる自信がない』
ってね。
俺は女の子が大好きだし、女装好きといっても男が好きなわけじゃない。
でも、俺のポテンシャルの高さの限界知りたいじゃん?やめらんないんだよなー。
「――おい、聞いてるのかイザイア」
「――!も、もちろん、聞いてるって」
いけね、ヴァルフレードと話してる最中だったわ。
「えーっと、セレーネちゃんがお前の親友である俺を、お茶会に招待してくれてるんだって?」
「ちゃんづけは止めろ、誰が親友だ。俺は実に不本意だが、セレーネが招待したいそうだ。招待状まで用意しようとしていたが、お前には勿体ないとやめさせた」
こっわ。射殺せそうな眼光放ちながら睨むのやめろよなー。
「勿体ないってなんだよ、折角のセレーネ嬢の招待状を阻止すんなよー。ったく、もちろん参加させていただきます、ってセレーネ嬢に伝えてくれ。子供の頃からの長い婚約期間を経て、やっと来月に結婚出来るんだ、良かったなー親友!」
うんうんと頷きながら、ヴァルフレードの肩を叩く。
「……つい最近、婚約解消の危機があったがな?」
「――ゔっ!まあまあ、無事?事なきを得たじゃん?」
おいおい、ジト目で俺を見るな!
だって、女装姿でデートしてみたかったんだもんっ!
俺だって、趣味を理解して受け入れてくれるような相手が欲しいよ!
◇◇◇
「初めましてイザイア様。セレーネ・モルテードと申します。本日はお越しくださり、ありがとうございます」
はいっ、可愛いー!
もう、小動物じゃん!
つか、マジでリスじゃん!
「本日は、お招きありがとうございます。イザイア・パルッソでございます。あのヴァルフレードが溺愛する婚約者殿にお会いできて光栄です」
大袈裟に恭しく頭を下げる。
「ところで……何故、今日のお茶会のドレスコードは仮装なんでしょう?」
セレーネ嬢はマジでリスの仮装してんだよ。
耳着けて、尻尾着けて、落ち着いた色味ではあるが、可愛らしいデザインのブラウンのドレスを着ている。
「ふふっ。その方が、イザイア様に楽しんでいただけるかと思いまして。今日はまた、以前お見かけした時より一段とお綺麗ですね」
仮装がドレスコードだからな。
勿論したよね、女装。そりゃあもう、気合い入れてバッチリよ。
お見かけした時、っていうと、ヴァルフレードとのデートの時だよな。誤解を招いて本当に申し訳ない!
「お気遣いとお褒めの言葉、ありがとうございます。……で、隣に立ってるお医者様が怖いんですけどー?」
愛らしい姿のセレーネ嬢の隣で、どちらかというと命を救うより奪う側の様な表情の、白衣を着たヴァルフレードが睨んでくる。
「お前、セレーネに見惚れていただろう。セレーネは渡さ――」
「もう、ヴァルフレード様。今日は折角の楽しいお茶会なのですから、そんな怖いお顔はおやめくださいね」
「――ゔっ……、わかった」
めっ!なんて、人差し指を立てて、唇を尖らせて少し怒った様な表情でヴァルフレードに言うセレーネ嬢。
身長が低いから必然的に上目づかいになってるそれは、ただそいつを喜ばせてるだけだからー。
ほら、耳まで真っ赤になってるよ。
「それでは、イザイア様。こちらへどうぞ」
◇◇◇
「おー、見事な庭園ですね」
セレーネ嬢に案内されたのはモルテード邸裏庭の庭園。
そこまで広くはないが、ピンクと白の薔薇が咲き誇り、真ん中にある大きな鳥籠の様なガゼボは、白い蔓薔薇に覆われていて見事な庭だ。
「ありがとうございます。こちらです」
セレーネ嬢にガゼボへと促されると、すでに誰かが座っていた。
「初めまして、美しい人。私はダニエラ・モルテードと申します。以後、お見知り置きを」
――ズ……ッキュゥゥゥゥウンッ‼︎
え、待って、何が起きた⁉︎心臓を撃ち抜かれたかと思った‼︎
バクバクする胸を両手で押さえる。
一目惚れってこういう事か!
しかし、目の前で笑みを浮かべているのはどう見ても美丈夫だが、名前は女性だ。
――どっちだ⁉︎
「は、初めまして、ダニエラ様……イザイア・パルッソと申します」
「どうぞ、お掛けください」
座る様にダニエラ様に促される。
「イザイア様、ダニエラは私の姉なのです」
――……っよし‼︎女性か⁉︎女性なんだな‼︎
それにしても、なんて男装が似合うんだ。
細かい仕草も男らしいが品がある。完璧じゃないか。
「セレーネ嬢の姉君でしたか、失礼しました。その……、男装が良くお似合いですね」
婚約者とかいるのかな、いるよな。
セレーネ嬢がヴァルフレードと婚約してたくらいだ。妹がしていて、姉がしてないわけない。
「ありがとうございます。イザイア様も大変お美しいですよ。オレンジ色のドレスと流れる様な赤い御髪が相まって、まるで炎の女神のようですね」
――ズッギュゥゥゥゥウン‼︎
……あぁ、もう……好き。
ダニエラ嬢のエメラルドの様に輝く瞳が、眩しい物でも見る様に細められたのを見て、俺の心臓は2度目の銃撃を受けた。
「俺と結婚してください」
思わずダニエラ嬢の手を握り求婚していた。
「……あ」
……やっちまった。
嘘だろ!何やってんだ俺‼︎
絶対、何だコイツって思われたじゃん‼︎
「いいですよ」
俺を見てニッコリと笑むダニエラ嬢。
「――え?……本当ですか⁉︎」
「えぇ、勿論。ただ、私は長子なので当家に婿養子として入っていただきますが、よろしいですか?」
「よ、よろしいですっ‼︎」
あー!俺、テンパリ過ぎ‼︎カッコ悪りぃ……っ!
「良かったですね、お姉様!」
「えぇ、本当に。聞いていた以上に素敵な方で良かった。イザイア様、本日のお茶会は私がセレーネに頼んで、イザイア様をお招きさせていただいたのです」
「えっ?」
ダニエラ嬢がなぜ俺を?
「実は、イザイア様と同じく、お姉様も男装の趣味があるのです」
「なので、私のこの趣味を理解してくれるお方を探していました」
「――⁉︎」
勢い良くヴァルフレードに目を向けると、顔色一つ変えずに言い放った。
「お前がセレーネの縁戚になるのが嫌だったんだ」
「……お前はそういう奴だよな。でも、よく会わせてくれたな?」
「……仕方無くな」
わざと隠してやがった。
セレーネ嬢の姉君の趣味を、子供の頃から付き合いのあるコイツが知らないはず無いからな。
ただ、いよいよ猶予が無さそうな俺の事を考えて、ダニエラ嬢に引き合わせてくれたんだな。
まったく、誤解されやすい性格してるぜ、親友。
「先日の、イザイア様の件をお姉様にお話ししたら、是非イザイア様にお会いしてみたいとお願いされたので、ヴァルフレード様にご相談させていただきました」
「……おい、ヴァルフレード。もし、セレーネ嬢から打診が無かったら?」
セレーネ嬢の言葉に、ジロリとヴァルフレードを見る。
「黙ってたな」
「……」
知ってたよ、こういう奴だよ。
まあ、とか言いながら?本当にギリギリになったら話してくれてただろうな、なんだかんだ良い奴だし。
「イザイア様、結婚後はお互いの趣味を一緒に楽しみましょう」
「そうですね。結婚後の生活が今から楽しみです」
「お姉様とイザイア様、本当に良かった」
「……はぁ、コイツが義兄になるのか」
俺がセレーネ嬢とヴァルフレードの婚約をぶち壊しかけたことも、結果オーライ!ってことで!