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いつか星の海へ


 実のところ世界は、本に似ているのかも。

 なんて事を考えてみる。


 これは思考実験、頭の体操。


 例えば私が暮らしている二十一世紀の地球(・・・・・・・・)

地球上のあらゆる事柄が全て、時間の流れに沿って事細かに記述されている「凄い書籍」があるとしたらどうだろう。

 著者は不明。きっと神様かな。

 人間はページの上を滑る読者の視線のようなもの。意識だけがパラパラ漫画のように、世界の上を移ろってゆく。

 でも、それだと未来も決まっていることになる。それもなんだか悲しいので、神様は白い本のページに思い付きで先を書いているのかもしれない。

 意外と私たちの反応や行動を見て、未来を変えてくれたり……なんて期待して。


 いずれにしても、カレルレンが何度も時間をループしていた原理の説明ができるかも。

「つまり何ページか前に戻れば、繰り返すというか。タイムリープしちゃうのかな、なんて」


「うむうむ、ユマっちの妄想力は、至高の域に達しつつあるね」

「もう、結構本気で考えたのに」

「あはは、ごめんー」

 トキちゃんが笑う。私は本を書棚に戻す。傍らの彼女は貸し出し簿のチェックをしてくれる。

 学校の図書室、いつもの放課後。ここは穏やかで静かな、心地よい時間が流れていた。


 私はこちらの世界に戻ってきた。

 たった一つの現実と、皆が認識しているこちら側に。


 エイリアンに侵略された魔法の世界。あれは確かに間違いなく、もうひとつの現実世界だった。

 そこで冒険をしてきた事が、遠い昔のように思える。

 ちなみに昔っていつ? 何日前? 考え出すと少し混乱するほど複雑だけど。

 私は並行して存在する異世界に行っただけじゃなく、数千年前の過去への旅も経験した。つまり横軸から縦軸の移動。

 更には過去から未来へと戻ったときは水晶の中で眠り、夢の世界も旅をした。世界は目まぐるしく変わるスクリーンのようで、幾重にも重なりあっているのかもしれない。

 私が認識している世界だけが、全てじゃない。

 井の中の(かわず)、目から鱗? 

 おかげで私は少しだけ成長した気がする。


「でもさ、よかった。なんだかスッキリした顔をしてる」

「そう? かな」

「うん。やり遂げたって感じ?」

「そうなのかな」

 トキちゃんの言う通り。達成感はあった。

 こんな私でも、皆の知恵を借りながらでも、世界を救う大冒険をしてきたのだと思うと、少し自信が湧いてくる。


 あの日――。

 エイリアン・クイーンとの最終決戦のあと、映画のようにエンドロールが流れることはなかった。

 悪いエイリアンは撃退され平和が戻ってきた。

 でも、それからがまた大変だった。

 強い魔法の力を持ってしまった魔法使いたちが、新しい戦後秩序を求め、現体制と対立し始めたのだ。

 カレルレンの世界ではすったもんだの末、私とグレイちゃんは『赤き月』の魔力開放を閉じることにした。

 魔法使いたちは暫くは不満そうだったけれど、人間は持て余すほどの大きな力を手に入れると、良くないことを考える生き物らしい。

 棚からぼたもちみたいに、手にした魔法の力なら尚更に。


 あの憎たらしい侵略エイリアンたちだってそう。

 宇宙を渡り歩く科学力を手に入れる前は、何処かの惑星の海の中で、平和に漂っていただけかもしれない。そこに未知の宇宙船が落下して、テクノロジーを偶然手にいれた彼女らは、やがて外界へと進出……なんて、妄想してしまう。


 とにもかくにも、

 カレルレンの、止まっていた時間が動き出した。

 繰り返していた時間のループの環がほどけ、未来に向けて時を刻み始めた。

 カレルレンは、私をこちらの世界に戻す魔法を考えてくれた。死なないと戻れない、というルールを書き換えて。


「で、さっきの『世界は神様の気ままなラノベ説』なんだけど」

 トキちゃんの声に我に返る。


「そんな世界は嫌すぎますか」

「ユマっちの説が正しいなら、図書館からのワープの件も説明がつくかもね」

「え?」

 トキちゃんは二冊の本を、書棚の中から引っ張り出した。

 片方は古典歴な有名SF小説。もう一冊は某小説投稿サイトで大人気な

ハイファンタジー。学校図書なので何度も読まれて古びている。

「ユマっちは二冊の本の間を、こう……渡り歩いたんだよ。偶然か必然か、それはわからないけれど」

 二冊の本を並べると、人差し指と中指をトコトコと動かし、本の間を歩かせた。

「なるほど納得」

「本の世界から登場人物は飛び出せないはずだけどね」

 トキちゃんは二冊の本を重ね合わせた。

「でも、中の人はきっと、夢を見ることは出来るよ。SF小説の主人公が、魔法の世界に想いを馳せる。みたいに」

「そっか、そうかも」

 すこしだけモヤモヤが晴れた気がした。

 そういえば、どうしてトキちゃんはこんなにも私の話を真剣に聴いてくれるんだろう?

 普通はバカにしたり、鼻で笑ったりしそうだけど。


「あたしさ、探してるんだ」

 不意に、トキちゃんは遠くを見るように視線を窓の外に向けた。

「……何を?」

「この世界に、私が来た理由(わけ)を」

 真剣な眼差しが、今度は私を捉えていた。


「えっ?」

 トキちゃん、いったい何を――?


「なぁんてね。冗談、じょうだん」

 本当に冗談なんだろうか。

 もしかして……。

 と、そこで図書室の扉が開き、二人の女子生徒が入ってきた。

「きたよー、ユマ」

「おいっす」


「あ、みんな……!」

「いらっしゃい!」

 SF同好会の天野さん、それとオカ研の部長、小鈴(こすず)さんだった。軽い挨拶を交わしつつ談笑する。放課後の静かな図書室が賑やかになる。


「あれ、姫っちは?」

姫乃(ひめの)さんは生徒会の仕事。岬はドラゴンに咬まれたショックで、修行の旅に」

 肩をすくめる小鈴(こすず)さん。

「意気地なしめ」

 きゃはは、と笑いが起こる。ちなみに彼を噛んだのはサクラちゃん(・・・・・・)だった。


「よーし、じゃぁいくか暇人どもー!」

「「「おー!」」」 

トキちゃんの声に皆が頷いた。図書室の黒板にチョークを滑らせる。


 ――第三回、異世界・現地ミィーティング!


 早速、私達は所定の位置につく。

 私が決まった書棚の本に手を添えて、時を待つ。

 他の三人は私の肩に後ろから手を乗せる。まるで騎馬戦に挑むような格好だ。

 時刻は3時48分。本の絶妙な配置と時刻、そして差し込む西日に輝く私のメガネ。

 すべての条件が揃った時、ゲートが開かれる。


「開け……異界の門」


 皆で祈るように目をつぶる。


 鼻をくすぐる図書室の古い紙の匂い。

 聞こえるのは野球部の掛け声と、バットでボールを打ち返す金属音。やがて、部室棟から微かに届いていた、吹奏楽部のホルンの音が、ふっと消えた。

「あ……」

 一瞬だけ、立っている位置がズレたような感覚がして、空気が変わった。


 ふわり、と甘い花のような香りがする。

 そしてゆっくりと目を開ける。


「やぁ、いらっしゃい」

 耳に優しい声が届いた。

 そこには眉目秀麗(びもくしゅうれい)を絵に描いたような美青年魔法使いが立っていた。

「カレルレン……!」

「待っていたよユマ。それとお友達も、ようこそ」


 私達四人は魔法円の中心に立っていた。

 おっとと、と一斉によろける。


「こ、こんにちはでございます」

「ご機嫌麗しゅう……賢者様」

「トキちゃんも天野さんもキャラ変わってるよ!?」

 カレルレンを目の前に、二人は淑女になっていた。


「うえぇええへへ……いい、いいわぁ」

「小鈴さんはもう少ししっかりしてください!」

 小鈴さんはむしろ悪化の劣情全開。若く美しい賢者様を見て、ヨダレを垂らさんばかりニヤけ顔になっている。


「はは、お友だちがいると賑やかでいいね。さぁこっちへ。ようやくお茶が手にはいったんだ。飲みながらお話ししよう」

「「「「はいっ」」」」


 白い壁を支える柱、さらに開放的になった部屋。屋根が半分無くなっていて、青空が見えている。

 瓦礫は片付いて、脚の修理されたテーブルと椅子に、私たちは案内された。

 半壊した西洋風の街並み。戦禍の跡も生々しいけれど、(つち)音があちこちから聞こえてくる。

 子供達の走り回る声に、商人の掛け声も。

 世界は着実に復興の道を歩んでいる。

「いろいろドタバタしていてね。この時季、雨が降らないのが幸いだよ。雨漏りは困るからね」

「何かお手伝いできることはありますか?」

「僕は飢えているから、お相手をしてほしい」

「きゃっ」

 ばたーんと小鈴さんが倒れた。興奮しすぎです。


「いっ、いやごめん。へんな意味じゃなくて、知識に飢えていてね。お話しをしてくれるだけでいいんだ。ここにいると役人やら魔法協会やらから、あれやこれやと催促が多くて……」

 カレルレンは少し疲れた顔で額を指で支えた。


「おー、白い制服姿のお姉さんがたが集まると、華やぎますねーー」

 お茶を運んできたのは、ピンク色の髪をポニーテールに結わえたサクラちゃんだった。ノースリーブのタンクトップにショートパンツ。すらりと長い手足に、背中の羽と尻尾。ファンタジー世界の竜人の娘、という感じがとってもキュート。


「これは夏服なんだ、っていうか、私も以前から制服だったよね?」

「ユマは地味すぎて、印象が薄いんですー」

「ひどい」

 相変わらずのサクラちゃん。でも元気になってよかった。お茶のポットをテーブルに置く。

「かわいーっ」

「かわいい!」

「超かわいい!」

「や、やめるですー、しかもボキャブラリの貧困層ですかー!?」

 皆で一斉にサクラちゃんを抱きしめ、頬擦りをして撫で回す。前回、これに交じろうとして岬くんが噛まれたんだっけ。


「ユマ、来訪、歓迎」


「グレイちゃん!」

 続いて、焼き菓子を運んできてくれたのは、グレイちゃんだった。銀髪のショートカットに大きな黒目、人形のような小顔が可愛い。宇宙人が擬人化したような女の子。青い薄手のワンピースをふわりと身に付けていて清楚な感じ。


「こっちもかわいーっ」

「マジかわいい!」

「超かわいい!」

「ユマ、たすけて」

 またもや女子高生集団にもみくちゃにされるの図。私はその間、カレルレンと視線を交わし、くすりと笑う。


「さて、今日はまた皆の知恵を借りたくて」


 カレルレンは空中に半透明のホログラムを浮かび上がらせた。

 それは壊れた円盤だった。銀色に輝く外側は見覚えがある。グレイちゃんの乗って来た円盤だ。


「塩の湖の底の地層から発掘された例の機体。基地は破壊されたけど、なんとか掘り出せたんだ」


「すごい、本物の円盤だわ」

「エイリアンの黒いヤツとはちがうのね」

 トキちゃんと天野さんが食い入るように見つめている。


「これを修理できれば、彼女を星に帰せるかもしれない」

「グレイちゃんを……故郷に!」


「修理、困難、期待、半分」

 グレイちゃんは少し悲しげに首をふった。


「超高度な科学文明の産物を、修理するのは難しいだろうね。でもこんな時だからこそ、僕は新しい目標をもって、未来につながる事に挑戦したいんだ」


「目標……」

「未来……」

「挑戦……」

 カレルレンのキラキラした瞳、前向きな意識に惹かれずにはいられない。皆もうっとりとその整った横顔に見惚れている。


「君たちには知恵を貸してほしい」

「でも私たちより科学者でもつれてきたほうがいいかも」 

 トキちゃんの遠慮をよそに、ゲートを通れるのはユマと同調できる年頃の子だけなんだ、とカレルレン。

「わかりました! みんなでがんばろ! わからなきゃ頭に知識を詰め込んで往復すればいいよ」

 トキちゃんの声に賛成、と皆が頷く。


「ユマ、感謝」

「グレイちゃんはともだちだもの」

「感激」


 カレルレンは空中のホログラムを透かして、空を見上げた。

 昼間の空にはうっすらと、おぼろな青い月と、淡く光る赤き月が昇っていた。


 行こう。


「いつか、星の海へ」


 <了>


【作者より】

 お読みいただきましてありがとうございます★

 物語はここでひとまず幕を閉じます。

 ですが、きっといつか、ユマや仲間たちは

 グレイちゃんを母星へと連れて行くことでしょう。

 星の海をこえて。科学と魔法の力で、きっと……!


参考文献

『宇宙戦争』 (H・G・ウェルズ)

 ※三脚型の侵略メカをリスペクトさせて頂きました。

『幼年期の終り』(アーサー・C・クラーク)

 ※オーバーロード「カレルレン」の名前をリスペクトさせて頂きました。

『夏への扉』(ロバート・A. ハインライン )

 ※冷凍睡眠で未来に戻る場面をリスペクトさせて頂きました。

偉大なる先人の古典SFに感謝と敬意を。

重ねてになりますが

ここまでお読みいただき、深く感謝いたします。



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― 新着の感想 ―
[良い点] たまりさま、連載の完結、お疲れ様でした。 きれいに纏まりましたね。 敵性エイリアンを倒した後に、ユマが異世界転移ができるようになっていたとは……。 同級生たちとのブレーンストーミングに関し…
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