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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第四章 神域開放
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92 切り裂き魔

 魔眼で捜索することおよそ三時間、皆が飽きてくつろいでいる頃だった。

 手を繋いで歩く男性と女性。普通に見ればただの恋人同士だが、その二人はだんだん人気の無い場所へと向かっていき、そのまま路地裏へ入った。二人が入った路地裏が見える媒体が無かったから、視界は男性に移しておく。


 仲良く歩いていたから不審な感じはしないけど、まあ、二人が襲われる可能性もある。

 二人は壁に寄りかかると、熱烈なキスを始めた。……え、気まずい。

 ただのバカップルだったか。


 視界を媒体の眼球に飛ばして仕切り直そうかと考えていると、唇が離れて、女性の顔でいっぱいだった視界が広がった。

 女性の顔は驚愕に染まり、腹部からはナイフの柄が生えていた。


「――っ、ダイキ!」

「おう!!」


 俺が位置を伝えた後、ダイキは即座に瞬間移動で現場に向かう。

 俺達は用意しておいた魔法陣の中に入り、ダイキが持っている懐中時計に刻んだ魔法陣が起動したところで空間転移。一気に全員が現場への移動を終える。


「誰だ!?」

「勇者だ! 大人しくしろ!!」


 ダイキの言葉の途中で、男は既に逃げ出していた。

 俺とリティが刺された女性のもとへ向かい、他の三人は男性を追った。


「大丈夫ですか?」

「げほっ、そんなわけ無いでしょ……」

「あ、生きてますね。生きているなら大丈夫です。治療するので大人しくお願いします」

「アカリ! 気を付けろ!」


 【状態魔法】で治療を行おうとしたところで、ダイキが声を上げた。

 ダイキ達の方を見ると、辺りが白い煙で覆われている。煙幕か?


「アカリ、来る!」


 リティの声を聞いて急いで細剣を構える。

 男は煙をかき分けるように突撃してきた。狙いはリティだ。


 リティは鎚を突き出して、男の胴体にぶつけた。振り回すよりも挙動は少ないが、鎚の質量とリティのパワーでかなりの威力があったらしく、男は呻き声を上げながら後方へ吹っ飛んでいった。


「――っ」

「リティ!?」


 リティの肩にナイフが刺さり、血が流れていた。

 吹き飛ばす直前、男に投げられたようだ。


「今治療を――」

「その前に、男の人」


 リティに促されて、先にトドメを刺すことに。

 細剣に【範囲魔法】の接触指定を行い、その範囲に空間切断を発動する。


 空間切断を付与した細剣を持って男に近づく。

 ぐったりと倒れていた男だったが、俺が攻撃しようとしたら勢いよく跳ね起きて、三本目のナイフで斬りつけてきた。左手を前に出して、敢えて刺されることで防ぐ。


 細剣を振るい、ナイフを持って前に出している右腕を切断。

 後ろに下がろうとしたところを斬りつけ、左足首を切断。バランスを崩して転倒したところで左腕を切断。

 最後に両足を根元から切断して、無力化完了だ。


「アカリ、大丈夫か? ――うおっ!?」


 駆け付けたダイキが達磨になった男を見て驚いている。


「やり過ぎじゃないか?」

「後で治すから」


 リティに傷を付けたんだ、これくらいは仕返ししてもいいだろう。

 そうだ、リティの治療をしないと。


「助けてくれたのね? ありがとう、感謝するわ」


 と、先に刺された女性が近づいてきてお礼を言ってきた。刺された腹部を押さえて、真っ青な顔をしている。

 そんな状態で礼も何もないだろうに……。仕方ない、先にこっちを治療だ。


 ナイフを抜いて状態復元で傷を癒す。

 傷はすぐに消えて無くなり、失われた血液も復元されていく。


「凄いのねえ。あの彼もあっさり倒しちゃったし」


 女性は恐る恐る刺されたナイフを拾いながら話を続ける。そんなことより早く治療してリティの方へ。あ、リティがもうこっちに向かって来ていた。白い肌に血が流れていて痛々しい。治療を……。


「強い男は好きよ……?」

「え?」


 言葉に驚いたのではない。

 その女性の行動が、予想外だった。


 女性は力無く寄りかかってきて、直後に痛みを感じた。彼女がナイフを持っていたことを思い出して、即座に突き飛ばす。

 脇腹を刺された。女性は被害者じゃなかったのか?


「アカリ!?」

「あ、ああ、リティ。俺は大丈夫、今治療するね」


 女性はダイキが戸惑いながら拘束していた。最後に不意打ちを喰らったけど、これで戦闘終了のはずだ。


「アカリが、先」


 ああ、俺の方が重傷か。女性に刺された驚きで傷の具合まで見てなかった。


――【状態魔法】状態復元。


「アカリ、大丈夫?」

「うん、もうすぐ治る」

「アカリのこと、心配で付いてきてよかった。やっぱり、危ないことする」

「今回先に怪我したのはリティだからね?」

「む、でも、アカリは、自分から怪我した」


 ナイフを防ぐために左手を使ったことか。素早く仕留めるためには仕方がなかったんだよ。


「アカリのことは、心配。大切だから、余計に」

「……リティ?」


 何か、熱が籠もったように話すリティに違和感を感じた。

 止血も何もしていないせいで、リティの肩から流れた血液が指先まで滴っている。

 その、血濡れの手に握られたナイフが、


「大事だから、死んで」


 俺の胸に刺さった。



=====



 地面に倒れる。


 リティのそれは、本心なのか?

 リティの様子はどこか変な感じがした。大切だから心配で、大事だから死んで欲しいと。

 あれは違う。リティはそんなこと言わない。


 でも、そう言われて俺は、嬉しかった。

 大切に思ってくれたのが、殺す動機が、生きるとか死ぬとか、どうでも良くなるくらいに。


 どこまでが本心なのだろう?


「アカリ! 早く治療してっ!?」


 ユユの声でぼんやりとしていた意識が戻ってくる。

 そうだ、取り敢えず治療をしないと。


 急激に怠くなっていく身体を動かしてナイフを抜き、状態復元を掛ける。

 リティはユユが拘束していた。青い光の紐のようなもので手足を拘束されている。

 リティにも状態復元を掛ければ、これで負傷者は達磨になった男だけになる。


「あ、れ……?」


 リティが目をぱちくりさせて戸惑い始めた。

 正気に戻ったようだから、ユユに言って拘束を解いてもらう。


「アカリ、わたし、アカリに……」

「あー、気にしなくていいよ。ちょっとチクリとされただけだし」

「……」


 うん、今のは無理があった。

 言葉は難しいから、俯いたリティの頭をぽんぽん叩いて平気だと伝える。


「なんでアタシ、捕まってるの……?」


 声のする方を見ると、俺を刺した女性がダイキに押さえられて戸惑っていた。

 リティと同じで、一時的に気が狂っていたようだ。正気に戻ったのは、状態復元を掛けたからかな?


「呪いか何かか?」


 二人ともナイフで刺されていたから、それがトリガーだったとか。ちなみに俺は状態維持で耐性があるから参考にならない。


「うーん……呪いならステータスに表示されるはずなんだがなぁ……」


 ダイキにも原因は特定できないとなると、状態異常とは違うのか?

 でも、それだと俺も気が狂ってないとおかしい。


「ん~……?」

「アカリ、その人……」


 リティの目線の先には、達磨になって血の池を生み出している男性がいた。

 ……危ない危ない、これ以上放置していたら死んでしまう。


 その後、状態復元を掛けた男性も女性と同じような態度を取り、謎が残ったままその日の捜索は終わった。

 男性は衛兵に突き出すか迷ったが、状態復元で正気に戻っていたため、襲ったのは初めてだったという言葉を信じることにして家に帰してあげた。どうやら記憶はそのまま残っているらしい。

 それと、念のため住所は確認しておいた。

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