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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第五章 問題児達の王国祭
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109 狂気の衆

 レストランでの食事が終わり、カルテと別れたときには辺りはすっかり暗くなっていた。

 いつもなら、【瞳の魔眼】で見回りをしている時間帯だ。見回り自体はスキルの熟練度上げのついでだったから本来ならやらなくてもいいんだけど、最近は斬り裂き殺人の件で真面目にやっているからな……。


 鞄の中から一枚の円盤を取り出して、上空に放り投げた。

 いい感じに建物の屋根上に乗ったのを確認して、円盤に刻まれた魔法陣を転移先に指定して空間転移を発動する。


 屋根上なら、あまり人に見られることもなく安全に視界を飛ばせるだろう。転移で自宅に戻ってもいいが、犯行を見つけた場合また外に出ることになる。それなら帰る前に見回りを済ませておきたいからな。


 20分程視界を転々と移していくと、何やら不穏な場所に行きついた。

 ……スラムか。危ないから行ったことないけど、町の外壁近くにはそういう場所があると知識としては知っている。


「……それにしてはなんか」


 なんだか騒がしい。

 スラムの住人は、怒り、戸惑い、その手には刃物を持っている。


 って、もろにいつもの現場じゃん。

 それでいていつもより規模が大きい。


 俺は視界を戻して屋根から降りると、走り出した。

 これは魔眼だけでは対処できそうにない。



=====



「なんだこれ……」


 スラム街に辿り着いたときには、酷いことになっていた。

 まだスラムの入り口だが、見ただけでは分からなかった血の臭いが酷い。


 角を曲がると、その臭いのもとが明らかになった。

 人が倒れている。何人も。

 呻き声が聞こえる。まだ生きている者もいるようだ。


 ……取り敢えず、治療しないと。


 手当たり次第生きている人間を治療していく。

 俺の【状態魔法】は自分用のスキルだ。【範囲魔法】で他人にも使えるが、自分に使うより魔力消耗が激しい。今日はオーク討伐の後で疲れているんだけどな……。

 『死神』の加護が何個か付いてるせいか、倒れている人が手遅れかどうか何となく分かってしまう。状態復元はどんな傷でも治せるから、手遅れというのはつまり、そういうことだ。


 死体を避けて瀕死の人から治す。

 全く動けない人達の治療が終わり、重傷から段々軽傷の人を見ていく。普通の治療と違い、ここからが厄介だった。


 治療中の患者が突然、足元の瓦礫片を手に取って振りかぶった。

 咄嗟のことに左手を前に出す。――衝撃と鈍い痛みが手の内に走る。


「……こ、のっ」


 相手の腕を押さえ、もつれ合いながら魔力を流して状態復元を掛ける。

 状態復元を掛けると狂気も消えて元通りになる。


 左手を見ると、掌が血で真っ赤に染まっていた。

 痛みはあるが、鋭利な刃物じゃなかっただけ軽傷だ。魔力の残量を考えると自分の状態復元は後回しの方がいいか。俺に狂気の伝染は起こらないようだし。


 ひとまず、危険な状態の人の治療は終わったし、治療は一旦中止にして、ここからは暴徒の無力化を優先した方がよさそうだ。

 伝染というとゾンビを連想するが、この狂気の感染者は感染者同士でも攻撃し合う。この近辺にはもう感染者しか残っていないから、俺にとっては敵同士が争っているだけ。いや、治療した人達は守らないといけないか。

 感染者はやはり知り合いから襲うようで、俺は近づかなければ標的にされない。お陰で治療中に横から攻撃されることはなかった。ただ、闘っている感染者達から深手を負う者、中には更なる死者が増えていく。


 既に全員怪我人だが、元気な感染者から無力化していく。

 近づいて、こっちを見たところを魔眼の視界強奪。


 一人ずつ確実に無力化していると、バチッという静電気のような音と共に紫電が舞った。


「ダイキ……」

「アカリか。これ、どうなっている?」


 一瞬後にはダイキが立っていた。ダイキも俺と同じように見回りをしていたから、この騒ぎを聞きつけてきたのだろう。

 よかった……この規模は俺だけでは厳しい状況だった。


「怪我している人はもう全員感染している。俺が治療した人達はもう大丈夫なはずだから」

「分かった。それなら一気に麻痺させてしまうか」


 ダイキから細い紫電が四方に伸びる。

 それが感染者達に次々と触れていった。感染者は紫電に触れるとピクリと反応するが、平気そうにしている。


「今のはマーカー。……これで下準備完了」


 ダイキは右手を上に掲げると、電気の塊を上空に飛ばした。

 そしてすぐに、雷が散り散りになって落ちてくる。落雷が終わった頃には、感染者は全員倒れ伏していた。


「さて、後は治療するだけだが……アカリ、この人数は大丈夫か?」

「正直微妙。でもまあ、ダイキのお陰で楽になったよ。これでもつれ合いながら治療しないで済む」


 とはいえ魔乏症にはなりたくないから、こまめに休憩を挟みながら治療することになった。



=====



 次の日、学園を休むことにした。

 夜中の騒動が身体に響いている。しかも治療に時間が掛かって、家に帰って寝る頃には既に日が明けそうになっていた。そんな時間に眠って、俺が起きられるはずがない。


 ドアに『起こさないでください』の貼り紙をして、寝て起きた頃には安定の昼過ぎ。夕方に起きるのもあり得ただけマシなほうだ。

 何か胃に入れておこうと思い、キッチンに向かう。


 手頃なパンと飲み物を確保してリビングの席に着いたところで誰かが階段を下りてきた。


「あれ? アカリ、今日はどうしたの?」

「おはようユユ。昨日はごたついて眠るのが遅くなったんだ。だから今起きたとこ」

「そうなんだ。学園は?」

「疲れたから休む」


 ユユは「そっかぁー」と俺のサボりを受け流しつつキッチンに向かった。ユユもちょうど昼食を食べに来たようだ。


「ユユも食べるなら何か作ろうか?」

「え、いいの?」


 自分一人分だったら作るの面倒だけど、他にも食べる人がいるなら多少手間を掛けてもいい。とはいえ食材を見てからだな。


「まあ、パン出しちゃったしハムと卵でも焼くか」


 減っても大丈夫そうな食材を選び、フライパンで焼いていく。おまけにスライスしたパンもフライパンで表面に焼き色を付ける。

 フィールもそろそろ食べにくるらしいから、三人分皿に盛ってテーブルに並べた。


「朝食っぽくなったけど」

「ううん、いつものお昼より美味しそうだよっ」

「そういえば、いつもは昼に何食べてるの?」

「時神の人が買い置きしてるものとか、適当に買ってきたものを食べてるよ」

「ああ、ディーロ先輩、うちの買い置きまで揃えてくれてるんだ」


 うちの居住者じゃないのに食材全部管理してる……。俺もそこら辺の家事やった方がいいのかな。


「アカリは今日、何かするの?」

「どうしようかな。特に決まってない」

「じゃあ遊べるねっ」

「今日はあんまり眠気が取れてないから、落ち着いたことしようね」

「うん。アカリと一緒なら、眠るのだって楽しいことだよっ」


 そう言ってくれると気が楽だな。

 まあ、気兼ねなく自分がしたいことをさせてもらおう。


「読みたくて図書館から借りてきた本があるんだけど、まだ手を付けていないんだ。折角時間があるから積んでる本を消化しようかな」

「それ、眠くならない?」

「一人だとね。だからユユも一緒に読もうよ。感想聞きたいし」


 借りた本は神話関係を集めたものだ。ユユにも読んで、実際どうなのか教えてほしい。

 食べ終わって片付けを済ませ、部屋に戻る。結局フィールは食べに来なかったが、階段を上るときに鉢合わせた。ご飯を作ったけど俺達は食べ終わったことを伝えると、何で呼んでくれなかったのかと少し拗ねた様子で文句を言われてしまった。


 その後は俺の部屋でユユと二人、ベッドの上でダラダラと読書を続けた。何度か体勢を変え、座って読んだり横になって読んだり。部屋に椅子はあるけど、長時間過ごすならやっぱりベッドが一番だ。二人でもスペース足りるし。

 お陰で夕方には昨日の疲れはすっかり抜けていた。

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